「データリテラシー」組織における必要性と、鍛え方を教えます。

データ活用の推進を試みる組織において、「情報システム部門や一部のデータサイエンティストによるPOC(Proof of Concept, 実証実験)はできるのだが、広く現場までデータ活用が推進しない」という悩みをお持ちの方がいるかも知れません。現場にデータ活用を定着させるためには、現場の人々のデータ活用に対する意識、つまりデータリテラシーを醸成する必要があります。本記事では、データリテラシーの意味とそれを身に着ける意義組織の中で定着させるための秘訣について解説します。

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1. データリテラシーとは「データを適切に使う能力」のこと

ータリテラシーとは「データを適切に使う能力」のことです。データを見たときに、そのデータの内容を正しく理解する「データを読む力」と、データを使って人に意思決定を促すための「データを伝える力」と、意思決定において適切な情報を使って分析をする「データを分析する力」の3つの要素から成り立ちます。

1. 1 データを読む力

データを読む力」とは、ウェブサイトやテレビ、仕事の中で提示されたグラフや数値などのデータの意味することを正しく理解する能力です。

世の中で流通しているデータの多くは作成者のメッセージが込められており、このメッセージを信じて良いのか、判断する能力といえます。作成者のメッセージが正しいかを判断するためには、「そのメッセージは本当なのか?」と、確認する姿勢が最も大切です。そのうえで、そのデータの出典や取得方法、数字の算出方法(パーセンテージの場合は、その分母と分子の意味など)を理解する必要があります。

したがって、データの出典に関する知識、データ算出方法に関する統計的な知識、また、そのデータの背景にあるビジネス上のコンテキストの知識が求められます。

データを読む力

  • データが正しいのか?を確認する姿勢
  • データの出典に関する知識
  • データの定義や算出方法の知識
  • データの背景の知識

1. 2 データを伝える力

データを伝える力」とは、データを他人にわかりやすく伝える能力のことです。

ビジネスの現場においては、他人を説得するために自分の主張を裏付ける証拠としてデータを用いる場面があります。データの入ったプレゼンテーションは、客観性があり説得力のある力強いメッセージを発信することできます。しかしながら、表現の仕方を誤ると、聴衆の「この数字は何を意味しているんだろう?」という疑問から、提案全体の信頼性を失うリスクもあります。

データを他人に見せる目的は、「相手に自分の主張を理解してもらい、相手に行動を起こしてもらう」ことなので、データの表現は「誠実に、透明性をもって、わかりやすく伝える」という点が重要です。例えば、折れ線グラフにおいて縦軸を操作し、ゼロ始まりではなくすると「売り上げが伸びている」という点は強調されますが、「そのような心証を操作する意図的なグラフを作っている人」という悪い印象を持たれる可能性があります。

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データを伝える力

  • データ表現に対する誠実さと透明性(倫理観)
  • データを可視化する能力

1. 3 データを分析する力

データを分析する力」とは、意思決定の際に、適切なデータを入手し、適切な分析をすることができる能力のことです。

具体的な例を挙げると、「自社の商品の強みを競合他社に比べて把握したい」というビジネス課題において、POS/販売データを用いてどのような性年代に受け入れられているのか?というアプローチをとる手法や、購入者にアンケート調査を実施し商品イメージからポジショニングマップを作成する、といった分析設計を考えられる能力を指します。

データを分析するためには、意思決定したいことをどのようなデータで判断するかを定義する「課題を設定する力」がもっとも重要です。課題を決めることで、後に続く分析のプロセス(どんなデータを使うか、どんな分析をするか、結果をどのように表現するか)における判断の基準が明確となり、分析をスムーズに進めることができます。その後、設定された課題に対する仮説の構築を行い、分析計画、データの収集、と分析実行を行う一連の流れを出来れば「データを分析する力」があるといえます。

データを分析する力

  • 意思決定における課題設定力
  • 仮説設定力
  • データを入手する能力
  • データを分析する能力

1.4 データリテラシーとデータサイエンスの違い

データに関係するスキルとして、「データリテラシー」のほかに、「データサイエンス」があります。データサイエンスは、より高度な分析をするための専門的な統計知識やプログラミング知識が必要で、習得に時間がかかるスキルです。一方、データリテラシーは、日々の仕事の中でデータを利用するための基礎的な知識であり、日々の生活や仕事の中でも身に着けることができるスキルになります。

したがって、データサイエンスは、データ分析を主業務として行うメンバーが身に着けたいスキルであるのに対して、データリテラシーは、データに触れる機会のある人、すなわち、すべての人に習熟してもらいたいスキルと言えます。

何か誰が持つべきか

データサイエンス

より高度な分析をするための専門的な統計知識分析をするためのプログラミングの知識

習得するために多くの労力がかかる

データ分析部署
データリテラシー

データを見て判断をする際に必要な基礎的な知識

⇒ 日々の生活や仕事の中で身に着けることができる。

データに触れる機会がある人

(=すべての人)

なお、最近では、小学校の学習指導要領でも、データ活用に関するカリキュラムが規定されております。データリテラシーという言葉こそ、使われていませんが、データリテラシーは小学生から学ぶべきコンテンツであると考えられています。

2. なぜ、データ活用組織の現場において、「データリテラシー」が必要なのか?

帝国データバンクの実施した「DX推進に関する企業の意識調査」によれば、DXを取り組むうえでの課題として、「対応できる人材がいない」(47.4%)や「必要なスキルやノウハウがない」(43.6%)など、4割超の企業が人材やスキルの課題を抱えていることが報告されている。

また、人材の課題に関し、「社内に導入しようとしても、その実務を進められる人材がいないことが最大のネック」(洋紙製造、静岡県)、「従業員に DX の考え方を定着させることが難しい」(配管冷暖房装置等卸売、熊本県)といったように、実務の現場においてデータ活用を進める人材の重要性が挙げられています。

出典:帝国データバンク「DX推進に関する企業の意識調査(2022年9月)」

一部のデータ活用組織において、データや分析環境の整備への投資や、データサイエンティストの採用に注力するケースがありますが、このようなケースにおいて現場のデータリテラシーがないと何が起きるでしょう?

一部のデータ分析チーム・情報システム部門の方は、積極的にデータ活用推進のために様々な分析を行い、現場部署へ提供を試みます。一方、現場の部署ではデータの有用性を理解することができず、結局、普段通りの慣れた仕事のやり方を踏襲し、新たなデータ活用の業務プロセスは受容されません。

 

したがって、よりデータを幅広く活用していくためには、幅広い現場社員のデータリテラシーを高めていくことが求められます

3. 組織の現場にデータリテラシーを醸成するための3つのステップ

データリテラシーは、特定の社員だけが持っていれば良いという訳ではないことを解説してきましたが、一朝一夕で身に着くものでもありません。さらに、正しいステップを踏まないと、現場の社員がデータリテラシーの必要性を感じられないどころか、データに対する抵抗感を増長してしまいかねません。

そこで本章では、社員が無理なく着実にデータリテラシーを身に着けるためのステップを3つに分けて解説します。

3.1 動機づけ:なぜ、データ活用が組織の中で重要なのか?を周知する

「データを活用する」ということ「業務の中の意思決定にデータを使うようにする」ため「現場の業務を変える」ということを理解する必要があります。つまり、現場の方に対しては、多少なりとも、変更に際しての業務の負荷がかかるのです。一時的な業務負荷を乗り越えた結果、仕事の効率は上がり業績は向上するかも知れませんが、その「一時的な業務負荷」に人は躊躇するものです。これは、人間の現状維持バイアスという特性であり避けざるを得ません。

この現状維持バイアスを乗り越えるためにも、「なぜデータ活用が大事なのか?」という動機づけが必要です。

動機づけの根拠はそれぞれの組織によって様々ですが、例えば

  • 一部の経験のある社員の経験・勘に依存してきた在庫管理をより効率的に行うためにデータ活用を進める必要がある。
  • 商品企画・開発におけるお客様のニーズを把握するために、より幅広い・客観的なデータを活用することで、競争力を高める必要がある。
  • 営業力の強化・効率化のため、顧客ごとの売上実績や進捗をリアルタイムでモニタリングし、有望顧客をデータにより判別する必要がある。

等が挙げられます。組織におけるデータ活用の必要性を現場において理解してもらうことで、社員それぞれのスキル向上とデータ活用による業務プロセスの改善に対し動機づけをすることができます。

3.2 現状把握:現場のメンバーのデータリテラシーを把握する。自己認識させる。

「なんとなく、うちの社員はデータリテラシーが低い」と、感覚的に感じることはあるかと思いますが、この抽象的なスキルについて、量的に現状把握することが必要です。現状を把握することによって、組織としてのデータリテラシー教育の必要性を社内で訴求しやすくなります。また、このチェックをした本人が、「自分のデータリテラシーが低い」ということを認識することで、自らの学習意欲を高める効果が期待できます。

以下のデータリテラシーのチェックリストは、著者の経験の中で実際に起きたことや、生活の中のデータの使われ方を観察して得られた知見をまとめたものです。自分や周囲のデータリテラシーのレベルを把握するのに是非ご利用ください。

<データを読む力>
□ ニュースや人から説明された数値について、疑うことが多い。
□ 折れ線グラフを見たら、縦軸がゼロからはじまっているか確認する。
□ 「平均年収●万円」と言われたら、年収のヒストグラムをイメージできる。
□ データに違和感があったら、ソースや分析方法を疑い別の情報ソースで確認する。

<データを伝える力>
□ データを人にわかりやすく表現する方法(グラフや色使いなど)を知っている。
□ 他人に数字やデータを説明するときにデータの出典を併記している。

<データを分析する力>
□ 意思決定の際、情報・データを集めることを心掛けている。
□ データを分析する際に、仮説を立てて分析をする。
□ 会社の内外に、どのようなデータが存在するか、理解している。
□ 因果関係と相関関係の違いを説明できる。
□ 「アイスクリームの売上が伸びると、海難事故が増える」理由を説明できる。

当てはまるものに、”〇”、当てはまらない/意味がわからないものに、”×”をつけてください。×の数について、

 0個:マイスターレベル、データリテラシーの新人や上司への波及に努めましょう。

 1~4個:中~上級レベル、おおむね理解しているので、継続して不足部分を充足しましょう。

 5以上個:初級レベル、データ活用に対して真摯に向きあいましょう。

3.3 教育の実施:幅広い社員に向けた教育の実施

より幅広い社員への「データリテラシー」の教育は、そのカリキュラムにも留意する必要があります。

データ活用には、統計分析の知識が必要、と考えがちですが、現場社員の数学・統計の知識レベルがバラバラな状況において、複雑な数式や統計の知識を座学で教えたとしても、現場でのデータ活用につなげることはできません。データリテラシーのカリキュラムは、できるだけ日々触れているデータを事例としたコンテンツとすることで、数学が苦手な方でも理解できるようする必要があります。

例えば、

  • アンケートや調査を使う部署であれば、母集団やデータの比較の考え方
  • システムから出力される量的データを扱うならば、その適切な集計方法とばらつきの理解
  • SNSのコメントなどの質的データを扱うならば、そのSNSの特徴や書き込んだ人のバイアスの理解

これらの事例を集めるためにも、データリテラシーのカリキュラムを考えるのは、現場においてデータに知見のある方が推奨されます。特に、現場での過去の失敗事例や、部下を指導する中で得られた知見などを共有することで、データリテラシー教育の受講者の理解を深めることができます。

  データリテラシー教育コンテンツ(例)

    • データ活用の必要性の理解
    • データ活用におけるメリットとリスク
    • 具体的な事例に基づくデータ活用の成功・失敗例
    • 様々なデータソースの種類とその特徴(実測データ、アンケート、など)
    • 数値の計算方法とその特徴(平均、割合、、)
    • データの表現・可視化の方法

まとめ

データリテラシーは、「データを適切に使う能力」のことであり、「読む力」「分析する力」「伝える力」の3つの要素からなります。このデータリテラシーは、特別に難しい知識ではなく、日々の生活の中で使える知識であり、データ活用を推進する組織においては、組織のメンバーが幅広く持っている必要があります。

幅広い社員に必須のスキル故に、教育カリキュラムの作成や講師の確保等の壁にぶつかることもあります。
当社では、DX人材、データ活用人材の育成支援も行っております。データ活用人材の育成にお困りの方は是非お気軽にお問い合わせください。

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古野電気様|DXワークショップで社内文化を形成し、デジタル化を加速する

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