データドリブンな意思決定の重要性が高まる中、「オルタナティブデータ」という言葉が注目を浴びています。これは単なる新しいトレンドではなく、未来の市場動向を予測し、新しいビジネスチャンスをつかむための鍵となる情報源でもあります。
本記事では、オルタナティブデータとは何なのか、その真価と活用方法はどのようなものなのか、魅力と可能性を紐解いていきます。
1.オルタナティブデータとは?
オルタナティブデータの定義
オルタナティブデータ(Alternative Data)とは、従来のデータソース(例: 企業の財務諸表やマクロ経済指標など)とは異なる、“新しい・非伝統的な情報源”と考えられるデータを言います。
「オルタナティブデータ」という言葉自体は主に金融業界や投資の文脈で使われますが、この文脈では、オルタナティブデータは従来の金融市場のデータや企業の公式な決算報告などとは異なる情報という意味で使われます。大きく分けると、以下のように使われます。
従来のデータ | オルタナティブデータ |
企業の財務諸表、株価、マクロ経済指標、市場調査報告など、公式かつ一般的に認知された情報源。 | ソーシャルメディアの投稿、衛星画像、ウェブスクレイピング結果、センサーからのデータなど。 |
投資業界で「オルタナティブデータ」と言われるデータとの特徴としては、以下の点が挙げられます。
- 大量かつ高頻度: ソーシャルメディアの投稿やセンサーデータなど、オルタナティブデータは非常に大量で、高頻度で生成されることが多い。
- 非構造化: トラディショナルデータは多くの場合、表やデータベースに整然と格納されているのに対し、オルタナティブデータはテキスト、画像、音声などの非構造化データであることが多い。
- リアルタイム性: オルタナティブデータは、その性質上、リアルタイムでの変動や更新が頻繁に行われる。
このような特性を持つオルタナティブデータを適切に処理・分析することで、従来のデータソースだけでは得られなかった深いインサイトや新しい価値を発見することが可能になります。
オルタナティブデータは非常に幅広いデータをカバーしています。以下は、オルタナティブデータの具体的な例です。
オルタナティブデータの具体例
- ソーシャルメディアデータ
ユーザーの投稿、コメント、いいね数、フォロワー数、トレンド、感情分析結果など。 - ウェブスクレイピングデータ
ウェブサイトから収集される価格情報、商品レビュー、在庫情報、求人情報、記事の内容など。 - センサーデータ
IoTデバイス、スマートフォン、ウェアラブルデバイスからのデータ。工場や農場、交通機関からのセンサー情報。 - 位置情報データ
GPSやモバイルアプリからのユーザーの位置情報や移動履歴。 - 衛星画像データ
土地利用、気象条件、建築活動、輸送活動などを捉えるための衛星からの画像データ。 - トランザクションデータ
クレジットカードの取引データ、モバイルペイメントのデータなど。 - Eメール受信データ
ユーザーが受信したプロモーションメールやニュースレターの内容や頻度。 - 検索クエリデータオンラインでの検索動向、特定のキーワードの検索頻度など。
- カスタマーサポートやコールセンターデータ:
顧客の問い合わせ内容、クレーム情報、コールの長さや頻度など。 - 店舗販売(POS)データ
店舗での商品の販売動向、在庫状況、顧客の購入履歴など。
トラディショナルデータとの違い
以下に、その主な違いを概説します。トラディショナルデータとの違いを知ることで、オルタナティブデータが具体的に理解できるでしょう。
トラディショナルデータ | オルタナティブデータ | |
形式と構造 | 多くの場合、整然とした形式(例:テーブルやデータベース)で提供されている。 | 構造化または半構造化の形式(テキスト、画像、音声など)であることが一般的。 |
取得の頻度・タイムラグ | 定期的(例:四半期ごと、年次ごと)な公開がされるものが多い。 | リアルタイム性を持つものが多く、日々、時々、あるいは瞬時に更新されることが一般的。 |
アクセスのしやすさ | 公式な情報源からの公開情報であるため、比較的アクセスしやすい。 | 特定の技術や方法が必要な場合がある。例えば、ウェブスクレイピングや専用APIの利用などが必要なケースが多い。 |
可能性 | 基本的なビジネス分析、財務分析、マーケット分析などの標準的なタスクに使用される。 | 新しい投資機会の発見、競合分析の深化、新しい市場トレンドの先取り、リスクの予測や管理など、伝統的な方法では難しい課題の解決や新しいインサイトの獲得を目的として使用される。 |
データを扱う側からすると、それがオルタナティブであるか従来のデータであるかはあまり関係がない
オルタナティブデータは従来の金融市場のデータや企業の公式な決算報告などとは異なる情報を指します。しかい、当社のようなデータ分析者・データ領域の人間からすると、オルタナティブデータも単に解析やモデル構築の対象となる「データ」の一つです。私どものような役割の人間にとっては、データの質、完全性、正確性、使いやすさなどが重要であり、それが「オルタナティブ」であるか「従来の」であるかはあまり関係ありません。
実際、多くのデータサイエンティストやアナリストは、異なる種類のデータソースを組み合わせて、より洞察に富んだ分析を行ったり、新しい予測モデルを構築したりします。そのプロセスの中で、オルタナティブデータは他のデータと同様に取り扱われることが多いです。
2.オルタナティブデータを活用すべき理由
オルタナティブデータを活用すべき理由は多くありますが、以下が特に強い理由となるでしょう。
リアルタイムでの洞察の取得
例えばソーシャルメディアの投稿やウェブトラフィックなど、オルタナティブデータの中でも特に、リアルタイムでのデータ取得が可能な情報は、迅速な意思決定や即座の戦略変更の大きな助けとなります。以下はその具体例です。
ソーシャルメディアでの反応
新製品の発売やキャンペーンの開始直後、ソーシャルメディア上でのユーザーの反応や感想をリアルタイムで収集することで、マーケティング戦略の調整や、潜在的な問題点をすぐに特定し対応することが可能になります。
ウェブトラフィックの分析
オンラインショップや情報提供サイトでの訪問者数や滞在時間、離脱率などのデータをリアルタイムで分析し、サイトの最適化や効果的なプロモーション手法を即座に見極めることができます。
センサーデータの利用
スマートファクトリーやスマートシティでのセンサーデータをリアルタイムで取得することで、機械の故障やトラフィックの混雑状況を予測し、事前に適切な対策を講じることができます。
予測の精度向上
トラディショナルデータに加えてオルタナティブデータを組み込むことで、分析の幅と深さが増し、より正確な予測が可能となります。市場の動向や顧客の需要を先読みすることができるようになります。
参考:『店舗開発における売上予測とは?精度を上げるポイントを徹底解説』
3.オルタナティブデータの活用事例
活用事例は様々ありますが、以下が活用シーンとして挙げられるでしょう。
投資業界
消費者のセンチメント(感情)分析
ソーシャルメディアやオンラインレビューサイトからのデータを使用して、特定の商品やブランドに対する消費者の感情や意見を分析。これにより、将来の売上の動向やブランドの競争力を予測するのに活用するなどです。
サプライチェーンのモニタリング
衛星画像データを活用して、工場や倉庫、港などの活動量をモニタリング。生産停滞や物流の遅延を早期にキャッチし、それに関連する企業の株価動向を予測するのに活用するなどです。
マクロ経済の動向分析
クレジットカードのトランザクションデータや検索クエリデータを利用して、消費者の支出動向や関心事を分析。これにより、経済の成長率やインフレ率などのマクロ経済指標の動きを先取り。
マーケティングリサーチ
消費者のセンチメント分析
ソーシャルメディアのデータやオンラインレビューサイトの情報を分析し、新製品やキャンペーンの受け取り方、ブランドに対する感情や意見をリアルタイムで把握。
製品の人気度・トレンド分析
ウェブスクレイピングを利用して、オンラインストアの売れ筋商品や価格動向、検索エンジンのキーワードトレンドから現在の消費者の興味・需要を分析。
こちらの記事にも、データ収集のポイントを紹介していますので参考にされてください。
「データ収集の重要性と技術的方法&よくある課題と対応策を解説」
広告キャンペーンの効果測定
位置情報データやモバイルアプリの利用データを基に、特定の広告キャンペーン後の店舗への来訪者数やオンラインでのクリック数を測定。
ターゲット顧客の行動分析
センサーデータや位置情報データを利用して、特定の店舗やイベントスペースでの顧客の動線や滞在時間を分析
リスク管理
オルタナティブデータの活用は多岐にわたり、リスク予測や管理の分野でもその可能性が広がっています。以下は、リスク予測や管理の観点でのオルタナティブデータの活用事例をいくつか紹介します。
信用リスク評価
従来のクレジットスコアリングだけではなく、ソーシャルメディアの行動、オンラインショッピングの履歴、スマートフォンの利用パターンなどのデータを使って、個人の信用リスクをより詳細に評価。
サイバーセキュリティの脅威検出
ウェブトラフィックのパターンや異常なネットワーク行動を監視し、未知のセキュリティ脅威や侵入をリアルタイムで検出など。
農業リスクの予測
土壌センサー、ドローン、衛星画像などのデータを利用して、天候の変動、害虫の発生、病気の拡散リスクを予測し、適切な対策を取る。
不動産市場のリスク評価
人口動態、交通状況、地域の経済状態などのオルタナティブデータを使用して、不動産市場の将来的なリスクや価値変動を評価。
4.オルタナティブデータを扱う上での注意点
前述の通り、私どもにとっては、データの質、完全性、正確性、使いやすさなどが重要であり、それが「オルタナティブ」であるか「従来の」であるかはあまり関係がありません。特にオルタナティブデータだからといってオルナティブデータを扱う時にだけ存在する特別な注意点があるわけではありません。オルタナティブデータを扱う際の基本的な注意点は、他の「普通のデータ」を扱う際の注意点と多くの面で共通しています。
ただし、オルタナティブデータは、その性質上、従来のデータとは異なる特有の問題や課題を持つことがあります。例えば、非構造化データ(テキスト、画像など)の扱いや、新しいデータソースからの情報取得の不確実性などです。そのため、これらの特有の課題も考慮することが必要です。
データの品質
正確性、完全性、一貫性を確認します。不正確なデータは誤った分析結果や判断を導き出す可能性があります。全てのデータが高品質であるわけではないため、データのクリーンアップ、整合性のチェック、外れ値の取り扱いなどが必要です。
データを活用する際になると、必ずと言っていいほど品質の問題が顕在化します。データ品質に関しては、以下の記事にも詳細を解説していますので、ぜひご参考にされてください。
データの理解
データの源泉、収集方法、変数の定義など、データの背景や文脈を理解することは非常に重要です。
プライバシーと規制
個人情報の取り扱いには慎重である必要があります。GDPRやCCPAなどのデータプライバシー規制に違反しないよう、適切なデータ保護とアノニマイズの手法を採用することが重要です。
データの処理
大量のデータを適切に処理、保存、管理するための技術や方法を使用することが必要です。特に、プラットフォームの技術などはこちらの記事もご参考にされてください。
バイアスの考慮
データが特定のグループや状況を過度に反映している場合、バイアスが生じる可能性があります。これはモデルの一般化能力に影響を及ぼす可能性があります。
オルタナティブデータには、収集方法やデータソースに起因するバイアスが存在する可能性が多くあります。これにより、不正確な分析結果や誤解を招く可能性があるため、注意が必要です。
継続的なモニタリング
データの質や情報源の変化を定期的に監視し、必要に応じて分析手法やモデルを更新することが重要です。
データの継続性
オルタナティブデータのデータソース(例:特定のアプリやウェブサイト)は、時には急に利用できなくなる可能性があるため、データ供給の継続性を確保する方法を検討する必要があります。継続できないものは、使わないという手もありますが、多くの場合都度判断していく必要があります。
過度の依存の回避
オルタナティブデータは”補完的な”情報源であるべきです。導き出される解釈の導出元をそれだけに依存せず、従来のデータソースと組み合わせることで、より確実な洞察を得ることができます。
データの解釈
オルタナティブデータは従来のデータとは異なる特性を持つことが多いため、正確な解釈や分析のための専門的なスキルや知識が求められます。上記のデータのバイアスがあることも多く、解釈には注意が必要です。
コストとROIの検討
オルタナティブデータの取得や分析にはコストがかかる場合があります。投資対効果(ROI)を評価し、コストと得られる洞察のバランスを検討することが重要です。特に、センサーデータを扱うものなどはコストが高まります。シミュレーションをしておきましょう。
5.オルタナティブデータの分析技術
オルタナティブデータの前処理とクリーニング
オルタナティブデータの前処理とクリーニングは、オルタナティブデータからの示唆出しに非常に重要なステップです。オルタナティブデータは、従来のデータとは異なり、形式や品質が一定でないことが多いため、特に注意が必要です。
以下は、オルタナティブデータの前処理とクリーニングに関連する一般的なポイントの例です。
- 欠損値の取り扱い
- 外れ値の検出と修正
- データの正規化と標準化
- テキストデータの前処理
- カテゴリデータの変換
- 時系列データの変換
- データの統合とジョイン
- 特徴量の選択と削除
- ノイズの除去
可視化とインサイトの導出
オルタナティブデータから有益な情報や知識を抽出し、それを効果的に伝えるプロセスが可視化とインサイトの導出です。特に、オルタナティブデータはその多様性や大量の情報量から、ビジュアル化を通じて初めてその価値が明らかになることが多いです。
データの可視化に関しては、以下の記事も有用です。ご参考にされてください。
まとめ
オルタナティブデータは、従来のデータソースを超えて多様な情報源からの知識を取り入れることで、データ領域の新たなフロンティアを切り拓いています。IoTの拡大、人工衛星技術の進化、そしてAIや機械学習の高度化により、このデータの量と質は飛躍的に向上することが予測されています。
しかし、その一方で、データプライバシーの問題やデータの透明性というエシカルな側面にも目を向ける必要があります。この二つの側面をバランス良く取り入れることで、オルタナティブデータは持続可能で有益な情報源としてのポテンシャルを最大限に引き出すことができるでしょう。
また、業界別のニーズに合わせたカスタマイズやデータの共有という新たな形のコラボレーションが、今後の市場での競争優位性を築く鍵となることが期待されます。
オルタナティブデータの活用をご検討中であればぜひデータビズラボへお問い合わせください。
状況に合わせたさまざまなサポートをご提供いたします。
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