データマネジメント領域で活躍するゆずたそ氏と、データビズラボ代表取締役永田が対談を行いました。
ゆずたそ氏は、数多くの開発案件を手がける合同会社風音屋の代表です。以下のご著書『データマネジメントが30分でわかる本』も出版されていらっしゃいます。
また、データビズラボ代表永田はデータ分析・可視化のコンサルティングやクラウドデータ分析基盤構築、データ人材育成の研修を提供しています。著書に、『データ視覚化のデザイン』があります。
この記事は、「データマネジメントを成功させるポイント」をテーマに、ゆずたそ氏との対談の要点を、永田が記事の形でまとめたものです。以下、大枠です。
- データマネジメントを成功させるポイント
- データの入り口の課題
- データマネジメントだけでは解決できない問題
目次
1.データマネジメントを成功させるポイント
データに関する問題の所在を明らかにする
いきなりですが、「データマネジメントの問題ではないと思われがちだが、実際にはデータマネジメントの問題であることも多いもの」って、ありますか?
ありますね。
例えばどんなことでしょう?
データ分析・可視化案件、高度な分析手法の案件と思っていても、分析手法云々の話ではなくデータを集めて繋げるだけで解決するものも多いです。
また、データ分析や可視化をしていく中で、ワンショットのものとしてやっていても、次にまた使いたくなったり、経緯、過去を知りたくなったりします。その時にデータ管理や整備の問題が浮上することはありますよね。
確かにそうですね。
過去の一時点との比較、経緯での推移を把握したくなった際にデータベース上では上書きされてしまっていてスナップショットのデータがなく、そもそも過去と比較して分析・可視化できないというのは結構あります。
そのままのデータの集め方だと分析自体はそこで頓挫してしまうので、そこからは収集するデータ構造含めデータマネジメントのイシューになったりします。
はい。一見データ分析に問題があると思われることは多いですが、それ以前の問題が存在していることは多いということを知ってもらえると嬉しいなと思います。
プロフィール
ゆずたそ様
合同会社 風音屋代表。合同会社 風音屋代表。Twitterアカウントはこちら。
リクルートやメルカリ、ランサーズなど多くの企業でデータ活用・デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進してきた。データ分析基盤やダッシュボードの構築を中心に、ITコンサルティングサービスを提供している。2021年12月に技術評論社から『データ整備の処方箋』(仮)を出版予定。慶應義塾大学経済学部卒。
Data Engineering Study モデレーター
Developers Summit 2021 コンテンツ委員
PyCon JP 2017 ベストトークアワード優秀賞
Developers Summit 2018 Summer ベストスピーカー
『個人開発をはじめよう!』著者
『データマネジメントが30分でわかる本』著者
異なる部署のデータをつなげる
多くのデータ案件のコンサルティングをしている中でお客様の刺さりが良いのは、分析しようとしているデータ以外を使う提案をしたり、質の異なるデータを融合させたり同時に見て理解できる提案をすることです。
ゆずたそさんは、この点に関してどう思われますか。
異なる部署のデータをつなげると、本当の営業活動の成果が見えたりしますね。例えば、営業部門とサポート部門ですと、解約状況やクレームのデータと営業の契約データなどですね。
これらをつなげて考えていくと、営業部隊が無理矢理契約させるということもなくなりますし、結果的にLTVが上がることにもつながります。
当社がお客様に初期段階のPoCで提供したり、お客様にデータを見て理解する重要性の肌感を持っていただく時も、組織の中にあるデータを横断的に俯瞰し融合させることが多いです。
よくやるのはコストセンター系とプロフィットセンター系のデータを融合させたりですね。お客様側では初めての試みなので、面白いことが出ることが多く、感謝いただくことが多いです。高度なインサイトを求めるよりも、やれば必ず結果が出る系の案件とも言えますね。
ですよね。データ分析をしたいという人たちだけですと、手元の与えられたCSVをもとにどうにかしようとするということも多いのですが、各々のデータを持ってきて分析・可視化するだけで結果が出たりすることは多いので、やって損はないなと思います。
当社のオウンドメディア内の「データ統合」の記事でも、この領域に関連する詳細情報を解説しています。
タスクフォース型の組織体制を組成
データマネジメントに限ったことではありませんが、データ領域のプロジェクトはそれらを推進する組織体制が非常に重要と考えています。ゆずたそさんのご経験でデータマネジメントがうまくいくケースでは、どのような組織体制をとっているケースが多いと感じますか。
やはりタスクフォース型(の組織体制)を強くすすめします。本業を行いながら関心がある人でプロジェクト推進するイメージです。
タスクフォース型で注意しなければいけないのは、本業のかたわらになりますのでどうしても片手間感があることから、責任・権限の所在が曖昧になってしまうこと、そしてコミットメントが薄くなってしまうリスクがあるかと思います。途中でいつの間にかフェードアウトしてしまう、ということがリスクですね。
それはありますね。なので、ベースとなる専任者の方は数名いることは前提で、それに加えて各部署からリソースを出していく、というのが理想かと思います。
ですので管掌役員の方や若手エースの方に入ってもらったりすると成功確率が上がりますね。また、データマネジメント案件やプロジェクトにあたっては、そのプロジェクトオーナーが
- データ戦略室/デジタル推進室的なファンクションにあるパターン
- 営業など部署の中で行うパターン
が見られます。それぞれにおいて、ゆずたそさんからの示唆などございますか。
前者の場合は現場のメンバーに話を通しておいたり、現場の実務的な理解やコミュニケーションが重要でしょう。
後者であれば営業部だけで全て終わらせるのではなくIT部門・デジタル部門などの横串組織と日頃から連携するのが大事になってくるでしょうね。
局所戦に勝つ
永田さんのご経験では、案件がうまくいきやすいコツやセオリー、王道のようなものはありますか?
データマネジメントに限らず、デジタル系/DX/データ分析プロジェクトを成功させるために重要なこととして、スモールスタートからクイックウィンをいかに出せるかが重要であることをこちらの記事でも書きました。
参考:『デジタルトランスフォーメーションの講演を200回以上やってきた私が受けたよくある19の質問に回答します』
クイックウィンを出しながら、組織の中で一定の信用をとり、プロジェクト予算も取りやすくしていくイメージです。
自分としては、以下のようなステップが一つの勝ちパターンかと思っています。
- 小さく起こせた成功を、社内に宣伝する(スモールスタート・クイックウィン)
- そうすると、その成功事例にあやかりたい人たちが、同じパターンを完コピして成功事例を作る。
- 同じ成功パターンが増えていく
- 別のパターンのデータ活用のための予算を取りやすくなる
- データ活用を自分の便益にしたいと考える経営層の一部が、データ活用の推進役を買って出る
そうですよね。まずは小さく勝って、現場の信用をとっていくのが重要かなと思います。現場の信用を取らずに進めてもうまく進みませんからね。
プロフィール
永田ゆかり(ながた・ゆかり)
データビズラボ株式会社代表取締役。アクセンチュア、楽天、KPMGなどを経て独立・創業。データ分析&データ視覚化(ビジュアライゼーション)のコンサルティング、GCPなどのクラウドデータ分析基盤構築、デジタル人材育成のコンサルティングを提供している。海外講演、国内での登壇、メディア掲載や新聞への寄稿多数。Google Women Founders Academy 2021。早稲田大学政経学部卒。
内閣府 日本学術会議 総合工学委員会 社会に資する可視化の小委員会 委員
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員
Tableau ZEN MASTER 2019/2020/2021
Tableau Ambassador
『データ視覚化のデザイン』著者
事業活動/営業活動という一つの大目標の中で進めていくこと
データマネジメントなどデータ、デジタルの取り組みや活動は初めてであることも多く、身構えてしまうことも多いですね。
データマネジメントといっても広義的な言葉であり実際はピンとこない方も多いです。そのようなとき、ゆずたそさんはどのようなことを考えながら進めてらっしゃいますか。
そうですね。(データマネジメントは)事業活動、営業活動という一つの大目標の中でやっていく必要があり、そうするからこそ逆算投資が出来ます。
こうすることで、かける投資が見合うかですとか、攻めの観点/守りの観点などが洗い出されるものと思います。
2.データの”入り口”の課題
現場のインセンティブと全体のインセンティブが異なる
データマネジメントの中でも、データ収集部分の課題として、主にどういったことがあると思われますか。
よくある問題なのですが、データの入り口部分に関して、現場のインセンティブと全体のインセンティブが異なることがあります。
例えば、営業メンバーにデータを入力してよ、と言ってもそれどころじゃないよということがあります。
たしかにそうですよね。インセンティブ設計の問題はデータのプロジェクトでは見落としがちですがデータ活用推進へのインパクトは非常に大きいですよね。そういった場合は、どう対応するのが良いと思われますか。
運用面の部分が重要ですね。
ここでしか営業成績や賞与のためのカウントをしないようにすると、かなり入力されたりします。
そもそもデータを入力しづらい(UX的観点)
確かに、運用面の影響は大きいですね。その他の面では、どういった課題があると思われますか。
いわゆるUX的な側面になりますが、一回一回の入力にあまりに時間がかかってしまうとデータが入ってこないケースがあります。
たしかに。
データ可視化もそうですが、時間がかかったり、わかりづらかったり、面倒くさかったりすると、すぐに離脱してしまいますよね。
UXやデータの使いやすさというポイントに関しては、以下の記事でもノウハウを公開しています。
その場合は、どのような対応が効果的だと思われますか。
この場合は入力者側にいかに楽にするかが重要ですので、UXの見直しが必要です。最低限のメモ書きでアシスタントが入力するようにするのも手ですし、自社でスマホアプリを開発するなどもありえると思います。
3.データマネジメントだけで解決できないこと
組織内の推進力やコミットメント
最適なプラットフォームや技術選定が済んだ後でも、やはり組織内での推進力がコミットメントがないとデータのプロジェクトの維持・管理、高度化のプロジェクトは簡単にぽしゃってしまうものですよね。
特にデジタル領域は高額なプラットフォームを入れたあと放置されており活用されていないケースは散見されます。当社はこのようなことを防ぐため継続的なワークショップやスプリント、タイムスパンを空けない形での研修を提供していますが、ゆずたそさんはこの点いかが思われますか。
はい。(データに)詳しい人を呼べばいい、という問題ではないというのはありますよね。データができるところはやはりその会社であり営業活動の中です。
そして最終的にそれを活かすのも企業活動の中なので現場の活動とは切っても切れないです。営業部のプロジェクトだったら、営業部の協力、そういった社内・現場のコミットメントを得られないと難しいですよね。
なので、社内で巻き込んでもらいやすいように働きかけており社内講演で他の部署の方にも気軽に参加してもらい一緒に頑張っています。
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