「2025年の崖」とは、企業が抱える古い基幹システムを起因とするシステム障害が、2025年以降に多発するリスクを指す言葉です。
老朽化したITシステムを刷新することなく2025年に突入すると、システム障害の発生数が3倍になると試算されています。
その背景にあるのは、IT人材の不足や多くの企業が導入しているSAP社の基幹システムの保守サポート終了です。
ただ、「2025年の崖」と聞いても、それは自社に関係あるのかないのか、具体的に何をすべきなのか、イメージできないという声が多く聞かれます。
そこで本記事では、システムの知識がない方にもわかりやすく、実務に即した視点から「2025年の崖」を解説します。
本記事のポイント
- 2025年の崖とは何なのか簡単に理解できる
- 新しい情報を反映してアップデートした最新版
- 具体的に自社で取り組むべき対策がわかる
「2025年の崖について知りたい」
「自社でやるべきことは何なのか知りたい」
…という方におすすめの内容となっています。
この解説を最後までお読みいただければ、「2025年の崖の基礎知識」はもちろん、2025年の崖の影響を受ける企業・受けない企業や、実際に取るべきアクションまで把握できます。
新しい情報を反映した最新版ですから、すでに2025年の崖について知っている方にとっても有益です。
ではさっそく解説を始めましょう。
目次
1. 「2025年の崖」とは
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」という56ページにわたる長文のレポート内に出てくる言葉です。
▼ DXレポートの目次
DXレポートとはDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目的として発表された文書で、DX推進ができなければ2025年以降に起こり得るリスクを指して「2025年の崖」と表現しています。
1-1. 概要を簡単につかみたい人向けのイメージ図
「概要を簡単につかみたい」という方は、以下の図をご覧ください。
ポイントは次項で解説しましょう。
1-2. 2025年の崖のポイント要約
2025年の崖のポイントを、専門用語をやさしい言葉に置き換えながら要約すると、以下のとおりとなります。
▼ 2025年の崖のポイント要約
- 将来の成長や競争力強化のためにはデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進すべきである。
- しかし、DX推進の妨げとなっているのが、企業が抱えている古い基幹システム(業務を総合的に一元管理するためのシステム)である。
- 古い基幹システムは、カスタマイズの繰り返しなどで複雑化・ブラックボックス化し、仕様や設計が把握しにくくなっている。
- 複雑化・ブラックボックス化した基幹システムを「レガシーシステム」と呼ぶが、レガシーシステムでは、システムを新たに刷新するにも費用や人的リソースがかさみ、刷新に踏み切りにくい現状に陥っているケースが多い。
- 仮にレガシーシステムを放置し続けた場合、問題が顕在化するのが2025年である。
- なぜ2025年かといえば、IT人材不足の加速と、SAP ERP(※)の保守サポート終了のタイミングが重なるからである。
※「SAP ERP」は長期間にわたって世界ナンバーワンのシェアを誇った基幹システムを指しています。世界で25業種・5万社が導入しており、日本国内では約2,000社が導入しているといわれます。
▼ SAP ERPの用語解説
SAP | ドイツに本社を置くソフトウェア会社。基幹システムではSAP社とアメリカのOracle社が世界の2大メーカー。 |
ERP | EnterpriseResourcePlanning:統合基幹業務システムのこと。調達、生産、在庫、物流、販売、財務・会計、経理、人事・給与など統合的に業務を一元管理するためのシステム。多くの企業で経営管理の中枢として導入されている。 |
SAP ERP | SAP社が提供する統合基幹業務システムを指し正式名称は「SAP ERP 6.0」。 |
1-3. 2025年の崖で具体的に起きるのはシステム障害
「2025年の崖」は抽象的な表現ですが、具体的に何が起きるのかといえば、データ損失やシステムダウンなどのシステム障害です。
レガシーシステム(古くなって複雑化・ブラックボックス化した基幹システム)に起因して、基幹システムに以下のトラブルが発生すると考えられています。
- セキュリティ問題
- ソフトの不具合
- 性能・容量不足
- ハードの故障・不慮の事故
2025年以降は、レガシーシステムに起因するシステム障害のトラブルリスクが【3倍】になると推定されており、経済損失に換算すると【最大約12兆円/年】の試算になっています。
これは国家レベルでの損失額になりますが、個々の企業レベルでいうなら、2025年以降もレガシーシステムを放置すれば、基幹システムがシステム障害を起こして、経営に悪影響を与えるリスクがあるということです。
1-4. 補足(1)SAP ERPの保守期限は2027年に延長
さて、ここでひとつ補足があります。
「2025年の崖」の概念が発表されたのは2018年9月ですが、SAP社は2020年2月に「SAP ERP 6.0」の保守サポート期限を2027年末まで延長することを発表しました。
つまり、SAP ERPの保守サポート終了に起因する2025年の崖問題は「2027年の崖」として後ろ倒しになったといえます。
ちなみに、延長保守料を支払えば、さらに保守期限を3年間延長し2030年末まで保守サポートを受けられるオプションも用意されています。
1-5. 補足(2)SAP社は新システムへの移行を促している
もう一点、補足として、
「SAP社の保守サポートが終わるとはどういうこと?SAP社がなくなるの?」
と疑問に思っている方もいるかもしれません。
そうではなく、SAP社が提供する基幹システムは現在「SAP S/4HANA」が主力で、「SAP ERP 6.0」は2004年に開発された古い商品です。
そもそも「SAP ERP 6.0」の保守サポート期限は2015年末までとされていましたが、2020年末→2025年末→2027年末……と、延長を繰り返してきた経緯があります。
SAP社は、「SAP ERP 6.0」のユーザー企業に「SAP S/4HANA」への移行を促しながら、ユーザー企業の要望に応えて、「SAP ERP 6.0」の保守サポート期限を延長している状況です。
DXの大指針となる「DXの羅針盤-よくある19の質問に回答」をダウンロードする
2. 「2025年の崖」の影響を受ける企業・受けない企業
ここまでお読みいただければ、2025年の崖の概要が把握できたことと思います。
となると気になるのが、
「うちの会社は影響あり?なし?」
という点ではないでしょうか。
2025年の崖の影響を受ける企業・受けない企業を整理しておきましょう。
2-1. 影響あり:レガシーシステムを抱えている
2025年の崖の影響を受ける企業とは、レガシーシステムを抱えている企業です。
参考:『レガシーシステムとは?放置するリスクと脱却時の5つのポイント』
ここでいうレガシーシステムとは、導入から長い期間が経過していて、その期間中にカスタマイズを繰り返し、複雑化・ブラックボックス化している統合基幹業務システム(基幹システム)を指します。
ブラックボックス化というのは、さまざまなプログラマーがシステムを改変していて、仕様や設計が把握しにくくなっている状態と捉えてください。
レガシーシステムのなかでも、特に前述の「SAP ERP」を導入している企業が要注意です。保守サポート終了の期限が迫っているためです。
2-2. 直接的な影響なし:レガシーシステムを抱えていない
一方、2025年の崖はレガシーシステムのリスクを指す言葉ですから、レガシーシステムを抱えていない企業は直接的な影響はありません。
例えば、そもそも基幹システムの導入の必要性がないビジネスモデルで、レガシーシステムどころか基幹システムを導入していない企業は、影響を受けません。
あるいは、数年以内に基幹システムを導入したばかりで、システムが複雑化・ブラックボックス化していない(レガシーシステムではない)場合も、2025年の崖の影響はありません。
2-3. 間接的な影響あり:取引先企業がレガシーシステムを抱えている
ただし、ひとつ注意しておきたいのが、自社ではレガシーシステムを抱えていなくても、関係性の深い取引先企業がレガシーシステムを抱えている場合です。
取引先企業が2025年の崖のあおりを受けてシステム障害を起こした場合、自社が巻き込まれるリスクがあります。
例えば、あなたがECサイトを運営しており、注文商品を顧客へ発送する業務を物流会社に委託しているとしましょう。
あなたの会社の基幹システムがレガシーシステムではなくても、委託している物流会社がレガシーシステムを抱えており、2025年の崖でシステム障害を起こせば、あなたの顧客への商品発送がストップしてしまいます。
自社の業務のうち、取引先の基幹システムに依存している分野があれば、2025年以降にトラブルが起きないよう、取引先企業と確認しておく必要があります。
3. 最新版「DXレポート2」における2025年の崖
さて、ここで情報のアップデートがあります。
「DXレポート」の発表から2年2カ月後の2020年12月、「DXレポート2」が発表されたのです。
▼ DXレポート2の目次
3-1. DXレポート2における2025年の崖
DXレポート2内では「2025年の崖」の定義に変化が生じる言及はなく、「2025年の崖とは何か」は、ここまでご紹介したように初回のDXレポートに基づいて理解しておけば問題ありません。
そのうえで、DXレポート2内で2025年の崖に触れている部分をピックアップすると、次の2点がポイントとなります。
- DXレポートでは2025年までにレガシーシステム刷新に取り組む必要性を指摘したが、コロナ禍の影響でDX推進は2025年を待つ猶予はなくなった。
- 2025年の崖という表現で危機感を示したが、DXレポート発表の翌年である2019年の調査によって、国内のDX推進への取り組みは想定以上に遅れていることが明らかになった。
3-2. にじみ出る政府の強い危機感
DXレポート2での主張を一言でいえば、
「企業は危機感を共有し意識改革をして、早急にDX推進に取り組むべき」
といえるでしょう。
政府として、
「国家として国内企業のDXを推進しなければ、国際的な競争力を失う。
引いては日本経済の衰退を起こしかねない。
だからDXを強力に推進しなければならない」
という強い危機感が背景にあることがうかがえます。
ここを押さえておくと「2025年の崖」のより深い部分をとらえやすくなるでしょう。
というのは、「2025年の崖」の表現はキャッチーでトレンドになりましたが、それこそが経済産業省の狙いでもあるからです。
大切なのは“2025年の崖そのものが何を指すのか”より、政府がキャッチーな言葉を使って企業を引きつけ、危機感を煽りながらも推進したい「DX」である、ともいえるでしょう。
3-3. 企業は何をすべきか
DXレポート2を受けて企業は何をすべきかといえば、やはり政府が推し進めるように危機感を共有して意識改革し、早急にDX推進に取り組むべきです。
なぜなら、政府の後押しもあって国内企業がこぞってDX推進に取り組むなか、この波に乗り遅れて取り残されれば、企業としての競争力を失い、事業存続さえ難しい状況に陥りかねないからです。
その点には、ぜひ強い危機感を持ち、
「DXができなければ会社がつぶれるかもしれない」
という気持ちで真剣に取り組んでほしいと思います。
DX推進を進めるうえで有益な記事を以下にリンクしますので、ぜひ参考にしてみてください。
▼ DX推進に役立つリンク集
4. 「2025年の崖」を回避するために取り組むべき2つの対策
ここからは、“古い基幹システム問題”という意味での「2025年の崖」に話を戻しましょう。
2025年の崖で、自社が崖から転落しないためにすべきことは2つです。
- 自社のレガシーシステムを刷新する
- 取引先企業がレガシーシステムを抱えていないか確認する
4-1. 自社のレガシーシステムを刷新する
ここまで見てきたように、2025年の崖は「レガシーシステム」に起因するものです。よって、レガシーシステムを刷新することが、唯一最善の対策となります。
ただし、ここで重要なのは、今後のDX推進を見据えてシステムを刷新することです。新しく導入するシステムは、DXを実現するうえで基盤となる必要があるためです。
よって、企業としてDXをどう推進していくかビジョンを設定したうえで、「そのビジョンを実現するために必要なシステムは?」という順序で思考することが大切です。
具体的な進め方は「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」にガイドラインとしてまとめられています。
また、データマイグレーション(データ移行)の観点からレガシーシステム刷新のポイントをまとめた記事が以下になります。
「DX 推進ガイドライン」とあわせて目を通し、レガシーシステムの刷新を進めていきましょう。
4-2. 取引先企業がレガシーシステムを抱えていないか確認する
自社のレガシーシステムだけでなく、取引先企業に2025年の崖のリスクがないか、確認しておくことも大切です。
特にアウトソーシング先の企業でシステム障害が起きれば、損害は自社に直結しますので、注意しましょう。
取引先企業がレガシーシステムを抱えている場合、具体的にいつまでに・どのような対策が取られるのか明確にしたうえで、進捗を確認していきます。
リスク回避が難しいと判断すれば、取引を停止し、2025年の崖のリスクがない企業へ切り替えることも選択肢のひとつとして考えておきましょう。
5. DX推進への取り組みが2025年の崖リスクを避ける本質的な解決策
ここまでお読みいただいた方にはご理解いただけているかと思いますが、2025年の崖を本質的に解決するために必要なのは「DX推進」です。
レガシーシステムから脱却し、新しいデジタル社会に適応したITシステムを導入することでDX実現が可能になります。
DXを推進できれば、企業としての競争力を維持し、事業成長や中長期的な経営安定につながります。
「何から手をつければ良いのかわからない」
「DXといわれても漠然としていてイメージがつかない」
そんな方には、以下の記事がお役に立てるかと思います。
DXをテーマとして海外・国内含めおよそ200回以上の講演やセミナーを行ってきたデータビズラボCEOが、19個の質問を厳選して徹底的に回答しています。ぜひご一読ください。
6. まとめ
「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表したレポートで登場した言葉で、企業が抱える古い基幹システム問題が、2025年以降にシステム障害などの多発という形で顕在化するリスクを指しています。
「2025年の崖」の影響を受ける企業・受けない企業は以下のとおりです。
- 影響あり:レガシーシステムを抱えている
- 直接的な影響なし:レガシーシステムを抱えていない
- 間接的な影響あり:取引先企業がレガシーシステムを抱えている
「2025年の崖」を回避するために取り組むべき対策はこちらです。
- 自社のレガシーシステムを刷新する
- 取引先企業がレガシーシステムを抱えていないか確認する
2025年の崖のリスクを避ける本質的な解決策は何かといえば、DX推進です。
2025年の崖問題をきっかけにして、DX推進に経営の舵を切ることが、企業の競争力を高めます。改めて、自社のDX推進への取り組みを強化していきましょう。
自社のDX推進についてお悩みの場合はデータビズラボへお問い合わせください。
データビズラボでは状況やニーズに合わせた様々なサポートをご提供いたします。
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