各種広告施策の影響度を調べるマーケティングミックスモデリングとは?

マーケティングミックスモデリング

Facebook広告、LINE広告、Google、Yahoo!などに広告を出稿したり、合わせて折り込みなどのオフライン広告を行なっても、「どの媒体にいくら費用をかけるのが最も良いのだろう・・・」そして、「どうやったら広告予算配分の最適化ができるのだろう・・」と悩んでいる方は多いでしょう。どのような事業体、業界であれ、広告(デジタル広告、オフライン広告問わず)の予算を最適に配分したいですし、「同じ予算を持っていればもっとも効果の高い媒体に予算を投入し、無駄をなくしたい」と思うでしょう。それを最適にしていくことこそがマーケティング部/デジタルマーケティング部のミッションである企業もあるでしょう。

「マーケティングミックスモデリング」は、売上データと売上に影響する要因と思われるデータを時系列で記録し、どの要因がどれだけ売上データに寄与したかを推定するものです。この推定をすることで、次回以降の投資配分をどうした方がよさそうなのかの見当をつけることができ、投資配分をチューニングしていくために使われます。

そこで本記事では、「広告予算の配分をどうしたら良いか」の一つの視座となるこの「マーケティングミックスモデリング」について解説します。広告予算最適化を目指す古典的・伝統的なアプローチではありますが、予算配分を考えるときの判断の一つの補助となるものです。

プロダクトやサービスがデジタルにシフトしマーケティング施策が複雑化している今、特にこの広告の予算配分のテーマは今後も大きな課題になっていくものと考えます。

1.マーケティングミックスモデリングとは?

マーケティングミックスモデリングとは一言で言うとどの要因がどれだけ売上データに寄与したかを推定するものです。

マーケティングミックスモデリングを行うことで、既存の広告予算配分からより効率の良い広告に配分し、下図のようなイメージで新たな予算枠に新たな媒体の企画を考えることもできます。

これを実現するためには、マーケティングミックスモデリングを理解する必要がありますが、すべてを一度に理解するには難しいものです。そこで、ここでは、マーケティングミックスモデリングを理解するのに外してはいけない重要なポイント4つを紹介します。

1-1.広告予算の配分を、過去のデータを教訓にチューニングする方法である

マーケティングミックスモデリングは、オフライン広告、デジタル広告問わず広告予算の最適配分を考える分析手法です。過去の広告データや売上データを分析し、広告間の影響や媒体別の広告出稿が全体のマーケティング施策の中でどの程度効果があり、影響があるのかを分析するものです。

多くの会社では以下のような質問が日々飛び交っているでしょう。

「どの媒体が最もROIが高いのか?」
「あと1000万TVCMに追加で投入していたらどうなっていたのか?」
「競合のキャンペーンで大きな影響があったのはどれか?」
「オフライン広告よりオンライン広告の方が効果が高いのか?」

マーケティングミックスモデリングは、このような問いに対して考える一つの視座をつくるものであり、限られた広告予算から最大の成果を得ることを目指すものです。

マーケティングミックスの4P

多くの人が「マーケティングの4P」をご存知かと思います。

<マーケティングミックスの4P>
Product(製品)
Price(価格)
Place(場所)
Promotion(プロモーション)

これがいわゆるマーケティングセオリーの基盤となるものであり、どの要素がビジネスをうまく導いているのかを考える要素でもあります。マーケティングミックスモデリングは、これらそれぞれの要素からどの程度成果が出せたのかを決定づけたり、今後の効果を予測し最適化していくという意味において、この4Pの理論と強く関わっています。

1-2.オフライン広告/デジタル広告相互の影響を加味して分析する

マーケティングミックスモデリングは、ざっくり言うとマーケティングの時系列データと売上を使った分析です。広告のタイプとして、オフライン広告とデジタル広告がありますが、ざっくり以下のようになるでしょう。マーケティングミックスモデリングは、これらの相互の影響も分析します。下記は、オンライン・オフラインそれぞれの例です。

オフラインオンライン
印刷物、新聞、雑誌コンテンツマーケティングなどの検索エンジン
TVPPC
ラジオメール
DM、カタログSNS広告
電車内広告etcアフィリエイトetc

マーケティングミックスモデリングでは、ベースとインクリメンタルと呼ばれる2つの部分に分けて考えます。

ベース:広告なしでも稼得出来た部分
インクリメンタル:広告投下の影響がある部分

マーケティングミックスモデリングを構築した後の効果の例としては、ちょうど下記のようなイメージです。

マーケティングミックスモデリングで現在の広告配分の効率性を鑑み、生成される新たな予算枠で新たな広告企画を考えたり、全体の配分を考えていく際に使います。

1-3.マーケティングミックスモデリングは数学的処理をベースとする

マーケティングミックスモデリングは、売上に影響する要因と思われるデータを記録し、それを構造方程式モデリングや多重回帰などの数学的処理をして、どの要因が、どれだけ売り上げに影響したかを推定します。

一般的には売上をターゲットに、製品/サービスの価格、TVCMへの支出、キャンペーン費用、雑誌広告、デジタル広告などの過去のデータを使って将来の良い判断に活用するものです。デジタル広告であれば、ウェブサイトの訪問者数やエンゲージメント数なども取り入れます。

広告効果の線形/非線形

広告費用に比例し売上が直線的に伸びていくものも、そうでないものもあります。直線的に伸びるタイプの場合、広告を出せば出すほど売上は上がります。しかし、TVのGRP(述べ視聴率)などはそのようにはなりません。あるところまでは売上にストレートに効いていきますが、あるところからは投資対効果が悪化するという現象が起きます。こうなると、広告を出せば出すほどより少ない成果になるという状態になります。その意味で、TVのGRPなどは非線形だと考えられます。TVCMの効果は、「残存効果(アドストック)」も加味して分析します。

▼効果のイメージ

1-4.異なるタイプのデータを必要とする

精度の高いマーケティングミックスモデリングを構築するために、通常は、質の異なる下記のようなデータを必要とします。データの粒度としては、最低日次データでなければ厳しいというのが正直なところです。

製品やサービスのデータ

製品や提供しているサービスのデータは、それらの価格情報とともに必要です。そして、どれが売れてどれが売れなかったかのデータなども必要です。ローンチしたばかりだから売れ行きが悪いのか?など、これらのデータは製品やサービスを多面的に理解する際に必要になります。

キャンペーンのデータ

何日間キャンペーンやプロモーションをしたのか、やキャンペーンの種類などのデータです。イメージしやすいものでは、配送料無料、キャッシュバック、ポイントバック、などがあるでしょう。

広告のデータ

広告がどの程度効率的だったのかを計測します。TVであれば、GRPが一つのメソッドになるでしょう。新聞、ラジオ、雑誌などもこちらに入ります。最近ですと、デジタル広告の比重も高く、各SNS広告などのデジタル広告の支出データや詳細がこちらです。

広告のデータは、通常社内のマーケティング部か、もしくは外部パートナーで使っている代理店が持っています。

季節性が理解できるデータ

季節性、シーズナリティといいますが、年末年始、クリスマス、夏季休暇シーズンなどに加え、こちらには休日や祝日のデータも入ります。

地理データ

ショップなどがある場合、その場所がわかるデータが必要です。都道府県、郵便番号なども入ります。

マクロ経済データ

インフレ率やGDP、失業率などのデータです。

売上データ

売上を変数に入れなければマーケティングミックスモデリングは実現できません。数量の場合もありますし、総額で考える場合もあります。ご参考までに、マーケティングミックスモデリングに重要となるPOSデータなどの売上データを扱う分析の仕方は、こちらの記事にも詳しく書いています。

分析初心者が売上データから示唆を見つけるのに欠かせない分析の基礎

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2.マーケティングミックスモデリングの始め方の4ステップ

上記の通り、全てを理解し実際ご自身の部署だけで完結させたり、全てを一人でやろうとすると現実的には大変です。しかし、自社でマーケティングミックスモデリングをスタートしようとしている場合、行うべきステップを紹介します。

2-1.問い/ゴール感を設定する

ゴール感の設定を行うことで、そのゴール、つまり今抱えている「問い」に答えるためにはどの程度のデータが必要そうになるのか、ということを逆算できます。

もちろん、マーケティングミックスモデリングの目的は広告の予算最適化です。しかしそれに加え、組織としての問い/ゴールの設定を明確にすることが重要です。

例えば以下のような問いが部署内の会話でこれまであったはずです。

「どの媒体が最もROI高いのか?」
「あと1000万TVCMに追加で投入していたらどうなっていたのか?」
「競合のキャンペーンで大きな影響があったのはどれか?」
「オフライン広告よりオンライン広告の方が効果が高いのか?」

      このような疑問を整理し、どういった問いに答えていきたいかを整理することで、どういったデータが必要でどれくらいに大変になりそうか、それはそもそも実行が出来るのかがプランニングできます。

      2-2.組織内の関係者からのコミットメントとデータへの理解を進める

      データ分析は決して組織内にいる一人の人の分析技術やスキルがあれば出来るというものではありません。

      マーケティングミックスモデリングを構築する際には統括が異なる組織内のいくつもの場所から大量のデータを収集しなければなりません。ここを打破するために組織内部の人と使用するデータセットに関して調整しておき、加工や処理に必要となる工数を見積もり、スケジュールを引いておきましょう。

      パッと思いつくだけで、下記のような担当/役割の人と調整する必要が出てくるでしょう。

      • 広告運用チーム
      • 営業
      • CMO
      • マーケティング部
      • CRM部
      • 代理店etc

      分析に使用するデータは広告予算のデータだけではなく売上データ、広告に合わせて契約者数、見積もり数、反響数などの変数のデータも必要になります。マーケティング効果の外的要因として、季節指標/経済指標なども入れモデリングを行うため自社データ以外の外部データも組み合わせ立体的に分析を行うこともあります。

      2-3.必要なデータのありかと質の確認をする

      マーケティングミックスモデリングにあたり、必要なデータが組織のどこにあるのかを確認します。また、「データの質」はクリティカルに重要になってきます。他の分析を行うときよりもマーケティングミックスモデリングを実現するときのデータの質に要求される水準は高いです。

      この文脈でのデータの質とは、主に以下3点です。

      • 継続的にそのデータが取れていること
      • 構造化されていること
      • そのデータが蓄積されるロジックがあること

      逆に言えば、これらの質が低い場合には、非常に時間がかかります。加えて、アウトプットの質も、データの質が良い場合と比較して必然的に劣ってしまいます。現実的には、マーケティングミックスモデリングを行いたいと思ったタイミングでは必要なデータは揃っていないことが多く、その場合はデータ収集・取得の戦略策定から入ります。その場合、論点としてはデータマネジメントになるため、下記の記事が参考になるものと思います。

      データマネジメントとは?導入のメリットや実践的な進め方を解説

      2-4.分析する

      収集したデータを合わせ、分析していきます。分析する際には、「データから言えることの限界」を理解しておくのが非常に重要です。

      マーケティングミックスモデリングは、それだけを行うサービスやソフトウェアもありますが、根底にあるロジックさえ理解していれば、自身で統計解析ツールや分析ツールを使って行うことも可能です。手軽なところで言えばExcelでもできますし、各種BIツールや統計ツールでも可能です。以下はマーケティングミックスモデリングを構築するのに活用できるツールの例です。

      RやPython

      RやPythonなどに習熟していればご自身でロジックを組むことができるでしょう。ご参考までに、Pythonを学ぶためのロードマップの詳細をこちらの記事に書いています。

      データ分析のためのPythonを学び始める時につまずかないための6つのステップ

      Exploratory

      Rを基盤とした統計解析ツールです。使い勝手がよくマーケティングミックスモデリングにもフィットしていると感じます。ご参考までに、Exploratoryに関してはこちらの記事に書いています。

      Exploratoryとは?|データ活用にレバレッジをかける革新的なツール

      各種BIツール

      各種BIツールも使えますが、統計的側面が強く、外部連携が必要になるケースもあるでしょう。SAS、Tableau、PowerBIなどどれも昨今は機能がリッチです。こちらの記事も参考になるものと思います。

      人気BIツール8つを詳細に比較【2022最新】

      Excel

      Excelでもできることはできますが、データが大量になると非常にストレスがかかるため、力技という印象です。継続的な運用をするならばExcelから脱却したほうが良いものと感じます。一般的に分析をする際にExcelとBIツールを比較した記事はこちらです。ご参考になるものと思います。

      【Tableauの使い方】Excelだけで十分では?なぜTableauが必要なの?

      3.組織でマーケティングミックスモデリングをうまくまわしていくコツ

      マーケティングミックスモデリングが活用できそうと思った方のために、組織で最大限にマーケティングミックスモデリングをコスパよく使うためのポイントを挙げます。

      3-1.マーケティングミックスモデリング構築にお金と時間をかけすぎない

      上述の通り、マーケティングミックスモデリングは全知全能の神ではありません。あくまで過去のデータから推定し、教訓として配分を考えるものです。お金と時間をかけすぎても出てくる示唆に釣り合わないということがないよう、バランスを考えましょう。

      3-2.出来る限り内製化/難しければ構築支援のみ外部専門家に託し、運用は組織で頑張るのが理想

      お金と時間をかけすぎない、ということと繋がっていますが、出来る限り内製化が理想です。なぜなら、自社の広告を一番理解しているのは自社の人だからです。しかし、最初のフェーズの構築や考え方、どのようなデータを使うかというのは極めてテクニカルな部分になります。

      その意味で、最初だけサポートをもらい、サポートをもらっている期間に自社で頑張ることの出来る体制を構築し、アルゴリズムを理解し、その後運用は自社で頑張っていくのが良いでしょう。自社で頑張る場合は下記のような方がいないと途中で頓挫してしまいますので注意が必要です。

      • 広告と統計に関する基本的な知識と経験
      • データ分析に関する知識、各種ツールへの実装力

        外部専門家を入れるにしても、自社でやるにしても、その後の運用が非常に大変な仕事になりますので強いコミットメントがなければ活用出来ず無駄になってしまいます。

        3-3.年に2-3回ほどモデル構築を行う

        外的な経済環境や季節変動、マクロ的な大きな変化もあるため、見直しや構築は年に数回行いモデリングをするのが良いでしょう。

        内部要因、外的要因含め、多数の変数を定量化し分析を行うのがマーケティングミックスモデリングです。これらは一回モデルを出して終わりではなく、継続的にモデルの精度を高め運用することが重要です。

        3-4.あくまで予算配分の判断の補助として使う

        マーケティングミックスモデリングは、精度の高い予測をするものではありません(精度が高い売上予測をしたい場合はLightGBMなど別の手段を使うと良いでしょう)。マーケティングミックスモデリングは予算配分を考える際のあくまで「補助」として使います。マーケティングミックスモデリングが100%正しい回答を持っているわけではないからです。

        マーケティングミックスモデリングと他のツールを使ったり、マーケティングミックスモデリングと他のインサイトを合わせたりして使っていくものです。

        4.まとめ

        マーケティングミックスモデリングを正しく構築・運用すれば、広告のROIを向上させることが出来ます。

        なぜなら、統計的にデータを使用することで、マーケティング活動から出来る限り経験上での推測を取り除き、予算を正確に配分し、季節やチャネル固有の要因を正しく考慮できるようになるためです。マーケティングにおいて、正確なデータがありそれらを正しく分析できれば、クリエイティブを設計したり顧客体験(CX)を生み出すための時間コストを投下出来るはずです。

        その意味で、マーケティングミックスのモデリングに投資することは、自社のマーケティングに自信を持てるようになる最初の一歩となるでしょう。

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