
データアーキテクチャは、データの統合、管理、アクセス、および利用のための設計原則と指針です。
先にイメージをもって頂くと、データアーキテクチャの図は以下のようなものです。
つまりデータの流れや使われているプロダクトなどが可視化されている図がアーキテクチャの図になります。
データアーキテクチャの概念や手法については、多くのビジネスリーダーや専門家にとって未知の領域であることもあります。そこで、本記事では、「データアーキテクチャ」というキーワードを徹底的に解説します。
目次
1.データアーキテクチャとは?
データアーキテクチャは、組織やシステム内でデータの効果的な管理と活用を実現するための設計と構造のことです。データアーキテクチャは、データの収集、保存、処理、分析、保護などのプロセスを統合し、一貫性と効率性を確保します。
適切なデータアーキテクチャによって、データの信頼性、可用性、セキュリティを高め、ビジネス上の意思決定や戦略策定に有益な情報を提供することができます。
データアーキテクチャは、データのフローと関連するシステム、プロセス、テクノロジーの全体像を包括的に考慮し、柔軟性と拡張性を備えたデータ基盤を構築するためのガイドラインとなります。
DMBOK2での定義
DMBOK2では、データアーキテクチャを以下のように定義しています。
企業の(組織構造に関係なく)データニーズを明確にし、ニーズに合うマスターとなる青写真を設計し、維持する。マスターとなる青写真を使ってデータ統合を手引きし、データ資産をコントロールし、ビジネス戦略に合わせてデータへの投資を行う。
つまり、データアーキテクチャは、組織のデータ要件を特定し、それに基づいてデータモデルやデータストア、データフローなどの構成要素を設計し、データの有用性、効率性、信頼性、セキュリティを確保するためのプロセスです。データアーキテクチャは、組織のビジネスニーズを満たすためのデータ管理戦略の一部として位置付けられます。
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2.データアーキテクチャを設計・改修していくことが重要である理由
組織にとって重要となるデータアーキテクチャの要素は以下です。
データの一貫性と信頼性の向上
データアーキテクチャは、データの一貫性と信頼性を確保するためのフレームワークです。データの標準化、品質管理、整合性の維持などの手法を使用して、データの正確性と信頼性を向上させることができます。
データ品質にも影響を与えます。以下の記事にも品質の具体的アプローチを掲載しています。
参考:『データ品質とは?品質評価項目や品質を向上させるための実務的対策を解説』
効率的なデータマネジメント
データアーキテクチャは、データの効率的な管理を実現するための設計とルールを提供します。データの組織化、分類、分割、保管、アクセスの仕組みを整備することで、データの取得や利用、変更、削除などを効率的に行うことができます。
参考:『データマネジメントとは?実戦前に知っておくべき最低限の基礎知識』
柔軟性と拡張性の確保
データアーキテクチャは、組織の成長や変化に対応するための柔軟性と拡張性を提供します。データの構造や統合方法の設計において、将来の拡張や新しい要件への対応を考慮することで、システムやプロセスの変更がスムーズに行えます。
リスクの軽減とセキュリティの向上
データアーキテクチャは、データのセキュリティとリスク管理にも役立ちます。データの保護策やアクセス制御の仕組みを設計し、データの機密性や完全性を確保することで、セキュリティリスクを軽減することができます。
3.データアーキテクチャの設計プロセスによって生み出される成果物例
データアーキテクチャの設計プロセスによって生み出される成果物は、以下のようなものがあります。これらの成果物は、データアーキテクチャの設計と実装をサポートし、データマネジメント戦略の一部として組織内で活用されます。
エンタープライズデータモデル
データモデルは、組織内のデータ要件を表現するための抽象的な記述です。データモデルは、エンティティ(データの種類や要素)、属性(データの特徴)、関係性(データ間の関連や結びつき)などを定義します。主なデータモデルのタイプには、概念モデル、論理モデル、物理モデルなどがあります。
DMBOK2より引用
参考:『データマネジメント知識体系ガイド(DMBOK)とは何か?』
データストレージ設計
データストアは、データを格納・管理するための物理的な場所やメカニズムを指します。データアーキテクチャに基づいて、データストアの設計や構成要素(データベース、データウェアハウス、データレイクなど)が決定されます。データストア設計では、データの保存形式、データアクセス方法、データセキュリティの要件などが考慮されます。
詳細は以下の記事を参考にされてください。
データフロー図
データフローは、データの移動や変換のプロセスを示す図やドキュメントです。データアーキテクチャに基づいて、データのフローと変換手順が可視化され、データの入力元から出力先までの経路や処理手順が明確化されます。データフローは、データ統合、ETL(抽出・変換・ロード)、データパイプラインなどの活動を表現します。
4.データアーキテクチャの目的
データアーキテクチャの究極の目的は、事業とデータを結び付けることです。事業上の目標や要件に基づいてデータの設計や管理を行い、データを事業の価値創造や意思決定のサポートに活用します。
具体的には、以下のような役割・目的があります。
データの効果的な活用と分析
データアーキテクチャは、組織内の関係者が意思決定に必要なデータにアクセスできる環境を構築します。適切なデータの収集と整備により、正確かつタイムリーな情報を提供し、データ分析の質を向上させます。データの構造化やデータモデリングによってデータの意味を明確化し、データ分析やビジネス上の意思決定に活用するための基盤を提供できるためです。
データフローの効率化
良いデータアーキテクチャを作ることで、データの流れの効率化します。データの一元化や統合により、情報の重複や不整合を減らし、データの流れや処理の効率を向上させます。
データガバナンスの確立
データアーキテクチャは、データガバナンスの枠組みを確立する役割も果たします。データの品質管理、データセキュリティ、データの法的要件や規制への適合など、データの適切な管理とコントロールを促進します。
データガバナンスの実務を掲載している以下の記事もぜひ参考にされてください。
5.データアーキテクチャの設計プロセス
データアーキテクチャの設計における一般的な手順は以下のような進め方があります。
Step1 ビジネス要件の理解
データアーキテクチャの設計においては、まず事業上の要件や目標を理解することが重要です。組織の戦略やビジネスプロセスを把握し、データがどのように活用されるかを明確にします。
Step2 データの評価
組織内のデータ資産を特定し、データの種類、形式、ソース、所有権などを評価します。データインベントリの作成やデータの品質評価を行い、データの現状を把握します。
Step3 ビジネスモデルとデータモデルの定義
ビジネスモデルとデータモデルを作成します。ビジネスモデルでは、組織のプロセス、関係者、データフローを定義し、データモデルでは、データの構造や関係性を表現します。
Step4 データアーキテクチャの設計
データアーキテクチャの設計を行います。データのストレージ方法、データ統合手法、データセキュリティのポリシーなどを定義します。また、データの流れや処理の詳細な設計も行います。
Step5 テクノロジー(技術)の選定
データアーキテクチャに使用する技術やツールを選定します。データベースシステム、ETLツール、クラウドサービスなど、組織の要件に合わせたテクノロジーを選びます。
Step6 ガバナンスフレームワークの策定
データガバナンスの枠組みを設計します。データの品質管理、データセキュリティ、データアクセス権限など、データの管理とコントロールに関するポリシーや手順を定義します。
Step7 実装計画と展開
データアーキテクチャの実装計画を策定し、段階的な展開を行います。データの移行やシステムの統合など、実際の環境への導入を計画し、適切なテストと監視をします。
6.データアーキテクチャ設計・実装時の課題と注意点
データアーキテクチャの設計と実装をする際には、以下のような課題や注意点があります。
複雑性と柔軟性のバランス
データアーキテクチャは、データの複雑性に対処しながら、将来の拡張や変更にも柔軟に対応できるように設計する必要があります。複雑性の増加が設計を困難にし、柔軟性の不足が将来の変更や成長に制約を加える可能性があります。
データ品質と一貫性の維持
データアーキテクチャの設計では、データ品質の維持と一貫性の確保が重要です。データの正確性、完全性、一貫性を保つための適切なプロセスや品質管理手法を導入する必要があります。
参考:『データ品質とは?品質評価項目や品質を向上させるための実務的対策を解説』
データセキュリティとプライバシーの保護
データアーキテクチャは、データのセキュリティとプライバシーの保護にも配慮する必要があります。適切なアクセス制御、データ暗号化、セキュリティポリシーの適用などの対策が必要です。
データの統合と相互運用性
組織内の異なるデータソースやシステムの統合と相互運用性を確保することも重要です。データの統合手法やインターフェースの設計に注意を払い、データの一元化や効果的なデータの流れを確保する必要があります。
テクノロジーの選定と進化への対応
データアーキテクチャの設計では、適切なテクノロジーの選定と将来の技術進化への対応も考慮する必要があります。最新のテクノロジーとベストプラクティスに対する情報収集や常に進化するデータ管理の要件に対応することが求められます。
組織の文化と変革の管理
データアーキテクチャの設計や変更は組織全体の文化やプロセスにも影響を与えます。変革管理や組織の意識改革を適切に管理し、データドリブンな組織文化の構築に向けた取り組みを行う必要があります。
まとめ
データアーキテクチャは、データの組織化、管理、利活用に関する設計とルールの枠組みです。
データアーキテクチャは組織にとって重要な要素であり、データの効果的な管理と活用を支援します。組織がデータドリブンなビジネス環境を築き、競争力を維持するためには、データアーキテクチャの設計と継続的な改善が不可欠です。
データアーキテクチャは大きなプロジェクトになることが多く、リソースも多大にかかり負荷も大きいです。しかし、データアーキテクチャは枠組みを捉えるため投資対効果が高いです。ぜひ頑張って一つ一つの作業を丁寧にしていきましょう。
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