競争が激化する市場環境において、データ分析は新たな成長戦略を支える重要なツールとなりつつあります。商社においては顧客ニーズの的確な把握、潜在的なビジネスチャンスの発掘、業務効率の向上など、データ分析はさまざまなメリットをもたらします。
しかし、データ分析を始めるには、単に分析ツールを導入すれば良いわけではありません。経営層のコミットメントや適切な人材配置、データ基盤の整備など、導入前に準備すべきことは多いです。
本記事では、商社がデータ分析を成功させるために必要なことをまとめて解説。データ分析の具体的な活用例も紹介します。これらのポイントを踏まえ、自社の成長戦略に合わせてデータ分析を導入することで、競争力を強化し新たなビジネスチャンスを獲得できるでしょう。
目次
データ分析における専門商社と総合商社の違い
現代において、データ分析は企業の競争力を大きく左右する重要な要素です。商社においても、事業の効率化や新たなビジネスチャンスの創出など、データの利活用によりさまざまなメリットを得られるでしょう。
しかし、専門商社と総合商社では、データ分析の活用方法に違いがあります。強みを活かすためには、それぞれのデータ分析における特徴を理解することが重要です。
まずは、専門商社と総合商社におけるデータ分析の取り扱いデータとアウトプットの違いについて解説します。
取り扱うデータ
専門商社と総合商社では、取り扱うデータの種類に違いがあります。
専門商社は、特定の業界や分野に特化した商社です。その業界・分野に関する詳細なデータを保有しています。たとえばその業界の顧客情報や市場動向、サプライチェーン情報、製品情報など、専門性の高いデータが中心です。
総合商社は、幅広い業界・分野に事業を展開している商社です。専門商社ほどの詳細なデータではないものの、多種多様なデータを保有しています。広範囲なデータから新たなビジネスチャンスを見出せるでしょう。
専門商社と総合商社の保有する具体的なデータには、次のようなものがあります。
専門商社 | 総合商社 | ||
顧客情報 | 顧客のニーズ、購買履歴、属性情報など | 経済指標 | GDP、金利、為替レートなど |
市場動向 | 市場規模、成長率、競合状況など | 業界動向 | 各業界の成長率、競合状況など |
サプライチェーン情報 | 物流情報、在庫情報など | 企業情報 | 財務情報、経営戦略など |
製品情報 | 製品仕様、価格、性能など | 技術情報 | 最新技術動向、特許情報など |
このように、専門商社と総合商社では取り扱うデータの種類と詳細さが異なる傾向にあります。それぞれの強みを活かすためには、自社の事業内容や強みに合致したデータを選択することが重要です。
データ分析のアウトプット
専門商社と総合商社では、データ分析のアウトプットにも違いがあります。
専門商社は専門性の高いデータに基づく、顧客ニーズに合わせた商品・サービスの開発、サプライチェーンの最適化によるコスト削減などが主なアウトプットです。
総合商社は多種多様なデータを分析することで、業界動向や企業情報の分析によるリスク管理や新規市場の開拓、経営戦略の策定などを行います。エリア分析による販売対象地域の選定、実際の販売金額の分析も重要です。
専門商社が保有しているデータと収集方法
専門商社は特定の業界や分野に特化しているため、その業界・分野に関する詳細なデータを保有しています。専門商社が保有している主なデータ例は次のとおりです。
データのカテゴリ | データの詳細 | 収集方法 |
顧客情報 | 顧客のニーズ、購買履歴、属性情報など | 顧客アンケート、CRMシステム、営業活動での情報収集など |
市場動向 | 市場規模、成長率、競合状況など | 市場調査、業界レポート、政府統計など |
サプライチェーン情報 | 物流情報、在庫情報など | サプライヤーとの情報共有、物流システム、現地調査など |
製品情報 | 製品仕様、価格、性能など | メーカーとの情報共有、製品カタログ、展示会など |
その他 | 技術情報、規制情報、経済指標など | 専門機関からの情報収集、データベース、政府統計など |
これらのデータは、専門商社にとって重要な経営資源となります。これらのデータを有効活用することで、顧客ニーズに合わせた商品・サービスの提案や市場動向に基づいた新規事業の立ち上げができます。サプライチェーンの効率化によるコストの削減・適正化も可能です。
まずはデータ収集の目的を明確し、自社の事業内容や強みに合致したデータを収集することが大切です。複数のデータソースを活用することで、データの信頼性を高めることも欠かせません。
専門商社のデータ分析活用例
データ分析は企業の競争力を左右する重要な要素です。専門商社も例外ではなく、データ分析を活用することで、事業の効率化や新たなビジネスチャンスの創出など、さまざまなメリットを得られます。
今回は、専門商社におけるデータ分析の具体的な活用例を5つ紹介。それぞれの詳細について解説します。
- 事業ポートフォリオの可視化と最適化
- コンサルティングサービスの高度化
- 仕入れの見直しによるマージンの最大化
- SC分析を通じた物流コストの削減
- 人事データ分析による人材の適材配置
1. 事業ポートフォリオの可視化と最適化
専門商社は、多種多様な事業を展開しています。しかし、個々の事業の詳細な状況を把握することは難しく、全体的なポートフォリオの可視化が課題となっている企業も多いのではないでしょうか。
データ分析を活用することで、各事業の売上や利益率、成長率などの可視化が可能です。これらの指標を分析することで、収益性の高い事業や成長性の高い事業を特定できます。
これにより、事業ポートフォリオの最適化も可能です。収益性の低い事業を撤退させ、成長性の高い事業に投資することで、全体的な収益性を向上させられるでしょう。
2. コンサルティングサービスの高度化
専門商社は商品・サービスを販売するだけでなく、コンサルティングサービスを提供することで、顧客の課題解決を支援しています。
従来のコンサルティングサービスでは、専門商社の担当者が顧客と対面でヒアリングを行い、経験に基づいて提案を行うという方法が主流でした。この方法は担当者ごとに提案の精度や質にばらつきが生じる方法で、属人化が大きな課題となりえます。
データ分析を活用することで、顧客のニーズや課題を、データに基づき客観的に把握できるため、業務の標準化を実現できます。
分析の手順を明確にしたりノーコードで扱えるツールを用意したり、データ分析の仕組み化により、誰でも顧客のニーズや課題を特定できるようになるでしょう。これにより、高度なスキルをもつ人材の退職によるリスクを低減できるのはもちろん、従業員の教育コストも抑えられます。
顧客データや市場データ、競合データなどを分析することは、顧客の潜在的なニーズや課題の発見にも役立ちます。これにより、提案の精度を高められるでしょう。
このように、データ分析によりコンサルティングサービスの高度化と標準化が可能です。
3. 仕入れの見直しによるマージンの最大化
専門商社にとって、仕入れコストを押さえることは重要な経営課題のひとつです。仕入れコストが高ければ利益率が低くなり、競争力が低下してしまいます。
従来はサプライヤーとの交渉や過去の取引実績に基づいて仕入れ価格を決める方法が主流でした。これは企業の規模や保有するネットワーク、担当者の力量などに仕入れ価格が依存する方法です。特に小規模な企業や競争力の低い企業にとっては、最適な仕入れ価格を見つけることが難しく、利益率が低下しやすいという課題があります。
データ分析を活用することで、サプライヤー情報や市場価格情報、過去の取引データなどを分析し、最適な仕入れ価格を算出できます。データ分析に基づきサプライヤーとの交渉を有利に進めることも可能です。たとえば、サプライヤーの競争状況やコスト構造などを分析することで、より有利な条件で仕入れ交渉ができるでしょう。
4. SC分析を通じた物流コストの削減
サプライチェーン(SC)とは、原材料の調達から製造、販売、廃棄までの全体的な流れを指します。SC分析とは、このサプライチェーン全体を分析することで、無駄やムリをなくし、収益性向上を図る手法です。
SC分析により、サプライチェーン全体のコスト削減を行うことができます。輸送や保管、在庫などのコストに関するデータを分析することで、コスト削減のポイントを適格に見つけられるでしょう。
また、SC分析は単なる物流コストの削減に留まらない「サプライチェーンの最適化」につながります。
物流コストの削減は商社にとって重要ですが、物流に問題が生じると、サプライチェーン全体に遅れが発生してしまいます。たとえば、輸送ルートの見直しや在庫管理の改善などにより、物流コストの削減とサプライチェーンの最適化が両立できます。
5. 人事データ分析による人材の適材配置
優秀な人材の確保はどの業界にとっても重要な課題です。人材の配置を誤ると生産性や業務効率の低下、離職率増加などさまざまな問題を引き起こしかねません。
従来の人材配置は、上司や人事担当者の経験や勘に基づいて行われることが一般的でした。この方法は人事の属人化を招くだけでなく、担当者それぞれの主観が入り込みます。担当者が従業員の能力や適性を十分に理解していないと、人材を最大限に活かすことはできません。
人事データの分析により、従業員の能力や適性を客観的に評価できます。具体的にはスキルマップや過去の業績、性格検査などのデータを分析することで、従業員それぞれの強みや弱みが明確になるでしょう。データに基づき従業員を最適な部署に配属することで、彼らの能力と成長速度を最大化できます。
データ分析を活用した専門商社の成長戦略
専門商社といえど商材はひとつではなく、事業は多岐にわたります。多岐にわたる事業を展開するなかで、データ分析を効果的に活用することは、成長戦略の重要な柱となります。
専門商社に限らず、従来はIT部門やデータ分析部門が中心となってデータ分析を行っていました。しかし、事業ごとに必要なデータは異なります。IT部門やデータ分析部門はデータの専門家かもしれませんが、他部署の業務に精通しているとはいえません。そのため、部門レベルでのデータ活用は限定的でした。
そこで重要となるのが、「データの民主化」です。データの民主化とは、データ分析の専門知識を持たない部門でも、必要なデータにアクセスし、分析・活用できる環境を整えることです。
データの民主化を実現することで、各部門は事業に即したデータ分析を行えるようになります。
たとえばデータ分析に基づいて顧客ニーズを深く理解し、より迅速に、より的確な対応が可能になります。市場データや競合データの分析から、新たなビジネスチャンスを発見し、すばやく事業化することも可能です。
データの民主化には、ノーコードでも扱えるデータ分析ツールやBIツールが欠かせません。このようなツールにはデータの収集や整理、加工などの工程を自動化する機能が備わっていることが多く、データ分析に関する業務の効率化も可能です。
データの民主化により、事業ごとに必要なデータを取捨選択し部門レベルでデータを活用できるようになります。このように活用されたデータをグループ全体でも分析できるようになり、より持続的な成長戦略を描けるでしょう。
専門商社がデータ分析を導入するポイント
データ分析はIT業界やマーケティング業界だけのものだけではなく、専門商社においてもデータ分析は重要だということは、ご理解いただけたのではないでしょうか。
しかし、いざデータの利活用を実践しようとしても具体的な方法や手順がわからず、失敗してしまうケースも少なくありません。ここでは、専門商社がデータ分析を導入する際のポイントを2つ紹介します。
丁寧かつスピーディにPoCを実施する
PoC(Proof of Concept)は概念実証の略で、施策の実行や試作開発の前段階として、これらを検証するプロセスです。PoCを行うことで実現可能性の高さ、期待した効果が得られるのかなどを検証できます。
データ分析を導入する前にも、PoCを実施することが大切です。データ分析が可能か、期待した効果を得るために有効かを検証します。
PoCを実施する際、まずは具体的な目標を設定しましょう。PoCで何を検証したいのか、具体的な目標を設定することが重要です。目標設定が曖昧だと、検証結果が活かせないかもしれません。
また、適切なデータを選定することも大切です。データ量が不足していたり、質が低いデータを使用したりすると、正確な検証結果を得られません。
このように、PoCは丁寧に実施しなければなりませんが、時間をかければいいわけではありません。PoCの期間を明確にすることで、関係者全員が集中して取り組み、データ分析の導入時期を早められます。
丁寧かつスピーディにPoCを実施することで、データ利活用の効果を最大化できます。
トップダウンかボトムアップを正しく選択する
データ分析を導入する際には、トップダウンとボトムアップのどちらのアプローチを選択するかが重要です。
トップダウンは経営層がデータ分析の重要性を認識し、全社的な取り組みとして導入するものです。トップ主導で進めるため部門を横断した全社的な取り組みがしやすく、意思決定に関わる人数が少ないため導入までにかかる期間も短くできます。その一方で、現場のニーズに合致していない分析が行われたり、現場の抵抗を受ける可能性もあります。
ボトムアップは現場のニーズに基づいてデータ分析を導入するものです。現場から意見を集め、現場の課題を解決するためにデータ分析を活用するため、抵抗を受けずに導入しやすいメリットがあります。その一方で、組織全体の統一的なデータ分析基盤が整備されていない場合、データ分析の成果がバラバラになる可能性があります。
どちらのアプローチを選択するべきかは、自社の状況によって異なります。経営層のデータ分析に対する理解度、現場のデータ分析に対するニーズなどを踏まえ、自社に合う判断を下しましょう。
まとめ
近年、さまざまな業界・業種でデータ分析が注目されています。商社も例外ではなく、データ分析により収益性の向上やリスクヘッジを考える企業は多いです。
しかし、データ分析にはITや統計に関する専門知識が必要というイメージもあり、取り組み始めようとしてもハードルが高いでしょう。また、データ分析の導入手順や活用手法を知らずに失敗してしまうケースも少なくありません。
まずは自社はどのようなデータを保有しているのか、経営改善に必要なのはどのデータなのかを明確にしましょう。そのうえでPoCを実施すること、トップダウンかボトムアップか、自社に合う方法でデータ分析を導入することが大切です。
「これからデータ利活用の取り組みを始めたいけれど、何から実施していいかわからない」「データ分析の専門家の知見を取り入れたい」という方は、データ分析の実績豊富な弊社、データビズラボにお気軽にご相談ください。
貴社の課題や状況に合わせて、データ分析の取り組みをご提案させていただきます。
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