不動産業界では、業界で保有しているビッグデータを活用したデータ分析、データの利活用が進められています。データドリブンな傾向が強まるビジネスシーンにおいて、不動産業界でもデータ分析を取り入れ、データに基づいたより合理的な判断が求められています。
不動産業界は特に市場の動きが物件の価格や人気に直結します。そうした情報も取り入れながらデータ分析を行い、物件の将来性や今後の市場の動向などを予測することができれば、顧客ニーズを上回るサービスの提供も可能です。
本記事では、不動産業界におけるデータ分析の基礎や、データ分析によって得られることなどを解説します。自社でデータの利活用を実施するイメージを膨らませてみてください。
目次
不動産業界でデータ分析が重要な理由
不動産業界は膨大なデータを保有している一方で、十分に活用できている企業は少ないのではないでしょうか。DX化の後押しもあり、データ分析によって不動産取引前に物件の査定価格がわかるサービスや、周辺物件の推定価格を地図上で確認できるサービスなど、顧客ニーズに応えたサービスは展開されてきましたが、まだまだ可視化されていない部分は多く、対応するためにはデータ分析、データの利活用が欠かせません。
また、不動産業界は不透明性が高い特徴があり、過去に複数の不動産取引の問題も起きています。資料改ざんや契約書偽造による投資用不動産への不正融資事件が多く、透明性を確保することの重要性が増しています。不動産業界でデータ分析を用いて精査の質を向上できれば大きな問題を防げる可能性も高まります。
不動産業界が保有しているデータと収集方法
不動産業界が保有しているデータは、過去の取引履歴・住宅履歴・マンション管理情報・物件情報など、扱う建物のさまざまな情報を保有しています。不動産の価値と需要に影響を与える市場予測や人口推移、不動産価格の動向なども、不動産業界が保有しているデータのひとつです
社内で保有している情報であれば、導入しているデータベースから収集可能です。社外に情報がある場合は、不動産リサーチプラットフォームを利用することによって必要なデータを集められます。情報検索機能だけでなく、収集したデータを分析する機能を搭載していることも多いので、情報収集から分析までをワンストップで行えることもあります。
不動産業界のデータに関する課題
不動産業界のデータのうち、所在地や価格、過去の取引履歴など物件に関する情報は「REINS(レインズ)」に集約されていますが、物件が存在する地域に関する情報に関しては複数の機関に分散しています。そのため、物件取引を行う際に必要な情報の収集が困難になっていることが課題とされています。
例えば、インフラの整備状況は市区町村区役所やガス会社が、ハザードマップは国土交通省と市区町村区役所が情報を保有しています。区役所の中でも知りたい情報を扱っている課は異なるため、データを収集するだけでも時間と手間がかかります。
国土交通省では分散されている情報をひとつに集約し、顧客サービスの向上や業務効率化を図るため、不動産総合データベースの整備を進めています。整備段階のため実際の利用には至っていませんが、正式にリリースされ、情報のメンテナンスも都度行われるようになれば、不動産業界が抱える情報が複数機関に分散されていることの課題解決が期待できるでしょう。
参考:内閣府防災情報「不動産総合データベースの整備 1」
不動産のデータ分析でわかる6つのこと
不動産のデータ分析は、投資の面と自社の商談プロセスの大きく2つの面で役立ちます。不動産業界は投資リスクや利回りなど、複数の条件を考慮して慎重に判断を行う必要があるため、データ分析に用いる情報も多岐にわたります。時間や手間がかかるため、分析ツールを用いて効率的かつ正確に分析することも必要です。データ分析でわかる6つのことをご紹介すると共に、それがどんなメリットをもたらすのかを解説します。
エリア・建物ごとの空き家リスク
不動産業界は昨今、空き家が増え続ける「空き家問題」が深刻化しています。1998〜2018年までの20年間で総数は約1.5倍に増えています。
不動産業界は物件の売買や貸し出しなどによって利益を得るビジネスモデルを採用した業界です。空き家が多くなってしまうと機会損失に繋がり、利益の低下を招く可能性があります。
データ分析の実施により、エリアや建物ごとの空き家リスクを数値化することが可能。空き家になりやすいエリアや建物を過去の取引や地域の状況から明らかにできるので、対策を検討できます。
不動産投資の利回りと投資リスク
物件の購入価格に対して1年間でどの程度の家賃収入が得られるかの割合を示した不動産投資を検討する際の指標のひとつである「利回り」。利回りには物件購入価格に経費を含めず計算した場合の表面周りと、経費を含めて計算した実質利回りの2つがあり、投資の場合は実質利回りを重視します。
利回りは土地の価格や地域の利便性などによって相場が変動するため、投資用の建物を検討する際にはデータ分析によってその時の利回りを計算する必要があります。
その際は投資リスクについても検討しなければなりません。売買時には利回りが低い場合でも、長期的に見たら資産価値の高い物件だったという可能性もあります。空室の可能性や物件価格下落の可能性、地震の可能性などさまざまな情報を分析することで、リスクが少ない物件かどうかが判断しやすくなります。
物件周辺地域の将来的な価値
投資物件を選定する際は、物件周辺地域の将来的な価値も含めて検討する必要があります。不動産経営は人が移動することで成功するビジネスと言われているため、人口推移は特にチェックしたいポイントです。
データ分析により人口推移と不動産価格の関係性を明らかにすれば、物件周辺地域の将来的な価値を予測できます。例えば、新型コロナ感染拡大により一時期は東京一極集中は落ち着きましたが、現在はまた東京圏の人口が増えており、それに応じて不動産価格も高騰している傾向にあります。
また、都市開発による人口の流入・流出も、物件の将来的な価値の予測に関係しています。千葉県流山市や兵庫県明石市などがさまざまな政策を行い、人口増加に成功。人が移動すれば不動産の需要が高まるため、あらかじめ予測できれば投資機会の見逃しを防げます。
感染症の拡大や地震や津波などの災害が起きた場合の価値予測は難しいですが、そうではない場合は社会の動向をチェックし、人口推移を照らし合わせて考えることで、ある程度の予測が可能です。
参考:日本経済新聞「人口増300市町村、子育て支援が効果 千葉・流山14%増」
物件周辺地域の地価推移予測
土地の取引を行う際に提示する「地価」。地価が高い土地は不動産の需要が高まっていることを示しており、高価格で物件を売却できる可能性があるため、地価の推移を予測することは大切です。
地価推移の予測には、最寄駅からの徒歩時間や過去の取引価格、土地面積や形状、方位などの情報に加えて、人口総数や人口増減率なども利用します。これらの情報をAIに蓄積させ、物件周辺地域の地価を予測します。データ分析を通して正しく地価推移を把握できれば、効率的な不動産投資が可能です。
納得感の高い不動産価格査定
ビッグデータの分析により、すでに取り入れられていることが多いのが不動産価格査定のシステムです。「価格査定サイト」とも呼ばれています。
ビッグデータを用いた価格査定では、物件の所在地や占有面積、築年数などの情報を入力し、類似性が高い物件の過去の売買事例から査定価格を算出します。これにより、納得感の高い不動産価格の査定が可能となりました。査定を迅速に行えるので、営業担当者の業務効率化にも繋がります。
顧客の購入プロセスの可視化
不動産業界では、企業規模が多くなるとグループや事業部が細分化され、データの分断が起きているケースが少なくありません。データ分析を進める際には、データ統合したデータ基盤を作り、データを加工し、BIツールなどを活用してデータを可視化させます。
データベースを1つに集約し、必要とする情報を各従業員が閲覧できるようにすれば、顧客の購入プロセスの可視化が可能です。例えば、顧客Aは資料請求の段階、顧客Bは内覧会の予約が終わっている段階など、顧客ごとのステージの把握が容易になります。商談から成約までの一連の流れを可視化し、事業部ごとに共有できれば、良いアプローチや悪いアプローチの評価もでき、営業の改善にも繋がるでしょう。
不動産のデータ分析を実施するステップ
最後に、不動産業界においてデータ分析を実施する際のステップをご紹介します。不動産業界は特に保有している情報が膨大かつ広範囲にわたります。データが蓄積されているソースが複数あるため、ステップを1つずつ着実に行い、無駄な作業を行わないようにデータ分析を進めることが大切です。
STEP1. アプローチしたい課題を決め、目的を明確にする
不動産業界には、不動産の価格や購入・売買履歴、不動産の需要と供給のバランス、市場の動向など、多様なデータが存在します。必要な情報だけを集め、効率的な分析を行うために、アプローチしたい課題と目的の明確化が必要です。
データ分析の目的としては、特定のエリアや物件の不動産評価、不動産投資に対する潜在的なリスクの評価などが挙げられます。不動産を評価する場合は、過去の取引情報や周辺地域の不動産の価格変動などのデータが必要です。一方、不動産の潜在的なリスクを評価する場合は、市場の価格変動や金利の動向、不動産市場の動きなどの情報が必要です。
このように目的に応じて必要なデータが異なるので、まずは何のためにデータを利活用していきたいのか目的を明確にして始めましょう。
STEP2. 今までの情報・経験から仮説を立てる
次に、今までの情報・経験から仮説を立てます。データ分析における仮説構築は、情報の抜け漏れを減らすために欠かせない作業です。良い仮説を立てるには、一度視野を広げることです。そうすることでアプローチしたい課題や目的に対して、根本的な解決策を示すために必要なデータや情報を明確にできます。
例えば、人気があった不動産が全く売れなくなり、なんらかの対応を行うためにデータ分析が必要になったケースがあるとします。問題は建物の老朽化であり、リフォームすれば売れるようになると決めつけて情報を収集し、分析を行うのは焦燥です。他にも考え得る理由を複数あげてそれを分類・構造化し、その後、今までの情報・経験に基づいて可能性を一つずつ潰して行けば、自ずと仮説を立てられるようになります。
STEP3. 必要なデータを収集する
データ分析の課題・目的設定と、仮説構築が終わったら、仮説を成立させるために必要なデータを収集します。
不動産に関するデータは、自社内だけでなく外部にも存在します。不動産プラットフォームや地方自治体・州政府機関が公開している不動産履歴なども活用して必要な情報を集めましょう。
STEP4. データを加工し、分析を実施する
必要なデータを収集した後、分析が可能なようにデータを加工したうえでデータ分析を実施します。不動産業界は関連するデータが豊富なので、BIなどのデータ分析ツールを使うことが推奨されています。ツールを使えば、人による分析結果のズレが起きにくく、またデータに基づいた説得力の高い分析が行えます。
データ分析の結果はグラフや表に加工して、誰が見ても直感的に理解できるようにしましょう。加工したデータを社内の共有データベースに保管しておけば、同じようなデータを求めている従業員が活用することもできます。
5. 効果検証と改善を繰り返す
データ分析における効果検証は、要因を理解するための検証と、課題解決のための検証の2つに分けられます。要因理解のための検証とは、立てた仮説をデータ分析によって立証しようとした結果、その他にも影響する要素があるかを検証することを指します。一方、課題解決のための検証は、設定した目的に対する課題を洗い出すために行われます。
どちらにせよ、立てた仮説をデータ分析により正しいか判断する必要があります。仮説とデータ分析の結果にズレが生じていた場合は、仮説から見直して改善を行います。データ分析は難しい分野ですが、効果検討と改善を繰り返すことで慣れていきます。
まとめ
様々なデータが存在する不動産業界で、データの利活用を実施していくためには、目的や課題を明確にすることが欠かせません。その上で、データを収集・統合・加工し、分析していきます。
「これからデータ分析の取り組みを始めたいけれど、何から実施していいかわからない」「データ分析の専門家の知見を取り入れたい」という方は、データ分析の実績豊富な弊社、データビズラボにお気軽にご相談ください。
貴社の課題や状況に合わせて、データ分析の取り組みをご提案させていただきます。
コメント