スポーツ業界のデータ分析最前線|スポーツアナリティクスでわかる10のこと

スポーツ業界は、他業界と比較してデータを活用している業界です。特に海外のチームではデータアナリストとデータ分析の重要性は日本よりも強く認知されており、強いチームほど徹底したデータ分析を行い、好成績を残しています。

スポーツ業界のデータ分析は「スポーツアナリティクス」と呼ばれています。経験や勘に頼らず、データに基づいた合理的な判断を行い、チームや選手のサポートに活用する概念です。スポーツ業界でデータ分析をする際に知っておきたい言葉として、その意味や内容をしっかりと理解しておきましょう。

スポーツ業界のデータ分析「スポーツアナリティクス」とは

スポーツ業界において、スポーツに関するデータを分析し、チーム運営や選手のサポートなどに活用することを「スポーツアナリティクス」と呼びます。スポーツの世界は経験や勘、センスなどデータ化できない感覚による判断が重要視されていると思いがちですが、近年は事情が異なり、データ分析を行いその結果をチームに反映することで成績を残しているプロチームも増えています。

例えば、競合チームの戦略と勝率をデータ化し分析することで、自チームが勝つための試合の戦略に活かせます。チーム成績を上げるために選手のどんな能力を伸ばせば良いかも明らかにできます。

チームの戦略や選手の育成などを効果的に行うためにスポーツ業界では、スポーツアナリティクスが実施されています。

スポーツアナリティクスの歴史

スポーツアナリティクスの歴史は古く、これまでに多岐にわたるスポーツでその重要性が述べられています。最初は、1861年に発刊された「Beadle’s Dime Base Ball Player」です。この本の中では、野球における打席とフィールドでのプレーを分析することがプレイヤー育成に必要であると、著者のヘンリー・チャドウィックが述べています。

続いて、同著者により1885年に発刊された「Lawn Tennis Manual」は、テニスに関する著書を執筆し、細かくデータを記録することの重要性を提唱しました。ここで提唱されている分析の手法は、プレイヤーのパフォーマンス分析の元になったと言われています。

その後、1897年にはボクシング、1900年にはアメリカン・フットボール、1907年にはラグビー、1910年にはサッカーと、複数のスポーツで試合や選手の分析が必要であることが説明されてきました。

中でもいち早く重要性が述べられていた野球に関しては、1947年に世界初のフルタイムのデータアナリストが登用され、話題を呼びました。各スポーツで少しずつ分析の重要性が認知され、導入するチームが増え、現在では多くのスポーツアナリティクスの専門機関が設置されています。

参考:BASEBALLNUGGET「New old baseball guides

先進的なスポーツアナリティクスの活用事例

スポーツアナリティクスの歴史が古いことからわかるように、さまざまなスポーツで先進的なデータ活用が行われています。バスケットのMBL、野球のNBA、そして日本国内では読売ジャイアンツの取り組みに着目し、どんな形で活用しているのかをご紹介します。

MBL|セイバーメトリクス

先進的なスポーツアナリティクスの事例として代表的なものに、メジャーリーグで用いられている「セイバーメトリクス」があります。これは、野球における統計的なデータを分析し、試合の戦略や選手の評価に役立てる分析手法です。2011年に公開された映画『マネーボール』にて成績が低迷していたチームを改革する手段として用いられていたことで、高い知名度を得ました。

セイバーメトリクスでは、走攻守のスキルのうち守備や走塁にも着目してデータを分析し、選手のパフォーマンスを評価します。打撃だけではなく、チームへの貢献度を総合的に評価できる手法です。

NBA|データアナリティクス

プロバスケットリーグのNBAでは、スポーツアナリティクスを活用するため、データアナリスト人材を積極的に採用しています。業務内容は、データを収集・分析し、その結果を戦略やリーグの運営に役立てることです。年収帯はニューヨークで平均82,200ドル(約1300万円)と高額で、その金額から重要なポジションであることが伺えます。

NBAの強豪チームは2015〜2016年頃からデータサイエンスを取り入れており、それにより各チームが戦略的な試合を実現しています。例えば、ヒューストン・ロケッツにはデータアナリスト人材がいます。彼はデータ分析によりツーポイントとスリーポイントの成功率の違いを明らかにし、効率的かつ成功率が高いスリーポイントを戦略に盛り込みました。結果としてチームがより強くなり、また同チームからMVP選手を出すなどの戦績を残しています。

参考:NBA Career OpportunitiesZipRecruiter

読売ジャイアンツ|ファンのLTV向上

データ分析をファンコミュニティの強化に活用したのが読売ジャイアンツです。ファンに喜んでもらい、LTVを高めるための取り組みとして「読売ジャイアンツ公式サイト」をリニューアルしました。

同チームはまずアンケートを行い、その結果からファン経験者を「初心者ファン」「特定選手ファン」「熱狂的ファン」「熟成ファン」と「離脱ファン」の5つに区分け。中でも初心者ファンは球場に足を運ぶハードルが高いことに目をつけ、ファンに対して適切な案内をすることを目的にサイトのリニューアルに至ったと言います。

具体的には、縦割りになっていた一軍・二軍・三軍の情報を横断的に閲覧できるようにしたり、選手情報の検索ができるようになったり、コンテンツを拡充させたりしています。利用実態のデータから、ファンのニーズに答える形で取り組みを行うことで、LTV向上に成功させています。

参考:MarkeZine「読売ジャイアンツのファン分析でわかった、LTVを上げるトリガーとは?施策反映のポイントとともに解説

スポーツ業界が保有しているデータと収集方法

スポーツ業界が保有しているデータは、主に選手に関する情報顧客に関する情報の2つに分けられます。それぞれどんなデータを保有しているのでしょうか。また、データを収集するにはどんな方法があるのか、それぞれ簡潔に説明します。

選手に関するデータ

スポーツ業界が保有しているデータとして、まずは選手に関するデータがあります。パフォーマンスやメンタルの状況、チームへの貢献度、試合中の動きなどが例として挙げられます。

データの収集方法はさまざまです。パフォーマンスであれば、GPSセンサーなどを活用したり、試合ごとの得点率やプレー時間などを試合映像を見てカウントします。メンタル面は、ウェアラブルサービスを用いて集計することが可能です。

観客に関するデータ

顧客に関するデータは、性別や年齢などの属性、チケット購入回数やグッズ購入の合計金額などが挙げられます。これらの情報は主にWeb上のシステムを使って収集されます。

例えば、属性であればファンクラブの管理システムによって情報を集めています。チケット購入回数やグッズ購入金額も同様です。そのほかには、会場に設置されたカメラを用いて、来場者の属性データを収集する方法もあります。

スポーツ業界がデータ分析に取り組むメリット

スポーツ業界がデータ分析に取り組むメリットは、試合の勝率アップや戦略の立案だけではありません。チームの戦力を向上するために必要な選手の育成や、モチベーション維持の面でもメリットがあります。詳細を解説します。

試合の戦略立案・選手の選抜に役立ち、試合の勝率を上げられる

経験や勘に頼った戦略立案は、失敗に終わる可能性が大いにあります。過去のデータを分析し、勝利する際の傾向を掴むことができれば、合理的な試合の戦略立案や選手の選抜が可能です。これにより勝率アップも期待できるでしょう。

例えば、サッカーの試合中では試合動画の解析が積極的に行われています。選手がつけているGPSセンサーから収集した様々なデータをAIが分析し、監督が試合戦略を考案する際のサポートとして活用されています。

モチベーションアップの材料を提供できる

チームで成績を出すには、選手の心理的ケアも必要です。データ分析を行うとどうしても各選手の得点の差に注目してしまい、全選手が得点を上げるにはどうしたら良いかと考えてしまいがちです。

選手の中には得点に直接関与しないメンバーもいます。そうした選手においては得点に注目してデータ分析をするのではなく、守備や運動量などチームへの貢献度を計測し、多角的に表す目的でデータ分析を行いましょう。幅広いデータに着目すれば、選手のモチベーションアップやメンタルケアの材料の提供としてもデータ分析を活用できます。

トレーニングや育成計画の立案に役立つ

スポーツアナリティクスは、選手のトレーニングや育成計画の立案にも役立てられます。必要なデータは、各選手の得点数や出場時間など数量で表せるデータと、動画や画像などの数量にはできないものの、プレー時の特徴や傾向を見るのに必要な視覚的なデータです。

これらのデータをそれぞれ分析し、抽出した結果を掛け合わせることができれば、選手の強みを伸ばす効果的なトレーニングや育成計画を立てられます。不要なトレーニングをなくし、選手を効率的に育てることに繋がります。

スポーツアナリティクスでわかる10のこと

スポーツアナリティクスを用いると、選手の特徴や心理的状況など選手のことからチーム戦略、さらにはチームの売上状況なども可視化されます。チーム運営という大きな枠組みで改善や取り組みを考えたい場合には、スポーツアナリティクスの活用が有効だと、イメージできてきた方も多いのではないでしょうか。

次に、スポーツアナリティクスで可視化できる具体的な10の例を紹介します。チームでスポーツアナリティクスを実施する場合、まずはどれから可視化していきたいのか、戦略を立てたいのかイメージしてみてください。

1. 選手のパフォーマンス

得点や技の成功率、動きなどのデータを分析することで、選手のパフォーマンスがどれだけチームに貢献しているかを明らかにすることが可能です。貢献度が高いと判断された選手に着目し、チームに貢献するために必要な要素を抽出できれば、チーム全体のパフォーマンスの底上げにも役立てられます。

2. メンタルヘルスの状態

選手のパフォーマンスは、技術だけではなくメンタルも影響します。スポーツアナリティクスでは、選手のメンタルヘルスの状態の判断も欠かせません。

データ分析により精神面を判断するには、良い状態と悪い状態のサンプルが必要です。それらを客観的に判断し、メンタルが安定している場合の動きと不安定な場合の動きを基準のデータとして保有しておきます。後は、そのデータを基準に選手の動きを判断すれば、メンタルヘルスの状態を把握できます。

具体的な数値を可視化することで、効果的にメンタルを安定化させる方法の把握にも役立ちます。

3. 怪我のリスク

自チームの怪我の発生率や怪我の種類をデータとして蓄積し、それを分析すれば怪我のリスクもわかります。スポーツ選手は同じような怪我を繰り返したり、大きな怪我をしたりすることによって選手生命が絶たれてしまいます。そうした怪我を未明に防ぐことは指導者の役目のひとつで、それをサポートする手段としてスポーツアナリティクスが用いられています。

4. チームに合った戦略

戦略はチームに合った内容でなければ、なかなか結果に繋がりません。スポーツアナリティクスでは、チームパフォーマンスを最適化する条件や試合運びなどを分析により導き出すことができます。

さまざまな戦略を試し、選手一人ひとりがパフォーマンスを発揮しやすいパターンを見出す際にも活用可能です。戦略の内容を微調整し、結果にどのように影響するのかなどもデータ分析により可視化されます。

5. 相手チームの長所や短所

スポーツ業界におけるデータ分析と言えば、相手チームの長所や短所の分析を行うイメージが強い方もいるでしょう。相手チームの分析は主に戦績・所属選手の定量的なデータに加えて、プレー動画という定性的なデータを用いて行います。動画は再生速度を遅くして見ることもでき、長所や短所を明らかにしやすいのが特徴です。

このような相手チームの情報は、試合戦略を立案したり、チーム構成を検討したりする際に役立ちます。

6. 最適なトレーニングメニュー

スポーツアナリティクスによるデータ分析は、トレーニングメニューを考える上でも役立ちます。各選手のデータを定量化し把握することで、強みを伸ばし、弱みを改善する練習内容を選手に伝えられます。明確な根拠があるため、選手は納得してトレーニングに臨みやすくなります。

7. 中長期的なチーム戦略

データを蓄積していくことで、中長期的なチーム戦略の立案、特に選手の選抜面で役立ちます。

選手一人ひとりのデータを蓄積すると、その選手の成長率や将来のパフォーマンスをある程度予測できるようになります。それにより、例えば今は二軍だけれど、次の選抜では一軍に上げるなどの中長期的なチーム戦略が立てやすくなるのです。チーム育成と連携することで、より確実性の高いチーム戦略の立案が可能です。

8. 獲得すべき選手像

チームの勝率や失点、プレー内容などのデータを分析すると、チームとして足りないところが見えてきます。言い換えれば、獲得すべき選手像が判明します。

例えば、バスケットボールにおいてスリーポイントシュートの成功率が低い場合は、スリーポイントシューターをチームに招き入れることで、点数を効率的に獲得できるようになります。

9. ファンのエンゲージメント

スポーツアナリティクスで分析するのは、チームや選手のデータだけではありません。ファンの行動を分析すれば、エンゲージメントの動向もわかります。

スポーツチームのファンのエンゲージメントは、試合チケットやグッズの売上、会員数などで把握することが可能です。これらのデータを日・週・月・年と期間を区切って分析することで、エンゲージメントの増減を明らかにできます。

10. 利益を生むマーケティング戦略

ファンの動向をデータとして蓄積し、分析することはマーケティング戦略の立案にも役立ちます。チームを運営し、選手を獲得したり育成したりするには、チームそのものの収益増加も考えなくてはなりません。

例えば、中日ドラゴンズではAIがチケットの金額を決める「ダイナミックプライシング」という仕組みを導入しています。試合日程やチームの状況、需給バランスなどのデータから、その日の適正価格を算出する仕組みです。チケットの選択肢が増えるためライトなファン層も取り込みやすく、利益向上が期待できます。

参考:中日ドラゴンズ「AIがチケット価格を算出 ダイナミックプライシング導入のお知らせ

スポーツアナリティクスを成功させるポイント

スポーツアナリティクスを成功させるには、チームの最高責任者であるGMやチームメンバーの理解が必要不可欠です。前向きな姿勢で取り組んでもらえるよう、データ分析がチームや選手個人に与えるメリットをよく説明した上で、データ分析を導入しましょう。

GM主導のプロジェクトとしてデータ分析を導入する

データ分析を実際に行うのはデータアナリストですが、分析した結果を戦略やチーム運営に役立てるのはGM(ゼネラルマネージャー)の役割です。そのため、データ分析の導入はGM主導のプロジェクトとして進める必要があります。

GM主導ではない場合、データ分析により得られた情報がチーム運営に活かされにくくなってしまいます。他チームや他スポーツでの事例を用いて、データ分析がチームの戦績やチーム収益にも関係することをしっかりと説明し、理解を得た上でデータ分析を導入しましょう。

選手の理解を得た上でデータ分析に取り組む

スポーツアナリティクスを実施する上で、選手の理解を得ることも重要なポイントです。データ収集により、選手一人ひとりのパフォーマンスや状況などが可視化されます。例えば、ウェアラブルデバイスを取り入れて心身の状態を把握できるようにする場合、抵抗感を示す選手も少なくありません。

データ分析は選手の管理ではなく、チームパフォーマンスを最大化するために必要な取り組みであることをきちんと説明しましょう。また、収集したデータを利用する範囲や目的についても明確にして取り組みます。

まとめ

スポーツ業界において、競合チームのデータ分析は従来から行われていましたが、今は自チームの分析に力を入れているスポーツチームが増えています。特に海外のチームは先進的な取り組みを行い、実際にチーム成績を伸ばしている実績もあるため、これからスポーツアナリティクスを導入するチームにとっては非常に参考になります。

データ分析によってチームパフォーマンスが最大化され、強くなることが見込まれる一方で、ファンの中にはそうした取り組みにネガティブな意見を持っている方も少なくありません。スポーツにおいては、チームとファンは切っても切り離せない関係です。データ分析を進める上では、チームだけでなくファンの理解も得られるよう配慮する必要があると言えます。

「これからスポーツアナリティクスを実践したい」「より高度な分析のために、データ分析の専門家の知見を取り入れたい」という方は、データ分析の実績豊富な弊社、データビズラボにお気軽にご相談ください。

貴社の課題や状況に合わせて、データ利活用の取り組みをご提案させていただきます。

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