小売業は販売データ・顧客データなど、分析によってインパクトの大きな取り組みのできるデータを日々蓄積しています。適切なデータ分析に取り組むことさえできれば、業務効率化など目下の課題だけでなく、人材不足解消やDX推進など中長期的な課題にもアプローチできます。
そこで本記事では、小売業がデータ分析に取り組む重要性、データ分析のやり方、小売業におすすめの分析手法などをご紹介します。「データ分析の重要性は理解しているが何から取り組めば良いかわからない」という方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
小売業のデータ分析はなぜ重要か
小売業におけるデータ分析の重要性は、商品の仕入れ・販売などさまざまなシーンで「正確な予測を立てられる」ことです。たとえば、「⚪︎月⚪︎日の来店者数は⚪︎人で平均顧客単価はxxx円」といった情報を事前に持っていれば、商品ロスも機会損失も無くなります。小売業としては理想的な状態です。
「そんな予言なことは無理だろう」と思いますね。確かにこれは極端な例です。しかし、そうした予測を限りなく100%に近づけ販売戦略に反映できることが、小売業におけるデータ分析のメリットだと言えます。
まるで気象予測のように来店数や売上を予測し、それに伴い販売戦略を組み立てていく。無理な話のようですが、データサイエンスやAIと言った最新の技術・テクノロジーがあれば可能です。
小売業におけるデータ分析のやり方
続いて、小売業におけるデータ分析のやり方を6つのステップに分けてご紹介します。ステップを知ればすぐにデータ分析に取り組めるわけではありませんが、大まかな流れを理解しておくことは大切です。
1. 現状課題を整理する
まずは店舗ごと、あるいは全社的に抱えている課題を整理します。ECサイトを持っている企業の場合は、ECサイトの課題まで整理しましょう。今やリアル・デジタルを密接に連携し、顧客に対して一貫性のあるサービスを提供しなければいけない時代です。リアル・デジタルを区別するのではなくそれぞれの課題を整理した上で、包括的な課題解決を目指しましょう。
2. 仮説を立てる
次のステップとして行ってほしいのが「仮説を立てること」です。たとえば「冬・雨天でも比較的気温が高いと来店数がほとんど落ちない」など、経験則から課題解決に関係のありそうな仮説をどんどん立ててみましょう。小売業の場合、精度の高い仮説は現場から生まれるケースが多いです。店舗責任者や一般スタッフなど、幅広い関係者の意見を取り入れることが欠かせません。
3. スコープを決める
さまざまな仮説を立てたら、課題解決に特に有効そうな仮説を検証していきます。そのためのスコープ(目的・目標・期限・やること)を決めましょう。データ分析を始める前にスコープを決めることで、関係者全員の共通認識を作り出せます。また、しっかりと数値目標を設定し、データ分析の効果測定を行える環境を整えましょう。
4. 分析手法を選択する
仮説を立てスコープが決まったら分析手法を選択します。データ分析にはさまざまな手法があり、分析結果から得られるインサイト(洞察)も異なります。また、分析手法ごとに必要とするデータの種類・量・質が異なります。次章で小売業におすすめのデータ分析手法をご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
5. 必要なデータを集める
データ分析まであと一歩、事前に決めたスコープや分析手法にしたがって必要なデータを収集しましょう。小売業の場合は自社で保有している販売データ・顧客データだけでなく、気象データや人工データなどの公的な統計データも活用できます。ECサイトのアクセスデータも貴重な情報源なので、リアル・デジタルの融合のためにも積極的に活用してみてください。
6. データ分析を実施する
必要なデータが揃ったらいよいよデータ分析を実施します。ただしデータを分析にかける前に、データクレンジング(データの精度を高める作業)などでデータの正確性を高めた上で、分析を実行しましょう。
以上が小売業におけるデータ分析のステップです。前述のように、このステップにしたがってデータ分析をいきなり始められる企業はありません。ビジネスインパクトの大きなデータ分析を行うには、データサイエンティストやビジネスアナリストなどのデータ人材が欠かせません。
ただし、既存のITツールに備わっている簡易的なデータ分析機能を使えば、小さいながらも課題解決につながるようなインサイト(洞察)を発見できます。まずは簡易的にでもデータ分析に触れてみて、その有効性を実感することが大切です。
小売業のデータ分析手法(目的別)
それでは、小売業におすすめのデータ分析手法を「顧客を分析する」「売上を分析する」の2つにわけてご紹介します。専門用語は使わずわかりやすく解説するので、「このな分析手法があるんだ」と参考にしていただけると幸いです。
顧客分析 | デシル分析 | 購入金額で顧客を分類する |
RFM分析 | 購入日、頻度、金額で顧客を分類する | |
クロス集計分析 | 顧客属性ごとの傾向を知る | |
決定木分析 | ツリー構造でデータを分類・予測する | |
ソーシャルリスニング | SNSの声を集めて分析する | |
売上分析 | 購買ランキング | 商品ごとの購入金額、購入率を把握する |
商品カテゴリ分析 | 商品のカテゴライズを把握する | |
ABC分析 | 商品の売れ筋・死に筋を把握する | |
アソシエーション分析 | 商品の購入パターンを把握する | |
重回帰分析 | 一つの成果に対する要因を把握する | |
ロジスティック回帰分析 | 特定の商品の購入率などを把握する |
顧客を分析する
デシル分析
デシル分析は購入金額に基づき、顧客を10段階にランク付けする手法です。デシルのデシは「10分の1の単位」を表します(デシリットル・デシメートルと同様)。デシル分析はリピート率が高く、実店舗とECサイトを含め店舗ごとに顧客管理を徹底している環境におすすめです。
深い分析結果は得られませんが、「上位2グループに売上の80%が支えられている」などのインサイトが得られるため、マーケティングを集中すべき顧客グループを把握できます。
RFM分析
デシル分析よりも深い分析結果を得られるのがRFM分析です。Recency(最新購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つの指標で顧客を分類し、さらに細かいランク付けが行えます。
- Recency:最終来店日はいつ?
- Frequency:来店頻度はどれくらい?
- Monetary:今までの購入金額は?
これら3つの指標において、最終来店日からの経過日数や来店頻度、購入金額に応じた得点を付与します。
その合計得点や得点配分によって顧客をランク付けするため、グループごとに最適な販売戦略を立てられるのが特徴です。
クロス集計分析
クロス集計分析とは主にアンケート調査において、複数の指標を組み合わせて顧客インサイトを獲得する分析手法です。
たとえばアンケート調査では年齢・性別・居住地などの属性情報を記入してもらった上で、「あなたはどの商品が好みですか?」などの設問に回答してもらいます。
※右の布置図はクロス集計を用いて行う「コレスポンデンス分析」による結果です
すると顧客属性ごとにどういった変化があるかを視覚化し、販売戦略に有効な顧客インサイトを得られるのが特徴です。
決定木分析
決定木分析ではツリー構造でデータを分類し、予測を立てるための分析手法です。たとえば「商品Aの満足度が高い顧客属性は?」というインサイトを得たい場合、「商品Aを購入して満足or不満足」という元データとして上位に置き、性別や年齢といった属性ごとにデータを分類していきます。
上記の例では、商品Aを購入して満足する可能性の高い顧客属性は「40代以上の男性」というインサイトが得られました。
決定木分析はツリー構造で分析結果を理解しやすいため、データ分析初心者にもおすすめの分析手法です。
ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングはTwitterやInstagramなどのSNS上で、自社の商品・ブランドに対する投稿データを収集し分析する手法です。
顧客インサイトを得る方法として従来からアンケート調査が行われてきましたが、バイアス(回答の偏り)が生じる可能性も高く、課題解決に有効な分析結果が得られないことも少なくありません。
一方で、ソーシャルリスニングなら消費者の感情・行動をテキストや画像などのデータから分析できるため、バイアスのない顧客インサイトを得られます。ただしソーシャルリスニングでは膨大な「非構造化データ(自然言語・画像・動画など構造化できないデータ)」を使うため、AIや機械学習を取り入れる必要があります。
売上を分析する
購入ランキング
購入ランキングは商品の売上や販売店数などいくつかの視点からランキングを作り、売れ筋商品を把握するためのシンプルな分析手法です。購入ランキングにエリアデータや気象データなどさまざまなデータを組み合わせることで、シーンごとの売れ筋を把握できるようになります。
商品カテゴリ分析
商品カテゴリ分析とは顧客分析を通じて得た顧客インサイトから、商品のカテゴライズをする分析手法です。たとえばスーパーマーケットにおいて「にんじん」と「牛肉」は野菜類・肉類としてカテゴライズされています。
一方で、「毎週金曜日はカレーを作る家庭が多い」という顧客インサイトを得たとしましょう。それに応じて「にんじん」と「牛肉」をカレーの具材としてカテゴライズし、牛肉コーナー付近に「にんじん」を揃えておけば、商品の購入率がアップする可能性があります。
このように事前に得た顧客インサイトに応じて商品をカテゴライズし、販売戦略に役立てるのが商品カテゴリ分析です。
ABC分析
ABC分析は「重点分析」とも呼ばれ、売上データを分析する初歩的な手法です。たとえば商品の売上高ランキングを整理し、上位から累計売上高・累計売上割合といったデータを整理します。
上記のようなABC分析により、「Cランクの機会損失は少ないため商品在庫を最低限だけ持つ」といった販売戦略を立てられるようになります。シンプルなデータ分析ですが、商品の売れ筋・死に筋を改めて整理するのに役立つ分析手法です。
アソシエーション分析
アソシエーション分析は「同時に発生しやすいデータ(変数)」を把握するための分析手法です。たとえば商品A・B・Cという3つの商品がある場合、組み合わせのパターンは4つあります。
- 商品A・Bを購入する
- 商品A・Cを購入する
- 商品B・Cを購入する
- 商品A・B・Cを購入する
アソシエーション分析を実施すれば、このうち最も購入されやすいパターンを把握可能です。ちなみに、アソシエーション分析の中でも「同時購入される商品の組み合わせ」を分析することを、「バスケット分析」と呼びます。
細かい説明は割愛しますが、アソシエーション分析では支持度・確信度・リフトという3つ指標を用いた「Apriori」というアルゴリズムを使用するのが一般的です。
単純なデータ集計とは異なりアルゴリズムを使用するため分析難度は高めですが、販売戦略に役立つインサイトを得られる分析手法でもあります。
重回帰分析
重回帰分析とは、一つの結果(目的変数)に対してどのような要素(説明変数)が関係しているかを可視化する分析手法です。ちなみに結果に対する要素が一つなら「単回帰分析」と呼ばれ、複数なら「重回帰分析」と呼ばれます。
小売業では主にマーケティング施策の評価に使われる指標です。たとえば「売上が前年同月比20%アップ」という結果(目的変数)に対して、複数のマーケティング施策(説明変数)がそれぞれどう影響しているかを把握するために用います。
施策ごとの売上アップに対する影響度を把握できればマーケティング全体を正しく評価し、さらに適切なPDCAサイクルを回して継続的な施策改善に努められるのが大きなメリットです。
ロジスティック回帰分析
複数の要素(説明変数)が一つの結果(目的変数)に与える影響を把握・予測できる重回帰分析に対して、ロジスティック回帰分析では「2つの結果(2値の説明変数)」を把握・予測したい場合に用いる分析手法です。
ちなみに、「2つの結果(2値の説明変数)」とはYes/Noで表せるものを指します。たとえば顧客の属性情報から「商品Aを購入するor購入しない」といった購入率を把握・予測できるのがロジスティック回帰分析の特徴です。
ロジスティック回帰分析と重回帰分析は混同されがちな分析手法なので、それぞれの具体例をご紹介します。
- 重回帰分析
過去の来客数や気象データを用いて、特定日の販売数量を予測して必要在庫数を計算する - ロジスティック回帰分析
(高額商品販売において)事前アンケートで得た属性情報から商品の購入確率を予測し、それに応じて販売アプローチを変える
このように重回帰分析とロジスティック回帰分析を適切に使い分ければ、小売業においてデータを強力な武器として活用できます。
小売業におけるデータ分析の問題点
最後に、小売業がデータ分析を実施するにあたっての問題点を2つご紹介します。
外部要因を分析するのが難しい
小売業は「消費者」という圧倒的多数を相手にしたビジネスです。消費者の傾向・動向によって売上が大きく左右されるため、消費者理解に注力しなければ商機を逃し、競争力を失います。
その一方で、消費者の傾向・動向といった外部要因は分析が難しいという問題があります。日々の販売を通じて得られるデータなら収集・蓄積・分析を簡単に行えますが、外部要因の分析にはデータ収集から苦労するでしょう。
そのため「外部要因をどこまで意識するか?どこから無視するか?」といった分析スコープ(分析するデータの範囲)を明確にすることが重要です。外部要因の分析スコープを決めずにデータ分析を始めると、あるところではデータが不足したり、あるところではデータ分析コストが肥大化したりします。
小売業に関わるデータが複雑化している
今日の小売業に関わるデータは非常に複雑です。インターネットが登場する以前なら店舗ごとの販売データや公的な統計データを用いれば、それなりに精度の高いデータ分析を行えました。
しかしインターネットの登場と急速な普及により、顧客の購買プロセスは大きく変化しています。リアル・デジタルを行き来するのは当たり前で、従来の紙面に加えてGoogleなど情報収集源も多様化しています。さらにECサイトやSNSなど顧客接点が増えたことで、それぞれのデータは極めて複雑に絡み合っています。
たとえば数十年前の小売店なら、「テレビCMや雑誌広告を見て商品を買いに来た」という新規顧客が大半です。現在ではGoogleなのかSNSなのか、あるいは口コミサイトなどどういった情報源をきっかけとして来店したのか。あるいは複数の情報源が関係しているのかなど、顧客の購買プロセスを把握しきれない問題があります。
以上の2点は、データ分析の専門組織を社内に作らなければ解決が難しい問題です。しかしデータ人材を育成・獲得しようにも、どういったデータ人材を集めれば良いかも判断に困ります。近年話題になっているデータサイエンティストを手当たり次第に集めても、小売業のデータ分析は進みません。
大切なのは中長期的な経営ビジョンから適切なデータ戦略を立て、それと連動したデータ人材戦略を設計した上で必要なデータ人材を獲得したり育成したりすることです。こうした領域は我々データビズラボのようなデータ企業の専門分野であり、本格的なデータ活用を進める場合は我々のような専門家にぜひ頼っていただきたいと思います。
まとめ
本記事では小売業がデータ分析に取り組む重要性、データ分析のやり方、小売業におすすめの分析手法などをご紹介しました。
データ分析と聞くと「難しそう」「コストがかかりそう」と、出鼻からマイナスイメージを持つ方も多いでしょう。実際、データ分析は難しいこともあればコストがかかることも多々あります。
一方で、小売業が抱えている膨大な販売データ・顧客データを分析すると、販売戦略をアップデートできるようなインサイトを得られることも多々あります。本記事を通じて小売業のデータ分析に少しでも興味が湧いた方は、まずは簡単にでも良いのでデータ分析を行ってみてください。
データ分析の楽しさは「取り組みの大小かかわらずさまざまなインサイトが得られること」です。手元にあるITツールの簡易的な分析機能を使うのもよし、販売データとエクセルを使ってデシル分析のような簡単な分析手法を試してみるのもよし。小さい一歩でも前に踏み出せば、データ分析の素晴らしさを必ず実感していただけるはずです。
データビズラボに依頼すれば、データ分析をもっと手軽に、効果的に行うことができます。
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