物流には、輸送・保管・荷役・包装・流通加工・情報処理という6つの機能があります。これらの機能をシームレスに連携し、納期通りに、そして適正コストで物品を届けるのが物流の大きな役割です。
本記事では、「物流業務にデータ分析を取り入れると何が変わるのか」について、わかりやすく解説します。物流が日々生み出す膨大なデータをどうすれば活用できるのか、物流のデータ分析に興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
目次
物流のデータ分析は意外と進んでいない
まずは、物流業界におけるデータ分析の現状についてお話します。総務省が2020年3月に公表した資料によると、「物流・在庫管理においてデータを活用している企業は全体の14.8%に留まっている」という調査結果が出ています。出典:デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究|総務省
大企業だけで見ても物流・在庫管理におけるデータの活用率は22.1%と低く、物流のデータ分析は意外と進んでいないことが見て取れます。
物流効率化は昨今のビジネス社会で大きなトピックになっている反面、古い商習慣・システムからの脱却や人材不足問題などが重くのしかかり、データ分析に取り組めていない企業が多いのだと考えられます。
しかし、物流業界が抱えているさまざまな課題を解決する方法こそ「データ分析」であり、データ分析に先進的に取り組む企業こそが、これからの物流業界を牽引する存在となっていくでしょう。
物流にデータ分析が欠かせない理由・重要性とは
物流でデータ分析を実施しないのは、「非常にもったいない」という言葉に尽きます。
物流からは日々大量のデータが生まれており、それらのデータを収集・加工・分析すれば、素晴らしいインサイト(洞察)を得られるのは明白です。本記事後半でも紹介しているように、実際に物流にデータ分析を取り入れたことで重要課題を解決した企業は少なくありません。
それだけでなく、物流のデータ分析には新しいビジネスチャンスを生み出す可能性も大いにあります。
データ分析に取り組まない物流とは、言うなれば「ダイヤモンドの原石を集め続けている状態」にあります。磨けば光る原石をただ積み上げていく日々は、我々データ分析を実施している企業からすると、強いもどかしさを感じるほどです。
もちろん、感情的な話だけではなく、実際にデータ分析に取り組めば物流が抱えているさまざまな課題を解決できます。次に、具体的にどのような課題を解決できるのか解説します。
データ分析で解決できる主な5つの物流課題
データ分析を取り入れることで解決できる物流課題とは、主に次の5つです。
- サプライチェーンのリードタイムを短縮
- 構内物流を最適化してモノの流れを改善
- 配送ルートを最適化しドライバーと連携
- あらゆるデータを取り入れたトレンド予測
- お客様データを分析し問い合わせ数を削減
物流企業の経営者や物流プロセスの責任者からすれば、「早急に解決したい」という課題ばかりかと思います。では、データ分析がこれらの物流課題にどうアプローチするのか具体的にご紹介します。
1.サプライチェーンのリードタイムを短縮
サプライチェーン全体のリードタイム短縮は、顧客や消費者のサービスに対する満足度を上げるだけでなく、コスト削減にも大きく寄与します。この物流課題に対してデータ分析がどうアプローチするかというと、モノの追跡データの活用が効果的です。
サプライチェーンの起点から顧客や消費者にモノが届くまでの経路やプロセスを追跡し、それらをデータとして蓄積・分析すれば、サプライチェーンのどこに問題が潜んでいるのかを顕在化できます。さらに、より最適なサプライチェーンを構築するには何が必要か、どういった経路が最適かまで、データからヒントを得ることも可能です。
2.構内物流を最適化してモノの流れを改善
製造業・小売業の生産性向上に欠かせないのが「構内物流の最適化」です。モノの流れを改善できれば、必要なモノを必要なタイミングで供給し、生産活動や配送業務などにかかる時間・コストを削減できます。
では、構内物流の最適化には先進的なマテハン機器や管理システムを導入すれば良いかといえば、それだけでは不十分です。先進的なマテハン機器も管理システムも、データ分析を通じてその価値を最大限引き上げられます。
たとえば、近年では構内物流の最適化を目的に、「マテハンの自動化」に取り組む工場・倉庫が増えています。しかし自動化のための機器・ロボットの作業正確性は100%ではなく、不具合が生じるケースもあります。そうした現場にデータ分析を取り入れれば、自動化のどこに問題があり、構内物流プロセスをどのように改善すれば作業正確性がよりアップするのかを突き止められます。
さらには、配送先も間違えやピッキングミスの防止(ポカよけ)をどのように構築すれば良いかも、データ分析から見えてくるでしょう。
3.配送ルートを最適化しドライバーと連携
2024年4月からドライバーの労働時間規制が強化され、長距離輸送が1人では難しくなることが物流業界で強く懸念されています。いわゆる「物流危機(2024年問題)」では、日本全体で14.2%の輸送能力が不足するという試算もあるほどです(全日本トラック協会のデータより)。
「物流危機(2024年問題)」を解決するために有効な手段が、データ分析を取り入れて配送ルートの最適化や、ドライバーとの連携を強化することです。
日々の配送データ(運転時間、距離、ルート、排気量など)を蓄積・分析すれば、トラックの発着場所や配送するモノごとの最適な配送ルートを算出できるようになります。そうして得た情報を、たとえばドライバーの端末に表示すれば、ドライバーは常に最短・最適な配送ルートを辿ってモノを運べます。
データ分析を取り入れて運転時間と距離を削減することで、コスト削減だけでなくドライバー不足問題にも対処でき、さらには環境配慮も可能です。
4.需要予測を行い物流コストを最大限削減
サプライチェーン全体でデータを蓄積・分析する基盤を整えられれば、顧客や消費者から物流にデータをフィードバックする仕組みを作れます。そうして蓄積したデータに、社内で得られるその他のデータや公的データを組み合わせることで、需要予測も可能になります。
物流において最も価値ある情報とは「未来の情報」であり、いわば「将来的にどれくらいの需要があるか」を把握することが非常に重要です。需要予測は一朝一夕で成るモノではなく、日々のデータの蓄積が欠かせません。
物流がデータ分析を取り入れれば、いずれは需要予測を導入し、PDCAサイクルを回すことで予測精度を挙げられるようになります。正確な需要予測があれば、何を・いつ・どれくらい仕入れればいいのか、モノを運ぶために車両は何台必要かなどの見通しが立つようになり、無駄な物流コストを最大限削減できるでしょう。
5.お客様データを分析し問い合わせ数を削減
物流で生成されるお客様データを分析すれば、問い合わせ数削減などカスタマーサポートの業務効率化も達成できます。
たとえば問い合わせ内容をデータとして蓄積・分析すると、顧客がよく抱えている問題・質問の傾向が読み取れ、それに応じたQ&Aサイトの構築やサービスの最適化を図れるようになります。
さらにお客様データの分析を通じて顧客ごとのニーズを理解し、物流サービスのパーソナライゼーションを実現することも可能です。
物流業界が保有しているデータと、収集方法
物流業界が保有している(収集可能な)データには次のようなものがあります。
トラックから得られるデータ | 位置情報、移動速度、移動距離、エンジン稼働時間・稼働状態、ブレーキの回数、CO2排出量、乗務時間など |
ドライバーから得られるデータ | 荷役の日時、発着の日時、積載量・積載率、遅延・早着、 |
公的に得られるデータ | 降水確率、風速、気温、湿度、積雪、交通量など |
これらのデータをどのようにして収集するかというと、主にIoTデバイスまたはシステムから収集します。
たとえば、北米では2018年に連邦自動運輸安全局(FMCSA)が運送業者のトラックに対し、電子運航記録装置(ELD)の設置を義務付けました。ELDはIoTデバイスの一種であり、さまざまなデータを自動的に収集する仕組みを生み出しています。
ELDのようなIoTデバイスをトラックに設置すれば必要なデータの自動収集が可能になり、さらに配送管理システムなどから得られるデータを組み合わせることで、物流におけるさまざまな課題を解決するための基盤が整います。
物流業界でデータ分析を実施する際のポイント
物流業界でデータ分析を取り入れ、なおかつ成功させるためにはここでご紹介する2つのポイントが重要です。
分析目的を明確にし継続的に実施する
まず重要なのが「分析目的の明確化」です。「データ分析で解決できる主な5つの物流課題」の章にて、データ分析のアプローチをご紹介しましたが、企業ごとにどういった物流課題を優先的に解決すべきかが異なります。
そのため、「データ分析を取り入れる一般的な目的」をプロジェクトの方針にするのではなく、必ず企業ごとの分析目的を明確にすることが欠かせません。
実際に分析目的を明確にする際は、経営者や物流プロセスの責任者が日々感じている物流課題の解決を目的にするのではなく、実態調査や現場アンケートなどを行った上で明確化に取り組みましょう。
分析プロジェクトは目的の明確化から理論的でなくてはならず、いわゆる勘や経験に頼って「この物流課題を優先的に解決しよう」と考えてしまっては、分析プロジェクト自体が破綻してしまいます。
また、分析プロジェクトを一度始めたら継続的に実施することも重要ポイントの一つです。データ分析は取り入れてすぐに結果が出るものではなく、まずはPoC(Proof of Concept/概念実証)に始まり、PDCAサイクルを回しながら段階的に導入していく必要があります。
そのため、分析プロジェクトを本格始動するためには一定のコスト・期間がかかることを念頭に置き開始することが重要です。
物流に長けた人材をデータ人材化する
物流業界で分析プロジェクトを推進するには、当然ながらデータ分析の専門家と呼べる人材が必要です。しかし、外部からデータ人材を獲得するのではなく、「物流に長けた人材をデータ人材化する」というポイントを意識してみてください。
なぜなら、物流プロセスは複雑であり企業によって商習慣も異なります。そのため企業ごとの物流プロセスを熟した人材をデータ人材化する方が、コスト・時間の制約の中でよりスピーディに結果を出せるためです。
「物流に長けた人材をデータ人材化する」と聞くと大々的な教育が必要だと感じやすいですが、実際は異なります。データ分析テクノロジーを活用すれば、データの収集・加工・分析を自動的に行い、新しいインサイト(洞察)を得るための環境を整えることができます。
社内のデータ人材が担うのは、データ分析テクノロジーが自動的に生み出したレポートを「どのようにして価値に変換するか」という部分です。
つまりは、データ分析のために必要な基盤・ツールの整備や、データ人材育成などは我々のようなデータ分析企業に任せ、その後は適宜支援を受けながらデータ分析を少しずつ内製化していきます。こうすれば、外部のデータ人材に物流プロセスを理解してもらうよりも圧倒的短期間で、物流に長けた人材をデータ人材化することができます。
物流業界のデータ分析の活用事例
物流において最も価値ある情報とは「未来の情報」と前述しましたが、データ分析によって未来の情報を実際に獲得しているのが配送大手のヤマト運輸です。ヤマト運輸では社内にDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進組織を設置し、年間20億個以上の取り扱い荷物から生まれるデータを活かし、業務量予測やオペレーションの効率化などを実現しています。
また、2020年から開始した新サービスの「EAZY」では、EC利用者・EC事業者・配送事業者のデータを一元化することで、精度の高い配当オペレーションを実現しています。これにより商品の受け取り方法や配送日時を、受け取り直前まで変更できるなどデータ分析を通じてサービスの付加価値を高めています。
参考:配送データ活用で、3カ月先の業務量を予測――ヤマト運輸が目指すDX 物流会社のイメージを覆す成果とは|ITmedia
まとめ
本記事では、物流にデータ分析を取り入れる5つのメリットや活用事例、成功ポイントをご紹介しました。
「物流危機(2024年問題)」は物流業界が一体となって取り組むべき問題であり、物流の仕組みそのものに改革を起こす必要があります。その一翼を担う存在が、他でもない「データ分析」です。
物流プロセスによって生み出されるデータの一つ一つには意味がありませんが、膨大なデータを蓄積し、目的に応じて加工・整形した上で分析を行えば、そこから課題解決につながるインサイト(洞察)を発見できる可能性は大いにあります。
これを機に、物流におけるデータ分析の取り組みについてぜひご検討ください。まずは自社の物流サービスや構内物流などが抱えている課題解決を目的として、データ分析を行ってみましょう。物流企業一社一社のそうした取り組みが、物流業界全体の根本的課題を解決する礎となります。
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