現代のビジネス環境において、データは企業のビジネス成功を左右する重要な資産です。データの価値が高まる一方で、サイバー攻撃やデータ漏えいなど企業のデータへの脅威も高まっています。サイバー攻撃や情報漏えいなどが発生すると、甚大な被害が発生する可能性が高まります。そのため、データのセキュリティを保つことは、企業の信頼性と将来性に直結しています。
本記事では、データセキュリティに取り組む企業経営者やセキュリティ担当者の方に向けて、データセキュリティの基本概念や重要性、法規制、リスク要因、そして実用的な対策方法について解説します。本記事を通じて、データセキュリティの深い理解と重要性について考えていただければ幸いです。
目次
1.データセキュリティとは
データセキュリティとは、データへの不正アクセスや改ざん、漏えいから防御するための措置やプロセスのことです。データの「機密性」「完全性」「可用性」を守るために、データの暗号化やアクセス管理、バックアップ、データ消去、データマスキングなどの方法を実施します。データセキュリティは、企業や団体、個人のあらゆる種類のデータに適用されます。
データを保護する方法は多岐にわたりますが、効果的なデータセキュリティを実現するためには、洗練されたビジネス戦略と最適なテクノロジーの組み合わせが重要です。
データセキュリティの主要な要素
データセキュリティの三つの主要な原則は「機密性」「完全性」、そして「可用性」です。これらは情報セキュリティマネジメントシステムにおいて、データがどのように管理されるべきかを定める基本的な指針です。以下では、これらのデータセキュリティの主要な要素について解説します。
データの機密性
データの機密性とは、外部に漏れることなくデータを保護することを意味します。機密性の維持は、そのデータへのアクセスを所有者や認可された関係者に限定することによって成り立ちます。特に、個人情報、企業の秘密、取引に関するデータなどは、高い機密性が要求される典型的な例です。
データの完全性
データの完全性とは、データが正確で最新であり、かつ不完全でない状態を保つことを意味します。誤った、または適切に管理されていないデータは、信頼性が低く利用に適さないため、この保証が重要です。これには、データの入力規則の遵守、文書の更新管理、データの破損や誤転写を防ぐ措置が含まれます。データを適切に管理し、利用しやすくすることは、データセキュリティと密接に関連しています。
データの可用性
データの可用性とは、必要な時にデータやシステムが適切にアクセス可能である状態を維持することです。これには、システム障害やサイバー攻撃によるサービスの中断を最小限に留め、継続的な運用を確保することが含まれます。可用性は、データとシステムが常に利用者の手の届くところにあることを保証することを目指しています。
2.データセキュリティの重要性
企業には顧客情報から財務情報まで、多岐にわたるがデータが存在します。これらのデータを分析することで、業務の効率化や新製品開発が可能になります。その一方で、これらのデータが悪用されると企業や顧客に重大な損害をもたらすリスクも伴います。
『インシデント損害額調査レポート 2021』(特定非営利活動法人日本ネットワークセキュリティ協会)の試算例では、大規模なマルウェア感染を起こした場合、企業は最大で約3億7,600万円の損害を受ける可能性があることが示されています。さらに、ECサイトからクレジットカード情報が漏れた場合、損害は約9,490万円に達するとされています。
また、警視庁が公表した『令和4年の犯罪情勢』によると、令和4年に警察庁が検知したサイバー空間における探索行為等とみられるアクセス件数は、1日1つのIPアドレスあたり7,707.9件と過去最多となっています。
これらのレポートや統計結果は、セキュリティのわずかな不備が企業や顧客のデータを危険にさらす可能性があることを示唆しています。データの回復には膨大なコストと時間が必要です。データは現代社会で重要な価値を持ち、常に脅威にさらされています。そのため、データを守るための対策は経営上の重要課題であり、社会的責任と言えます。
3.データセキュリティに関する主な法規制
近年のサイバー攻撃やプライバシー侵害などの増加を受けて、世界各国でデータセキュリティに関する法規制が導入されました。これらの法規制は、個人情報の不正利用や誤用から消費者を守ることを目的としており、データセキュリティ対策を怠る企業には罰則が課せられます。その結果、データセキュリティは企業にとってより重要な課題となりました。以下では、主要なデータセキュリティの法規制を紹介します。
個人情報保護法
個人情報保護法は、個人のプライバシーを保護し、個人情報の適切な取り扱いを確保するための法律です。この法律は、個人情報の収集や使用、管理、共有に関して、明確なガイドラインを示しています。企業や組織は、個人情報保護法に従って個人情報を安全に扱い、漏えいや不正利用を防ぐための適切な対策を講じる必要があります。個人情報の不適切な取扱いには罰則が課せられることもあります。
GDPR
GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)とは、欧州経済領域(EEA)における個人データの取り扱いに関する法的基準を設けた規則です。この規則の主な目的は、個人情報とプライバシーの保護を強化することにあります。GDPRでは「本規則は、EU 域内に拠点のない管理者によるものであっても、国際公法の効力により加盟国の国内法の適用のある場所において行われる個人データの取り扱いに適用される。」と記載されており、EU域内に施設を持たない組織に対しても適用されます。GDPRの規定に違反した場合、企業や組織には、厳しい制裁金が課せられます。
CPRA
CPRA(California Privacy Rights Act of 2020:カリフォルニア州プライバシー権法)とは、カリフォルニア州に住む人々が自分たちのデータへのアクセス権を持ち、そのデータの第三者への提供について規制する法律です。この法律は、カリフォルニア州に拠点があるかどうかにかかわらず、カリフォルニア州の居住者のデータを扱うすべての企業に適用されます。そのため、アメリカ国内でインターネットサービスを提供する企業は、CPRAの要件を満たす必要があります。
4.データリスクの主な要因
データを脅かすリスクは多岐にわたります。これらのリスクの主要な原因には、悪意のある第三者による攻撃、単純なヒューマンエラー、自然災害などが含まれます。次に、これらのデータリスクの主な要因について解説します。
情報漏えい
「情報漏えい」とは、外部の攻撃者によって標的にされた際、機密性の高いデータが不正に外部に流出することを指します。これには、個人情報や企業の機密情報など、保護すべき重要なデータが含まれます。
サイバー攻撃
悪意を持った攻撃者は、マルウェアやフィッシング、ランサムウェアなどを利用して情報システムを乗っ取り、データを損傷させるリスクをもたらします。マルウェアは、害を及ぼす目的で作られた悪意あるソフトウェアです。これらの攻撃者は、システムの弱点を突いて組織のネットワークへ侵入したり、普通のメールに見せかけて攻撃を行ったりする手法を使います。
不正アクセス
不正アクセスは、権限を持たない者がデータ管理システムに不正にアクセスすること、または権限を持つ者がその権限を不適切に使用することにより、データの機密性や完全性が危険にさらされるリスクです。
ヒューマンエラー
企業内での従業員や関係者による意図的な行動や誤りにより、データの不正利用やデータ処理ミスが発生するリスクがあります。さらに、従業員の不注意やミスを突くことでサイバー攻撃や不正アクセスが行われることも多いため、この点に関しては特に対策を強化する必要があります。
物理的リスク
ハードウェアやデバイスの盗難、故障、災害などが原因でデータが失われたり破壊されたりするリスクがあります。ハードドライブやメモリーカードなどのハードウェアは時に故障し、落下、停電、雷、水害などの自然災害によって破損することもあります。また、ノートパソコンやスマートフォン、USBメモリーなどの持ち運び可能なデバイスは、紛失や盗難によってデータ漏えいの原因となることもあります。
5.データセキュリティの主な方法
データセキュリティには、さまざまな方法があります。具体的には、ネットワークのセキュリティやデータ暗号化、データマスキング、アクセス管理などが挙げられます。また、自社の物理的なセキュリティ対策も重要です。さらに、従業員へのセキュリティ教育も重要で、フィッシングやマルウェアに対する認識を高めることも求められます。以下では、データセキュリティの主な方法について解説します。
ネットワークのセキュリティ
インターネットを通じた社内ネットワークへの不正アクセスを防ぎ、侵入が発生した場合でも被害を抑えるための措置として、ファイアウォール、侵入検知システム、ウイルス対策ソフトウェアがあります。ファイアウォールは、トラフィックの監視と管理を行い、不正アクセスをブロックしてシステムを守ります。これにより、ハッカーなどが企業のデータにアクセスすることを阻止します。
一方、ウイルス対策ソフトウェアは、マルウェアやウイルスなどの有害なソフトウェアを検出して排除し、システムやデータのセキュリティを維持する役割を果たします。
データ暗号化
機密データには、高度な暗号化技術を用いたデータ暗号化ツールを使用してデータ暗号化を実施します。これにより、データが外部に漏れたとしても、攻撃者が内容を解読することはほぼ不可能です。
暗号化キーは特定のアルゴリズムを使用して通常のテキストを読み取れない形式に変換し、権限を持つユーザーだけがデータを解読できるようにします。ファイルやデータベースの暗号化ツールは、暗号化やトークン化を通じて内容を隠し、機密データの強力な防御ラインとして機能します。
データマスキング
データマスキングは、元のデータの構造や意味を維持しながら、個人情報などの特定の情報を隠したり書き換えたりする技術で、データの機密性を守ります。この技術により、実際の機密データを安全に保ちつつ、新しい商品やサービスの開発ができます。
データアクセスの権限管理
データへのアクセスは、アクセス権限を持つ者のみに限定されるように厳しく管理します。アクセス管理には、ユーザー名とパスワードによる認証の他にも、生体認証や多要素認証といったより高度な方法が採用されています。これらの手法により、指定されたユーザーのみが特定のデータへアクセスできます。
データの削除
多くの企業では、行方不明のデータや不要なデータがシステム内に溜まり、保守作業を複雑にしています。効率的なデータガバナンスを確立するためには、定期的なデータの削除と整合性の維持が重要です。データ削除は、セキュアなソフトウェアを用いて行われ、すべてのストレージ・デバイス上のデータを完全に上書きすることで、復元が不可能な状態にします。
適切なデータのバックアップ
データの破壊や改ざんが行われた場合、被害の規模はバックアップの質に大きく依存します。サイバー攻撃からデータを守るためには、適切なデータのバックアップが重要です。データを定期的にバックアップし、それを元データとは別の物理的な場所(オフライン)に保存します。データのバックアップは自動化できるため、自動化ツールを活用するといいでしょう。また、定期的なテストを行い、バックアップの効果を確認しなくてはいけません。
物理セキュリティの対策
物理セキュリティ対策には、社内のドアの施錠やセキュリティシステムの設置、使用済み物理メディアの安全な廃棄に関するルールの策定などが含まれます。これらの対策は、物理的なハードウェアの保護にとってどの組織にも欠かせない重要な部分です。
従業員の教育
従業員に対してデータセキュリティ教育を実施し、セキュリティリテラシーを向上させます。これには、組織内で明確なセキュリティポリシーとガイドラインを策定し、従業員にそれらの遵守を求めることが含まれます。また、データの取り扱いやセキュリティ違反の際の対処法などのセキュリティ手順は文書化して随時更新するようにしましょう。従業員や関係者に対してのデータセキュリティ教育は、企業にとって最も重要であると言えます。
6.まとめ
本記事では、データセキュリティの基本概念や重要性、法規制、リスク要因、そして実用的な対策方法について解説しました。膨大なデータを保持する企業にとって、サイバー攻撃から企業自身と顧客を守るために、データセキュリティは必須です。データセキュリティは、技術的な側面だけでなく、物理的なデータ保護や従業員教育の重要性も含んでいます。
データは現代のビジネスにおける重要な財産であり、その安全性を保つことは企業の持続可能な成長に直接影響します。すなわち、データセキュリティは単なるコンプライアンスの問題ではなく、信頼と評判を守るための戦略的な取り組みとして位置づけられるべきです。
データビズラボでは、必要なデータ活用人材を育成・確保するための研修やデータ人材戦略の支援を行っております。
データ活用人材が不足してお困りの場合はデータビズラボへお問い合わせください。
コメント