データドリブンマーケティングとは、あらゆる局面においてデータ主導で意志決定をするマーケティングのことです。
データの価値を信用し、データを出発点としてマーケティング戦略の策定・実行を進めていきます。
しかし、こう聞いても、「従来のデータを使ったマーケティングと、何が違うのか?」と疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。
「データドリブン」は、2010年代の後半からバズワードともいえる流行を見せています。しかしながら、言葉が先行し、本質が理解されているとは言いがたいのが現実です。
結論からお伝えすれば、従来のデータを用いるマーケティングと、いま注目されているデータドリブンマーケティングは、似て非なるものです。
本記事では、多くの人が誤解してうまく活用できていない「データドリブンマーケティング」について、誤解しやすい部分を紐解きながら、わかりやすく解説していきます。
本記事のポイント
- データドリブンマーケティングの土台となる考え方が身につく
- 実際の取り組み方を具体的に解説
- 成功のための重要ポイントをお伝え
「データドリブンマーケティングとは何なのか理解したい」
「自分もデータドリブンマーケティングをやりたい」
…という方におすすめの内容となっています。
この解説を最後までお読みいただければ、「データドリブンマーケティングとは何か?」が、ストンと肚落ちして理解できます。
正しい理解のもとにデータドリブンマーケティングに取り組めば、ビジネスの収益性が向上し、顧客にすばらしい価値を届けることができるでしょう。
目次
1. データドリブンマーケティングとは?基本の知識
まず土台となる考え方を身につけるために、データドリブンマーケティングとは何か、その本質的な意味から押さえていくことにします。
1-1. 「データドリブン(data driven)」の本当の意味
「データドリブンマーケティング」といわれても、いまひとつ理解できない。その原因は「データドリブン」という言葉が持つニュアンスを、くみ取れていないせいかもしれません。
データドリブンは計算機科学の用語
データドリブンは「データ駆動」と訳されますが、これはもともと計算機科学(コンピューターサイエンス)の用語なのです。
駆動とは「動力を与えて動かすこと」。
データドリブン(データ駆動)は、ひとつの計算によって生成されたデータが次の計算を起動して、連続した計算が実行されていく計算モデルです。
データしか駆動力を持たない
別の表現をすれば、アクティビティ(活動)が、データをドライバー(駆動体)として進んでいく様態を指してデータドリブンといいます。
出発点はデータで、データが次の活動を動機づけて駆り立てる駆動力となります。データ以外のものは駆動力を持ちません。
「駆動力」という言葉がわかりにくかったら、「スイッチオン」「電源」「起動力」などと置き換えて解釈してみてください。
マーケティング活動に当てはめるなら、データ以外のもの(アイデアや直感、経験など)からはスタートしないということです。
「データから始まる」のがデータドリブンマーケティング、となります。
1-2. 従来のデータマーケティングは「デマンドドリブン(demand driven)」
もう少し腑に落ちるよう、データドリブンの対義語をご紹介しましょう。
データドリブンと反対の意味を持つのは「デマンドドリブン(demand driven)」です。デマンドドリブンは「要求駆動」と訳されます。
データドリブン(データ駆動) | 「データ」が出発点になる |
デマンドドリブン(要求駆動) | 「要求」が出発点になる |
デマンドドリブンは、要求に基づいて計算が行われる計算モデルです。
たとえば「アイデア」を出発点として、そのアイデアの実行価値があるか検証するためにデータ分析をするなら、それはデマンドドリブンマーケティングといえます。
データ分析の駆動となっているのは、データではなく「アイデアを検証せよという要求」だからです。
1-3.「データ主導」とはデータが先んじてリードすること
ここまでお読みいただくと、従来の「データマーケティング」と、いま話題となっている「データドリブンマーケティング」の違いが見えてきたのではないでしょうか。
データマーケティング | データを使ったマーケティング |
データドリブンマーケティング | データを出発点とするマーケティング |
これが冒頭で述べた「あらゆる局面において“データ主導”で意志決定をする」が意味するところとなります。
マーケティング活動を先導する旗振り役は、いつも「データ」なのです。
意思決定がデータに牽引され、(計算モデルの計算のように)連続して実行されていくモデルが、データドリブンマーケティングであり、「データの価値」を信じる組織が採用する手法といえます。
1-4. 「データ分析すればデータドリブン」は誤解
「データ分析をして、意思決定に反映していればデータドリブン」というのは誤解で、“データ駆動か否か”が重要ポイントです。
わかりやすく単純化してしまえば、「A/Bテスト」は(厳密な意味での)データドリブンではありません。デマンドドリブンです。
理由は「AとBのどちらの効果が高いか知りたい」という要求を駆動としたデータ分析だからです。
一方、「ソーシャルリスニング(別名:傾聴戦略)」は、ユーザーの生の声をデータとして収集し、そこから洞察を得る分析ですからデータドリブン、といえます。
※ソーシャルリスニングについて興味のある方は「ソーシャルリスニング」もご覧ください。
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2. データドリブンマーケティングから得られること
データドリブンマーケティングの根底を流れる考え方が把握できたところで、次は、「データドリブンマーケティングから何が得られるのか?」に焦点を当てたいと思います。
3つのポイントがあります。
- 競争で先手を打てる
- 意思決定のノイズが消えてROIが向上する
- 顧客に実益がもたらされる
以下で詳しく見ていきましょう。
2-1. 競争で先手を打てる
1つめは「競争で先手を打てる」です。
前述の“デマンドドリブン”で、たとえば「アイデア」を出発点とするのも間違いではありません。アイデアを出発点として試行錯誤しても、正しい解にたどり着けることはあります。
しかし問題は、アイデアを出発点とするのでは、スピードが遅いことにあります。
一握りの天才を除き、“データ発”より“アイデア発”で早く最適解にたどり着くのは不可能です。なぜなら、これから現実となる未来は、最初にデータに表れるからです。
あらゆる予兆は、最初にデータへ織り込まれます。人間が直感や勘で予兆を察知するのは、データよりも後です。
Google・Amazon・Appleなどのハイテク企業が競争に打ち勝ち生き残っているのは、決して偶然ではありません。
彼らは早期からデータドリブンマーケティングを実践しており、あらゆる予兆をいち早くデータで察知し先手を打てたから、競争優位性を保てたのです。
2-2. 意思決定のノイズが消えてROIが向上する
2つめは「意思決定のノイズを消してROIを向上できる」です。
マーケティングの意思決定において、感情に浸るほど無駄なことはありません。しかし、多くのケースで、感情がノイズとなり、意思決定を邪魔しています。
たとえば、従業員や取引先への親しみ、長年実施してきた施策への愛着、損したくない気持ち、個人のプライド、顧客に対する好き嫌いなどは、ときに意思決定を誤らせます。
感情ではなくデータをドライバーにして意思決定すれば、こういったノイズを消して、意思決定の精度が上がります。
その結果、何が起きるのかといえばROI(Return On Investment:投資利益率)の大幅な向上です。
精度の高い意思決定は、利益という果実になって返ってきます。
2-3. 顧客に実益がもたらされる
3つめは「顧客に実益がもたらされる」です。
データドリブンマーケティングでは、従来のマーケティングと顧客へのアプローチ方法が変わっていきます。
従来のマーケティングでは、マーケターの推論がベースとなって、商品開発やサービス提供が行われてきました。
データドリブンマーケティングでは「データ(事実)」をもとに、顧客が求めるベネフィットを、必要なタイミングで、必要な人へ届けることができます。
マーケティング活動の中枢が、「企業にとって都合のよいターゲット層のニーズ予測」から、「顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズ」へと変化するのです。
企業やマーケターの自己満足的な活動は淘汰され、代わって顧客に実益をもたらすのが、データドリブンマーケティングといえます。
3. データドリブンマーケティングの始め方
「データドリブンマーケティングを実践したい」
という方に向けて、データドリブンマーケティングの始め方をご紹介します。
多くの企業が、「データドリブンができると謳う有料ツールの導入から始める」という間違いを冒しているので、注意していただきたいポイントです。
ここまでお読みいただいた方ならおわかりかと思いますが、データドリブンマーケティングとはツール(手段)というより、“在り方”です。
よって、組織の“在り方”を変えるところから始めなければなりません。
具体的には以下の5ステップで流れを見ていきましょう。
- ステップ1:組織と意思決定プロセスを改革する
- ステップ2:重要ドライバーとする指標を決める
- ステップ3:分析するデータとフローを整備する
- ステップ4:スモールウィンを作り組織に定着させる
- ステップ5:人材に投資して拡大する
3-1. ステップ1:組織と意思決定プロセスを改革する
1つめのステップは「組織と意思決定フローを改革する」です。
極端な話をすると、データドリブンマーケティングを実践するなら、データの価値を信じ、データでしか駆動しない人間だけで組織を構築するのがよい方法です。
とくにリーダーは、データ駆動人間でなければなりません。リーダーが、データより自分の経験や直感を信じるタイプのチームは、データドリブンマーケティングに失敗します。
経営トップが組織全体に対して、データドリブンマーケティングへ舵を切ることを宣言し、その方針に見合う人材を大胆に登用することから、組織の変革をスタートしましょう。
同時に、新しい組織にあわせた意思決定プロセスを定めます。特定の人の勘や経験で重要な意思決定がなされないよう、企画書のフォーマットや決裁フローを検討してください。
▼ 企画書フォーマットの例
3-2. ステップ2:重要ドライバーとする指標を決める
2つめのステップは「重要ドライバーとする指標を決める」です。
「データ主導」と一言にいっても、データは無限に存在します。自分たちの組織がとくに何のデータを重要視するのか決めておくことが大切です。
その具体的なヒントとして活用してほしいのが、ジェフ・ベゾスの愛読書としてベストセラーになったマーク・ジェフリー『データ・ドリブン・マーケティング 最低限知っておくべき15の指標』です。
以下の15の指標について、それぞれ詳しく解説されています。
- (1)ブランド認知率
- (2)試乗(お試し)
- (3)解約(離反)率
- (4)顧客満足度(CSAT:Customer Satisfaction)
- (5)オファー応諾率
- (6)利益
- (7)正味現在価値(NPV:Net Present Value)
- (8)内部収益率(IRR:Internal Rateof Return)
- (9)投資回収期間
- (10)顧客生涯価値(CLTV:Customer Lifetime Value)
- (11)クリック単価(CPC:Costper Click)
- (12)トランザクションコンバージョン率(TCR:Transaction Conversion Rate)
- (13)広告費用対効果(ROAS:Returnon Ad Dollars Spent)
- (14)直帰率
- (15)口コミ増幅係数(WOM:Word of Mouth)
出典:マーク・ジェフリー『データ・ドリブン・マーケティング 最低限知っておくべき15の指標』
3-3. ステップ3:扱うデータとフローを整備する
3つめのステップは「扱うデータとフローを整備する」です。
まずは最低限ステップ2で決めた重要ドライバーの分析フローを決めるようにします。データ分析のパートは、最初から完璧を目指すと必ず失敗するためです。
データ分析のツールやフローを整備することに時間がかかりすぎて、結局データドリブンマーケティングの導入自体に挫折しがちです。
「不完全でもよいので、とにかくやる」ことを重視しましょう。とくに日本企業は、完璧主義で失敗を恐れるためにスタートが遅れる傾向にありますから、スタートするだけでもアドバンテージです。
データ分析のやり方がよくわからないときには、「【データ分析入門】知識ゼロから始めるためのデータ分析ガイド」を参考にしてみてください。
3-4. ステップ4:スモールウィンを作り組織に定着させる
4つめのステップは「スモールウィンを作り組織に定着させる」です。
データドリブンの文化を社内に定着させる最善の方法は、チームがデータドリブンによる成功体験をすることです。
データドリブンマーケティングの導入期は、大きな成功を狙って失敗するのは絶対に避けます。その代わり、スモールウィン(小さな成功)を積み重ねる戦略をとりましょう。
目的は、チームにポジティブな感情とデータドリブンへの信頼をもたらすこと。
成功体験をすると、データの価値を信じられるようになり、チームにデータドリブンが定着していきます。
3-5. ステップ5:人材に投資して拡大する
5つめのステップは「人材に投資して拡大する」です。
ステップ1で、
“データドリブンマーケティングを実践するなら、データの価値を信じ、データでしか駆動しない人間だけで組織を構築するのがよい方法”
…と述べました。
データドリブンマーケティング導入期の投資は、有料ツールやITインフラの整備よりも先に、「人材」に対して行ったほうが効率的です。
ツールやインフラが整備されても、肝心の人間がデータ駆動でなければ、使いこなせないからです。
具体的な投資としては、たとえば、以下が挙げられます。
- データ主導の意思決定を促進するトレーニングを提供する
- 専門家によるデータ分析の社内研修を開催する
- データサイエンティストを採用する
- データドリブンマーケティングの実績ある企業からマーケターをスカウトする
人材に投資し、組織にデータ駆動人間が増えチームがデータ駆動型になると、有料ツールやITインフラの整備も、データドリブンに意思決定・実行できるようになります。
4. データドリブンマーケティングに取り組む際の注意点
データドリブンマーケティングに取り組む際には、あらかじめ注意していただきたい点があります。
- デマンドドリブン排除よりデータドリブンを増やす発想をする
- 質の悪いデータに惑わされないデータリテラシーを身につける
以下で詳しく見ていきましょう。
4-1. デマンドドリブン排除より「データドリブンを増やす」発想をする
1つめは「デマンドドリブン排除よりデータドリブンを増やす発想をする」ことです。
ここまで、データドリブンの根底を流れる考え方を理解していただきたく、“厳密な意味での”データドリブンについてお話してきました。
一方、矛盾するようですが、やむを得ずデマンドドリブン(要求駆動)が発生するときには受け入れる柔軟性も、持ち合わせておく必要があります。
「あらゆる意思決定をデータドリブンでしなければ、データドリブンではない」
と思い込めば柔軟性を失い、社内に定着する前に挫折してしまうからです。
デマンドドリブンの完全排除を目指すより、「データドリブンの割合を増やしていく」というスタンスで捉えるほうが、うまくいきます。
4-2. 質の悪いデータに惑わされないデータリテラシーを身につける
2つめは「質の悪いデータに惑わされないデータリテラシーを身につける」ことです。
不正確なデータや偏ったデータを使っていると、企業は無意識のうちに不正確で偏ったマーケティング戦略を構築することになります。
この問題がやっかいなのは、自分たちが重大な間違いを冒していることに、なかなか気づけないことです。
「3-5. ステップ5:人材に投資して拡大する」で、チームをトレーニングする重要性を述べました。
人材育成がおろそかになれば、よかれと思いながら会社やブランドを崩壊させるリスクもあることに、注意を払ってください。
5. データドリブンマーケティングを成功させる3つのポイント
最後に、データドリブンマーケティングを成功させる3つのポイントをお伝えします。
- 揺らがない「ブランドパーパス」
- データ駆動についていく「スピード」
- 「デジタルテクノロジー」の活用
5-1. 揺らがない「ブランドパーパス」
1つめのポイントは「揺らがないブランドパーパス」です。
データドリブンマーケティングとは、何でもデータの言いなりになって、データの奴隷になるという意味ではありません。
ではデータ以外に組織はどんな意志を持てばよいのかといえば、重要な概念が「ブランドパーパス」です。
パーパスとは「存在意義(WHY:理念と大義)」のこと。
ブランドパーパスとは「私たちのブランドは、何のために存在するのか?」という根源的かつ究極的な問いに対する答えです。
データドリブンマーケティングとパーパスブランディングを同時に実践するブランドは、盤石なブランドを構築し、顧客と強固な関係を築いていくでしょう。
5-2. データ駆動についていく「スピード」
2つめのポイントは「データ駆動についていくスピード」です。
データドリブンマーケティングを実践してみるとわかるのが、「スピード感のある組織でないと、実践が難しい」という事実です。意思決定までがスピーディになるので、その分、アクションも早くなります。
データ駆動についていくタフでパワフルなチームづくりが、データドリブンマーケティングの成果を最大化するコツともいえます。
5-3. 「デジタルテクノロジー」の活用
3つめのポイントは「デジタルテクノロジーの活用」です。
タフでパワフルなデータ駆動チームが構築され、データドリブン文化が定着してきたら、次なる投資対象は、もっぱら「デジタルテクノロジー」です。
人工知能(AI)・機械学習を活用したデータ分析、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール、データ可視化ツールなど、さまざまなデジタル技術があります。
この段階では、外部ベンダーやコンサル会社の助言を受けるのもよい方法です。幅広く新しい情報を収集して、自社に合う最先端技術があれば、積極的に試していきましょう。
6. まとめ
本記事では「データドリブンマーケティング」をテーマに解説しました。簡単に要点をまとめます。
データドリブンマーケティングとは、以下のとおり定義できます。
- データが出発点となり、データがあらゆる意思決定をリードして戦略策定やマーケティング活動が行われるデータ主導のマーケティング
データドリブンマーケティングから得られることとして、以下3つのポイントがあります。
- 競争で先手を打てる
- 意思決定のノイズが消えてROIが向上する
- 顧客に実益がもたらされる
データドリブンマーケティングの始め方を5つのステップでご紹介しました。
- ステップ1:組織と意思決定プロセスを改革する
- ステップ2:重要ドライバーとする指標を決める
- ステップ3:扱うデータとフローを整備する
- ステップ4:スモールウィンを作り組織に定着させる
- ステップ5:人材に投資して拡大する
データドリブンマーケティングに取り組む際には、以下にご注意ください。
- デマンドドリブン排除より「データドリブンを増やす」発想をする
- 質の悪いデータに惑わされないデータリテラシーを身につける
データドリブンマーケティングを成功させる3つのポイントはこちらです。
- 揺らがない「ブランドパーパス」
- データ駆動についていく「スピード」
- 「デジタルテクノロジー」の活用
データドリブンマーケティングは、現代のマーケティングシーンにおいて、最も有効な手法といっても過言ではありません。本記事を取り組みの一助としていただければ幸いです。
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