近年、経営環境はますます複雑化し、企業には迅速かつ的確な意思決定が求められています。その鍵となるのが、経理のデータ分析です。
経理部門が保有する膨大なデータを分析することで、経営状況の可視化や収益性向上、不正リスク排除など、さまざまなメリットを得られます。
しかし、データ分析を始めるには、単にツールを導入すれば良いわけではありません。目的と仮説を明確にしたうえで適切な分析手法を選ぶこと、全社的な経理システムの統合など、まずはデータ利活用できる土台を整える必要があります。
本記事では経理のデータ分析を成功させるために必要なことをまとめて紹介。データ分析によるメリットやデータ分析に必要な環境について詳しく解説するので、これらのポイントを意識し、経理のデータ分析導入を成功させましょう。
目次
経理にデータ分析を導入する5つのメリット
経理は元々、「経営管理」という言葉を省略して生まれた言葉です。これを踏まえると、経理は単に社内のお金の流れを把握し記帳する役割ではなく、企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を正しく管理し、経営の意思決定に活用できる情報を経営層に提供する役割であるといえます。
その上で、経理のデータ分析は欠かせません。まずは経理がデータの利活用を実施することで、得られる以下の5つのメリットの詳細を解説します。
- 経営意思決定の根拠になる情報を提供できる
- 部門別・販路別の損益などを細かく把握できる
- 信頼性が高く充実した決算資料を短期間で作成できる
- グループのデータ基盤を見直し月次作業を短縮できる
- 経理・財務ガバナンスを強化し不正リスクの排除に役立つ
経営意思決定の根拠になる情報を提供できる
データ分析を実施することで、経理部門は経営の意思決定の根拠となる情報を提供できます。
従来の会計データは過去の取引を記録したものであり、これを活用し未来を予測することは困難でした。しかし、データ分析を実施することで、過去のデータから売上や利益の傾向を分析し、将来の業績を予測できるようになります。
たとえば顧客の属性や購買履歴などのデータを分析することで、どの顧客層がどの商品を好んで購入しているのか、どのような販売戦略が効果的なのかが見えてくるでしょう。過去の販売データと経済指標などを組み合わせることで、景気変動の影響を受けやすい商品や地域を特定し、リスク対策を講じられます。
このように、分析によって得られた客観的なデータに基づいて意思決定を行うことで、経営層はより的確な判断を下せるようになります。
部門別・販路別の損益などを細かく把握できる
従来の経理では全体的な損益しか把握できず、収益性の高い分野や低い分野を特定することは困難でした。データ分析を行うことで、部門別や販路別の損益詳細の把握に役立ちます。
たとえば売上や顧客、コストなどのデータを分析することで、どの部門が収益に貢献しているのか、どの部門がコストを増加させているのかが見えてきます。販路別では、どの販路が収益性の高い顧客層を抱えているのか、どの販路が低迷しているのかの特定が可能です。
ほかにも「どの商品が売れているのか、どの商品の利益率が高いのか」という商品別、「どの顧客が優良顧客なのか、どの顧客の解約リスクが高いのか」という顧客別など、さまざまな情報を把握できます。
これらの情報を把握することで、収益性の高さに基づき経営資源の配分ができるようになります。収益性の低い分野では、データ分析によりその原因を特定し、効果的な改善案を講じられるでしょう。これにより、会社全体の収益向上に役立ちます。
信頼性が高く充実した決算資料を短期間で作成できる
決算資料の作成において、従来は手作業による集計や分析作業が多く、時間と労力がかかりました。手作業は人的ミスが発生するリスクも高いです。
データ分析の活用とそのためのツールの導入により、手作業を限りなく減らし、より正確で多角的な視点をもつ決算資料を短期間で作成できるようになります。
たとえば売上や利益、コストなどのデータの自動集計、グラフやチャートを用いた視覚的な表現などが可能です。損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表だけでなく、部門別、販路別、商品別などの分析も容易に行えます。
ツール上で資料を作成することで、関係者間での資料・情報の共有もスムーズになります。
これらのメリットにより従来よりも短期間で、信頼性が高く、充実した決算資料の作成を実現できます。
グループのデータ基盤を見直し月次作業を短縮できる
日本はグループ企業であっても、各社に異なる自治を認めたり裁量を与えたりする考え方が強いです。これにはグループ企業それぞれのアセットを活かしやすい、多様性の高い組織づくりができるなどのメリットがある一方、非効率・統制が取りづらいなどのデメリットもあります。
データの分析・活用においては、「グループ内の各社で異なる会計システムを使っている」「どのようなデータを集計するのか、どう活用するのか、データ分析に関するポリシーが異なっている」などが問題になりやすいです。
経理へのデータ分析基盤の構築を通して、グループ内で統一させることもできます。グループ全体のデータ基盤を構築することで、月次作業の効率化が可能です。グループを横断したデータの収集・分析もしやすくなり、より効果的にデータを活用できるようにもなるでしょう。
経理・財務ガバナンスを強化し不正リスクの排除に役立つ
近年、企業における不正会計事件が相次いで発覚しています。不正会計による損失は資金面に留まらず、法令違反による罰則や自社の信用失墜など、さまざまなリスクがあります。
こうした不正行為を防ぐためには、経理・財務ガバナンスを強化することが重要です。
データ分析ツールを用いることで、監査対象となるデータを効率的に抽出・分析できます。不正検知機能を搭載したツールも多く、通常では見過ごしがちな異常値や不自然なデータパターンを発見できます。
内部統制の改善点を特定するのも、データ分析を用いれば容易です。不正行為が発生しやすいポイントを特定し重点的に対策することで、より効果的にリスクを低減できます。
経理が保有しているデータや、収集方法
経理部門は企業経営において重要な役割を担っており、次のようなさまざまなデータを保有しています。これらのデータは、経営状況の分析や意思決定、業務効率化などに活用できます。
財務データ | 売上、利益、コスト、資産、負債、キャッシュフローなどのデータ |
取引データ | 顧客情報、仕入先情報、取引履歴などのデータ |
従業員データ | 給与、賞与、社会保険料などのデータ |
固定資産データ | 土地、建物、設備などのデータ |
税務データ | 課税所得、税額、申告書などのデータ |
これらのデータは経理システムや販売管理システム、人事システムなどの社内システムから抽出されます。システム間のデータ連携がスムーズだと、全社を横断して膨大なデータを自動的に取り込めるでしょう。
紙の請求書をはじめ、システムで管理されていないデータは、手入力で収集する必要があります。データ入力の負担とミスを軽減するため、AI-OCRを搭載したシステムや請求書受領サービスなどを導入するのも有効です。
経理のデータ分析に必要な環境とは
従来の経験や勘に頼った経営は、変化の激しい現代ではリスキーです。今求められているのは、データに基づいた迅速かつ的確な意思決定です。
経理部門が保有する膨大なデータを分析することで、経営状況の可視化や収益性向上、不正リスク排除などのさまざまなメリットを得られます。
しかし、効果的なデータ分析を実施するには、適切な環境が必要です。ここでは、経理のデータ分析に必要な環境として、3つのポイントを紹介します。
統合的な経理システム
データ分析の基盤として欠かせないのが、統合的な経理システムです。部門やグループ企業ごとに経理システムが独立して運用されていると、データが分散してしまいます。分析対象となるデータを収集するのに時間と手間がかかり、肝心の分析や活用のプロセスになかなか着手できません。
独立したシステムではデータフォーマットが統一されていないことも多く、データ分析ツールで利用できない、利用するための準備に時間がかかる場合もあります。
まずは統合的な経理システムを導入することで、これらの課題を解決しなければなりません。
BIによるデータ分析基盤
統合的な経理システムでデータを収集・統合したら、次は分析ツールが必要です。そこで活用するのが、BIツールです。
BIツールは社内に点在するさまざまなデータを集計・分析し、経営の意思決定や業務に役立つ状態に加工します。たとえば社内に点在するさまざまなシステム・データベースからデータを抽出し、フォーマットを統一したり、データ分析の結果をグラフやチャートなどの見やすい状態に可視化したりできます。
BIツールを活用することで、さまざまな角度からのデータ分析が可能です。フォーマットの統一や定型的な分析作業の自動化もでき、データの分析・活用にかかる時間を短くできます。
データ分析のコミュニティ
データ分析は専門的な知識や経験が必要となる分野です。しかし、難解な分野であるため一人で技術を身につけるのは難しく、学習が滞ってしまうこともあります。
そこで役立つのが、データ分析の学習コミュニティです。経験豊富なメンバーからアドバイスや指導を受けられるのはもちろん、「仲間がいる」という感覚はモチベーションの維持にも役立ちます。他のデータ担当者との人脈を形成できるのも大きなメリットです。
データ分析のコミュニティは、大きくオンラインとオフラインに分けられます。手軽に参加できるオンラインコミュニティと、対面でより密なやり取りができるオフラインコミュニティを組み合わせながら、積極的に活用することで、効果的かつスピーディなスキルアップが可能です。
データ利活用の専門家を招いて研修を実施したり、学習会を行ったりと、コンテンツを準備してコミュニティを活性化させましょう。
経理のデータ分析を実施する3つのポイント
経理部門は経営の意思決定に役立つ膨大なデータを保有しています。しかし、データをただ集めても意味がありません。データ分析の目的・仮説を明確にし、適切な分析手法を用いて、改善サイクルをくり返すことが重要です。
最後に、経理のデータ分析を成功させるための3つのポイントを紹介します。
ポイント1.目的・仮説を明確に立てる
データ分析を成功させるためには、まず何のために分析を行うのか、目的を明確にする必要があります。目的が曖昧だと分析結果も曖昧になり、結論が導き出せません。
たとえば「売上を10%増加させるための施策を考えたい」「コストを5%削減するために、コストを増大させている要因を分析したい」など、どのような部分で、どの程度の効果を得たいのかを明確にしましょう。
目的だけでなく、分析結果を解釈するための「仮説」を明確にすることも重要です。たとえば「新規顧客獲得キャンペーンが売上増加に貢献しているのではないか」「部門間の連携強化によりコスト削減が可能なはず」などです。
目的と仮説を明確にすることで、分析に必要なデータや分析手法を絞り込み、より効率的な分析が可能になります。
ポイント2.適切な分析手法を選ぶ
データ分析にはさまざまな手法があります。たとえば2つ以上のデータセットを比較することで差異や傾向を分析する「比較分析」、問題の原因を特定するための「原因分析」、過去のデータに基づいて将来の傾向を予測する「予測分析」などがあります。これらの手法から目的に合うものを選ぶことが重要です。
たとえば売上増加の要因分析には比較分析が適しています。コスト削減のためには、コスト増加の要因を見つける原因分析を実施します。
分析手法によって、必要なデータの量や種類は異なります。目的に応じて適切な分析手法を選ぶことで、的確な分析結果を得るためにどんなデータを集めればいいのかが明確になります。
ポイント3.改善サイクルを繰り返す
データ分析は、一度行ったら終わりではありません。分析結果に基づいて改善策を実行し、その結果を再度分析することで、より効果的な経営が可能になります。
具体的には、次のような流れでデータ分析と改善のサイクルを繰り返しましょう。
- データ分析:経理データを分析し、課題や問題点を特定
- 改善策の検討:分析結果に基づいて、改善策を検討
- 改善策の実行:検討した改善策を実行
- 効果測定:改善策の効果を測定
- 分析結果の再確認:改善策の効果を分析結果に反映
- 再分析:1に戻り、改善サイクルを繰り返す
改善サイクルを成功させるためには、具体的な目標設定が重要です。具体的・数値的な目標を設定することで、改善策の効果を測定しやすくなります。
最初から大きな改善を試みるのではなく、小規模な改善から始めることも大切です。負担を軽くし改善サイクルを繰り返しやすくするだけでなく、経営方針を急転換することによるリスクも軽減できます。
まとめ
近年、さまざまな業界・業種でデータ分析が注目されています。部門単位でのデータ分析の必要性も高まり、営業部門やマーケティング部門など、部門の垣根を超えたデータの集計・共有に取り組む企業が増えてきました。
なかでも、企業の経営資源に関するデータが集まる経理部門のデータ分析導入は重要です。経理のデータ分析導入により、自社のお金の流れや経営資源を正しく把握し、より的確な意思決定が下せます。経理・財務ガバナンスを強化し、不正リスクを排除するためにも、経理のデータ分析は欠かせません。
ただ、データ分析にはITや統計に関する専門知識が必要というイメージをもつ人も多いでしょう。経理も専門的な知識や経験が必要とされる業務です。これら2つの分野で高いスキルをもつハイブリットな人材を確保できないと、経理のデータ分析を諦めている企業も少なくありません。しかし、溜まり続けるデータをそのままにしておくことは、機会損失に繋がります。
弊社のようなデータに関する専門家と二人三脚でデータ戦略の立案から、自社のデータ人事の育成まで実施することで、効率的にデータの利活用を実現できます。
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