製造業のデータ分析はなぜ必要?解決できる課題やメリットなどを解説

日本の代表的な産業である製造業。大手企業を中心にデータ活用が進んでいますが、製造業全体で見ると海外諸国に遅れを取っています。JUASの「企業IT動向調査報告書 2023」によれば、DXの進捗状況に対して「推進できている」と回答した企業の割合は製造業でわずか22.6%でした。

そこで本記事では、製造業のデータ活用やDXの必要性をあらためて認識していただくために、データ分析によって解決できる課題や実施するメリットなどをご紹介します。製造業のデータ分析活用事例もご紹介するので、本記事をご覧になった製造業従事者の方がデータ活用に目覚めるきっかけとなれば幸いです。

 

製造業の課題とデータ分析による解決

製造業と一口に言ってもさまざまな業態があるため、個々に抱えている経営課題は多種多様です。

しかしここで挙げる4つの課題は製造業に横たわっており、いずれも業界全体で優先的に解決すべき喫緊の課題です。それらの課題に対してデータ分析がどういった解決に導くのかをまずはご紹介します。

人材不足問題

総務省統計局の労働力調査によると、「全産業に占める製造業の就業者の割合」は年々減少傾向にあります。2002年には19.0%だった割合は2022年には15.5%まで低下し、就業者ベースで見ると20年間で約180万人の就業者が減少しました。こうした人材不足問題とデータ分析にどのような関係があるかと疑問に思われるでしょうが、実は大いに関係あります。

たとえば、日本の製造業の多くはQC(品質管理)工程でさまざまな品質テストを実施しています。メイドインジャパン製品は世界的にも品質評価が高く、その品質を支えているのが膨大な量のテスト項目を実施しているためです。

そこでデータ分析を用いて品質テストの必要性について見直し、現状の製品品質を維持しながらテスト項目や実施回数を削減できれば、生産性が向上して人材不足問題の解消につながります。

製造業の人材不足で悩む方には嘘のような話ですが、実際に米半導体メーカーは品質テストを見直すことで生産性を向上し、生産ライン1つにつき数億円のコスト削減を実現しています。

DX・自動化の遅れ

DX(デジタルトランスフォーメーション)や自動化のかけ声が大きくなる中で、効果的な施策を推進できていない産業が少なくありません。製造業もその一つです。

「DX・自動化にはデータ活用が欠かせない」という文言を散々見聞きした方も多いかと思いますので、データ分析が直接的に課題を解決できるのはある程度イメージしやすいでしょう。

データ分析を用いたDX・自動化を推進することで、生産性向上だけでなく製品・サービスの価値向上や、ビジネスモデル・企業文化のデジタル的な変革といった大きなインパクトが期待できます。

技術承継の難しさ

製造業の技術継承が難しい理由はスキル・知識が熟練社員の暗黙知と化しており、体系的に継承する環境を整えにくいことにあります。

「人材不足問題によって技術を継承したい若手社員が減っている」という問題もありますが、これは技術継承環境を整え、将来性のある魅力的な技術だということをアピールできれば解消される可能性が高いでしょう。

こうした技術継承の課題でもやはりデータ分析が有効です。ある酒造会社では杜氏(酒造りの責任者)の暗黙知だったスキル・知識をデータによって体系化したことで、一般社員でも最高級品質の商品を生み出せる環境を整えました。ご存知の方も多い、山口県岩国市の蔵元であり「獺祭」で世界的評価を得ている旭酒造さんの話です。

データ分析を用いれば技術は継承するものではなく、「視覚的に表し適宜活用するもの」へと変化します。製造業の技術継承課題を解決する鍵は、データ分析にあると言っても過言ではないでしょう。

世界的な人件費高騰

中国・東南アジアに多くの製造拠点を持つ日本の製造業は今、世界的な人件費高騰によって生産コストが跳ね上がっています。たとえばベトナムの最低賃金は2014年が270万ドン(1万6,200円)だったのに対し、2023年には468万ドン(2万8,080円)まで上昇しています(TRADING ECONOMICSのデータより、1,000ドン=6円として計算)。

データ分析を用いた人材不足課題の解決や、DX・自動化の推進が加速すれば人的資源の必要性を大きく下げることができ、こうした世界的な人件費高騰に対してもアプローチできます。

そもそも「製造業のデータ分析」とは?

製造業のデータ分析というのは、生産過程で生まれるさまざまなデータを収集および適切に管理し、これを可視化(ビジュアライズ)した上で生産性向上に生かす活動のことです。

かねてより製造業のデジタル化が進んだことでデータ分析を行うための膨大なデータを保有している企業は多いものの、それを生産管理や製造プロセスの効率化まで活かせていない企業が大半となっています。

また、データを根拠として意思決定を下せない状況にあり、競合他社(特に外資系製造業)から遅れをとってしまっているのが日本製造業の大きな問題の一つです。

こうした問題を解消するためには、データ人材の育成・獲得も含めたデジタル戦略の立案・推進が欠かせません。

製造業がデータ分析を取り入れるメリット

では、製造業がデータ分析を取り入れるとどのようなメリットがあるのか。前述した課題解決よりも具体的な4つのメリットをご紹介します。

環境にかかる負荷を可視化しSDG’sの促進をサポート

2015年の国連サミットにより採択され、現在世界中の共通目標とされている「SDG’s」には17のゴールと169のターゲットが存在します。

製造業ではその中でも、以下5つのゴールと深い変わりがある産業です。

  • 7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  • 8. 働きがいも経済成長も
  • 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12. つくる責任 つかう責任
  • 13. 気候変動に具体的な対策を

とはいえ、環境問題に関心はあってもSDG’s推進の具体策がわからない企業も多いでしょう。そこでデータ分析を用いれば、生産過程で生まれる環境負荷を可視化し、「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と「13. 気候変動に具体的な対策を」に対する環境配慮を具体的に考えられるようになります。

統合データベースを作り汎用的なナレッジを生み出す

「統合データベース」とは工場ごと、生産ラインごとに生まれる膨大なデータを一つに集約し、データのフォーマットを合わせて有効活用するためのデータ分析基盤です。統合データベースを構築できれば汎用的なナレッジ(知識体系)を生み出し、それをグループ全体で活用する環境を整えられます。

たとえば統合データベースにAIを用いれば、ある工場や生産ラインで抱えている課題に対して他の工場や生産ラインのデータを根拠にした解決策を提案してくれるシステムの構築などが行えます。

工場・生産ラインの責任者が必要に応じて自らデータを参照し、新しいインサイト(洞察)を得るという理想的なBI(ビジネスインテリジェンス)環境の構築も可能になるでしょう。

サプライチェーンのリードタイム・コストを把握する

上記の統合データベースを応用すれば、特定の生産プロセスだけでなくサプライチェーン全体からのデータ収集・分析も可能です。

従来は分断的だったサプライチェーンのデータを統合すれば、正確なリードタイムとコスト削減を把握できるようになります。さらに精度の高いトレンド予測により顧客ニーズを分析し、製品ロス・機会損失の防止を行えるのもデータ分析により製造業が得られる大きなメリットです。

IoTと連携して生産工程をリアルタイムに監視できる

IoTとはセンサーによって生成されたデータをクラウドコンピューティングに共有し、リアルタイムなデータ処理を可能にする機器のことです。IoTによる生産工程のリアルタイム監視は、製造業にとって非常に大きなインパクトがあります。

たとえばIoTによって共有されたデータを自動的に解析し、しきい値を設定すれば、生産ラインの作業員が目視で確認するよりも素早く不良を発見できます。さらに、過去の監視データを解析すれば不良発生の兆候を察知したり、生産ラインと連携して自動的に生産をストップさせるなどの対処も可能です。

製造業のデータ分析活用事例

製造業におけるデータ分析を具体的にイメージしていただくために、データビズラボが実際にデータ分析支援を行った事例と、データ分析先進企業の事例をご紹介します。

AGC株式会社|BIツール活用によるデータ分析の促進

ガラス、電子、化学品などにおいて世界トップの技術力・生産量を誇るAGC株式会社(以下、AGC)は、BIツールの活用によってデータ分析の規模を年々拡大しています。

BIツールとは日々生成されるデータを収集し、自動的に分析した上でダッシュボード(レポート画面)にデータを可視化するツールです。膨大なデータを保有する製造業では、BIツールの活用と社内定着化がデータ分析活動を推進する鍵となります。

AGCでは2015年から全社標準のBIツールとして「Tableau(視覚化に優れたBIツール)」を活用し、成熟度の高いデータ活用を行っていました。そんなAGCに対し、さらなる高みに向けたデータ活用戦略策定を支援させていただきました。

AGCからは「他社と比較して(データ活用が)進んでいるかどうかという助言が得られたことが大きい」などの言葉を頂戴しております。この「他社との比較」というのは案外重要であり、自社のデータ分析がどれほど進んでいるかの尺度を作るきっかけになります。

データ活用がまだ始まっていない企業においても、「同業他社と比べてこれくらい遅れています」という事実を作ることで、経営層がデータ活用に対して重い腰を上げることも少なくありません。「情報システム部門などはデータ活用に前向きだが経営層が動かない」といった企業では、我々データビズラボのようなデータ企業の客観的意見を早々に取り入れるのが、非常に効果的です。

事例ページ:https://data-viz-lab.com/case/agc

大阪ガス株式会社|データ・ドリブン組織の実現

大阪ガス株式会社(以下、大阪ガス)は日本を代表するデータ・ドリブン組織を有する企業として有名です。日本初のデータサイエンス学部を設立した滋賀大学にて、同学部で教鞭を取っている川本薫氏の古巣でもあります。

「データ・ドリブン」とは、データ分析によって得られたインサイト(洞察)を根拠にした意思決定を下すことです。大阪ガスではデータ・ドリブン組織にあたる「ビジネスアナリシスセンター」が設置されており、製造業の中でもデータ分析に先進的に取り組んでいるロールモデル(規範)となる企業です。

一方で、大阪ガスのデータ・ドリブン組織から参考にできるのは、その取り組みだけでなく「過去の失敗」にもあります。たとえば、大阪ガス・ビジネスアナリシスセンターの國政秀太郎氏によれば、データ分析の失敗パターンは3つに分類できるとされています。

出典:大阪ガスのデータ分析チームが「失敗プロジェクト」から学んだ、見つける/解く/使わせることの重要性|EnterpriseZine

こうしたデータ分析の先進企業が公表している失敗パターンなどから学びを得れば、データ活用推進のリスクを少しでも軽減できます。

製造業がデータ分析を推進するために必要なこと

最後に、製造業がデータ分析を促進するために大切な3つのことをご紹介します。

経営層がデータ分析への理解を深める

多くの場合、製造業のデータ分析は経営層の強力なバックアップがなければ推進できません。とはいえ経営層にデータ分析への理解を深めてもらうのは、なかなかに難しいことです。

そこで重要になるのが「クイックウィン」です。クイックウィンとは小さな取り組みで短期的に成果を上げる手法を指します。クイックウィンにより成功体験を作ることで、経営層に納得してもらいやすい根拠を生み出すのが狙いです。

クイックウィンの取り組み方やポイントは、「データ分析プロジェクトの始め方」で詳しく解説しているので参考にしてみてください。

データ戦略を立案・実行する人材の育成・確保

データ戦略を立案・実行する人材(データ人材)は多岐に渡ります。近年特に注目されているのが、データサイエンティストとビジネストランスレーターです。また、企業のデータ戦略を統括するCDO(最高データ責任者)の重要性も年々高まっています。

どういったデータ人材を育成・確保すべきかは、データ分析に対してどういった構想を描くかによって異なります。これからデータ分析を始める企業にとって、具体的な構想を選んだりデータ人材戦略を立てるのは難しいため、我々データビズラボのようなデータ企業にぜひ頼ってみてください。

スモールスタートとベストプラクティスの流用

データ分析が本格的に動き出したらスモールスタートを意識し、特定の分野での成功体験を作りましょう。この点はクイックウィンの考え方と類似していますが、「他分野に流用可能な成功体験を生み出すこと」を意識するのがとても重要です。

流用可能な成功体験のことを「ベストプラクティス」と呼びます。ベストプラクティスを生み出すことを前提にデータ分析に取り組めば、小さい取り組みから始めるスモールスタートでも、データ分析の環境・文化を急速に拡大していけるのが特徴です。

どういったベストプラクティスなら組織全体に流用でき、データ分析を定着できるのかなどに関しても、ユースケースを豊富に持っているデータ企業にアドバイスを求めるのが効果的です。

まとめ

本記事では製造業のデータ分析について、解決できる課題や推進するメリットなどをご紹介しました。製造業は日本を代表する産業だからこそ、業界全体でのデータ分析が進むことで日本経済そのものに大きなインパクトをもたらします。

まずは既存のITツールに搭載されている分析機能などを活用し、簡単にでもデータ分析を始めてみてください。取り組みを通じて「クイックウィン」を生み出せれば御の字、経営層を説得する材料になったり、社内のデータ分析が動き出すきっかけになったりするでしょう。

「データ分析の本格的な推進を検討しているが何から手をつければ良いかわからない」という方は、データビズラボにぜひご相談ください。データ分析やDXなどについて何もわからない状態でご相談いただいても、まったく問題ありません。データビズラボでは技術的な支援だけでなく、「最初のクイックウィンを生み出すにはどうしたら良いのか?」など実務的な支援も行っております。

「ある程度知識をつけてから」ではなく何もわからない状態だからこそ専門家に頼ることで、時間という重要資源を浪費せずに済むでしょう。

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