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さまざまな従業員を対象に実施される「社員教育」。AI時代の今、社員教育のあり方や目的が見直されつつあります。
社員教育の必要性を改めて認識し、高い効果を期待できる社員教育とは何かを考えてみましょう。本記事では、社員教育を実施する目的や注意点、教育プログラムの作り方や成功させるポイントなどを解説します。
社員教育とは
社員教育とは、企業が従業員に対して業務上に必要なスキルや知識を習得する機会を提供することを言います。企業が継続的かつ持続的に成長するためには、従業員の成長が必要不可欠です。
社員教育の必要性が高まった背景
AI時代の今、社員教育の必要性が高まっているのにはどんな背景があるのでしょうか。
慣習的な社員教育ではなく、意味のある社員教育を行いたいのであれば、社会の変化との関係性も知っておく必要があります。社員教育の必要性が高まっている背景を知ると共に、どんな教育内容であれば行う意義があるのか検討してみてください。
終身雇用の崩壊
日本で従来用いられていた終身雇用は、近年崩壊しつつあると言われています。近年、転職によってキャリアを築いていくという考え方が一般化していることが理由です。
そのため、優秀な社員を繋ぎ止める対策のひとつとして社員教育に力を入れている企業が増えています。社員教育によって「この会社にいれば成長できる」「この会社で働くことが楽しい」と感じてもらえれば、長く働く従業員を増やすことができます。
年功序列の崩壊
終身雇用と同様に崩壊しかけているのが年功序列制度です。現代の日本社会は、スキルアップや成果を出すなど組織に貢献することが昇給に繋がる社会です。従来のように、長く勤めれば自動的に給与が上がる仕組みは、崩壊しつつあります。
社員教育によってスキルが向上すれば、従業員は昇給というメリットを得られます。一方、企業も優れたスキルを有した従業員が増えれば、業績向上が期待できます。社員教育によって、従業員・企業のどちらもメリットを得られます。
テクノロジーの発展
テクノロジーの急速な発展により、人間が一からやる必要のある仕事は減少傾向にあります。その結果、ITツールを使いこなしたり、ITツールによって新しい仕組みを作ったりできる人材が求められるようになりました。
社員教育ではそうしたツールを活用できる人材を育成するだけでなく、人間が実施する意義のある仕事を明確にすることもできます。人間がやるべき仕事とITツールによって実行可能な仕事を分けることで、より業務の効率化が図れるようになります。
社員教育を実施する目的
社会の変化により社員教育の必要性が高まっている昨今。社員教育を実施する目的は、その企業が置かれている状況や課題によって異なります。
自社で社員教育を実施する際は、目的と期待する効果を明確にしておく必要があります。
MVVの浸透
社員教育により、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を社内に浸透させることができます。社内での理解・浸透が促進されれば、自社に対する理解がより深まり帰属意識が高まります。
例えば、自社のMVVについて議論するワークショップを行ったり、MVVに基づいた行動にはどんなものがあるのかを話し合ったりなどの教育内容が考えられます。普段の業務でMVVを意識するための機会のひとつとして、社員教育が実施されます。
関連記事:【事例あり】MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?必要性や構成要素、作り方、浸透させる方法を解説
生産性の向上
社員教育により従業員のスキルが向上すれば、生産性も高まります。この場合の社員教育とは、外部セミナーやeラーニング、資格取得の支援などが該当します。
外部のツールやサービスを利用するのでコストはかかりますが、スキルが高まり生産性が向上すれば、従業員のモチベーションも向上し、やりがいを持って仕事に取り組めるようになるでしょう。
リスクヘッジ
コンプライアンスに関する社員教育を行えば、企業のリスクヘッジにもなります。
昨今はITツールの普及によりインターネットを通して、場所を問わず仕事が行えるようになりましたが、一方で情報漏洩のリスクは高まっています。
社員教育によって従業員のコンプライアンス意識が高まれば、さまざまなリスクの回避に繋がります。
社内コミュニケーションの活性化
従業員のスキルアップを目的に社員教育を行うと、副次的な効果として社内コミュニケーションが活性化します。
知識量や習得スキルに差があると議論や業務がしにくくなりますが、社員教育によりその差が埋められるため、業務上のやり取りがスムーズになるのです。
企業の持続的な成長
社員教育は企業・従業員共にメリットがあります。社員教育によりスキルや生産性が高まることは、企業の成長にも繋がるからです。
継続して社員教育が実施されれば、社員教育そのもののノウハウが蓄積され、より効率的な教育が可能になります。教育内容もブラッシュアップされ、従業員の身になりやすい高精度の教育が行われるようになります。こうした好循環が企業としての持続的な成長に繋がります。
社員教育を実施する際の注意点
社員教育に力を入れる目的が明確になり、実際にプログラムを組む前には、注意したい点がいくつかあります。
これらの点を考慮せずプログラムを作成してしまうと、後々不都合が生じてプログラムを大幅に変更する事態になりかねません。次に、注意点について確認しておきましょう。
継続的にコストがかかる
社員教育は継続的にコストがかかる取り組みです。社内で実施する際は、人事担当者やOJTを担当するメンバーの教育工数がかかります。外部に委託する際は社内の工数はかからない一方で、金銭的なコストがかかります。
短期的にしても効果が薄いため、長期的に実施できるような予算を組んで実施しましょう。
研修参加による通常業務への影響
研修に参加する従業員は、研修中に通常業務を行うことができません。業務に支障が出ないように、スケジュールや業務の調整を行いましょう。
特に、リーダークラス・課長クラス・部長クラスは一度に全員が研修に参加してしまうと、通常業務が滞る可能性があります。
終日研修を実施する場合は、取引先やお客様への告知期間も含め、数ヶ月前〜半年前にはスケジュールを確定しておくとよいでしょう。
教育者の不足
社内で社員教育を行う場合の注意点として、教育者の不足が挙げられます。プレイヤーとして優れている従業員が、指導者としても優れているとは必ずしも言い切れません。
また、優秀な従業員は抱えている業務量も多いため、社員教育に割ける時間が限られています。必要に応じて外部に委託することも視野に入れる必要があります。
社員教育の方法
一口に社員教育と言っても手法はさまざまです。即戦力化に繋がる教育もあれば、長い目で見た際に自社にとってメリットをもたらすような教育もあります。
方法に優劣はないので、自社の状況にマッチしているかどうかで導入を決めましょう。
OJT
OJTは「On the Job Training (オンザジョブトレーニング)」の略語で、上司や先輩が実際の業務を通じて指導を行う教育方法です。外部のサービスを使うことなく、日々の業務の中で知識やスキルの習得を促せるため、金銭的・時間的なコストを最小限に抑えられます。即戦力を育成できるのも特徴です。
ただし、OJTは教育担当になる従業員のスキルに結果が大きく左右されます。教育担当者になる従業員に指導方法のレクチャーなどを実施することで、教育を標準化していきましょう。
社内研修
社内研修は文字通り、社内で研修を行う教育方法です。MVVの浸透や知識・スキルの平準化を図る際に実施されます。
集合研修とも呼ばれ、従業員が1箇所に集まってワークショップやセミナーなどを受けます。コミュニケーションの活性化も期待できる方法です。
外部セミナー
外部セミナーは、専門性が高い講師に外部委託を行う教育方法です。業界の第一線で活躍するプロからスキルや知識を効率的に学べます。
新たなスキルを学ぶのに効果的である一方で、コストがかかる他、セミナー受講中は業務が行えない点は留意しておきましょう。
eラーニング
eラーニングは、インターネット上のコンテンツを利用して知識やスキルを身につける学習方法です。用意された動画コンテンツや資料などを閲覧して、従業員が個々で学習を進められるのが特徴。場所や時間にとらわれず社員教育を行える、トレンドの手法です。
越境学習
越境学習とは、従業員が他の企業や団体などに出向し、出向先で新たな知識やスキルを習得する教育方法です。
新たな環境に身を置くことで、視野を広げて考えられるようになるのがメリット。今までとは違う業務に挑戦できるため、人材流出にも効果を発揮します。
資格取得の支援
社員のスキルアップを応援する取り組みとして、資格取得の支援制度を導入している企業は多くあります。資格取得に必要な教材や受験料などを自社で負担することで、従業員は金銭面に不安を感じることなくスキルアップを図れます。
社員教育プログラムの作り方
社員教育を実施する際の注意点や、社員教育の方法などを理解したら、実際に社員教育プログラムを作ってみましょう。作り方は、大きく7つのステップに分けられます。それぞれのステップの詳細を解説していきます。
STEP1.自社の課題と教育の目的を明確にする
まずは自社の課題と教育の目的を明確にします。ここで言う教育の目的とは、教育プログラムを通して最終的にどんな人材を育成したいのかという最終目的のことです。経営戦略に沿って、全社的に必要としている人材の姿を明確にしましょう。
STEP2.各プログラムの目標を決める
次に、各プログラムの目標を決めます。プログラムの目標とは、一つひとつの研修に対して個別に設定する目標のことです。
例えば、A・B・Cの研修があるとして、各プログラムごとに「何を」「どこまで達成する」ことを目標としているのかを決めます。A〜Cまでの研修が一続きになっている場合は、繋がりも意識して各プログラムの目標を決めてください。
STEP3.スケジュールの設定
教育の目的と各プログラムの目標が明確になった後は、研修をどのように進めるのかスケジュールを設定します。
内容によって研修参加者が通常業務に参加できないこともあるので、実施時期まで余裕を持ったスケジュールを組むのがおすすめです。
STEP4.各プログラムの方法を決める
次に、各プログラムの方法を決めます。研修方法はOJT・社内研修・外部セミナー・eラーニングなど、さまざまな方法があります。
研修対象者と実施目的、各プログラムの目標に合わせて方法を決めましょう。例えば、新入社員の即戦力化が目的であれば、一般的にOJTが適しています。
STEP5.教育プログラムの実施
設定したスケジュールに沿って教育プログラムを実施するステップです。人事担当者がその場に立ち会って、問題なく行われているかを確認します。
STEP6.プログラム後のフォローアップ
研修実施後はフォローアップも行ってください。
学習内容の定着を促進する「フィードバックサイクル」を実施することはもちろん、研修参加者の声を拾うことも大切です。
ここで得られた参加者の声は、社員教育の改善にも繋げられます。
STEP7.効果測定と改善
各プログラムが終了したら効果測定を行います。効果測定は、アンケートやレポート提出などの定性的な測定と、アセスメント提出による定量的な測定の2つがあります。
教育の目的・目標に適した効果測定方法を用いて、次回の研修実施時の改善に繋げてみてください。
社員教育を成功させる4つのポイント
社員教育の効果を高めるためには、内容や質にこだわりましょう。教育を受ける従業員のレベルと、教育内容が一致していることも大切なポイントです。
自社で実施している社員教育の効果が薄いと感じている方は、以下のポイントを参考に自社の問題点を考えてみてください。
役職や目的に応じてプログラムを作成する
社員教育の効果を最大化するには、役職や目的に応じたプログラムの用意が必要です。例えば、若手社員と管理職では教育すべき内容は異なります。
若手社員の場合は基本的なビジネススキルから一歩上の段階に進むための教育が必要ですし、管理職の場合はマネジメント能力や柔軟な対応力を培うための教育が必要です。
研修対象者 | 目的 | 研修内容 | ポイント |
内定者 | 内定辞退や早期離職を防ぎ、入社後の成長をスムーズに支援 | 会社理念、職場雰囲気、入社後の仕事内容 | 入社後の活躍をイメージできる内容 |
新人・若手 | ビジネスマナー、基本的な仕事の進め方、創造性、問題解決能力 | 体系的かつ継続的なカリキュラム、アウトプット重視、参加者の価値観に合わせた内容 | – |
中堅・リーダークラス | 仕事のプロとしての自覚、能力最大限の発揮 | リーダーシップ、マネジメントスキル、組織貢献 | 中堅社員への教育の重要性を認識 |
課長クラス | 変化への対応力、組織・部下への指導力 | 管理職としての役割、マネジメントの基本知識、組織運営スキル | 管理職としての意識の醸成 |
部長クラス | 視座の高い経営視点、財務・経営知識、高度な思考力・判断力・実行力 | 財務・経営のナレッジ、リテラシー、高度な思考力・判断力・実行力 | 部長クラスへの育成は中長期的な視点で |
経営幹部 | 明確なビジョン提示力、人間力、多様なスキル | 360度評価、社外専門家によるコーチング/カウンセリング | 経営幹部への本音に寄り添う体制 |
フォローアップに力を入れる
社員教育により学んだ内容を定着させるためには、フォローアップが必要です。多くの企業で用いられているのは「フィードバックサイクル」です。周囲からのフィードバックを元に自分が抱えている課題に気づき、変えて行くべき点を洗い出し行動に繋がるというもの。フィードバックサイクルを何度も繰り返すことで、知識やスキルとして定着させます。
社会の変化を踏まえてプログラムを更新する
社員教育の内容は社会の変化に合わせて更新し続ける必要があります。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大によって、名刺交換の場が少なくなっている現代では、新入社員に名刺交換のマナーを教えていない企業も増えています。
社会のトレンドに合わせて不要なものは削り、必要なものは加えてプログラム内容を改善することが大切です。
ITツールや外部サービスを活用する
教育の目的や社内のリソースに合わせてITツールや外部サービスの活用も検討してみてください。eラーニングや外部セミナーなどがそれに該当します。
専門的なスキルに関する教育は、第一線で活躍するプロの講師に依頼した方が高品質な学習が可能で、学習効率も上がります。社内のリソースに関係なく実施できるのもポイントです。
社員教育の実施事例
他の企業はどのような社員教育に取り組んでいるのでしょうか。人材育成に力を入れている企業の事例を3つご紹介します。
自社の経営戦略や働く人材の特性を考慮して、自社に適した社員教育を取り入れましょう。
従業員が自律的に取り組める充実した研修制度|リクルート
画像出典:株式会社リクルート「人材育成・マネジメントの仕組み・価値の源泉は人」
リクルートホールディングスは「価値の源泉は人。会社から、公園へ。」として、各種研修を充実させています。
階層別研修や自己選択型研修の他、戦略立案やマーケティングなど職種に合わせた多様なジャンルのプログラムを用意しているため、従業員は自律的にスキルアップ・能力開発に取り組めます。
成長のサイクルを生み出す独自の研修環境を整備|サイバーエージェント
画像出典:CyberAgent Way「【人材育成】成長を加速させる仕組み」
サイバーエージェントは、オリジナルの人材育成制度を多数用意しているのが特徴です。
従業員一人ひとりが自走するセルフ・リーダーシップと言う考え方を大切にしており、職種や役職に応じたスキルアップ研修制度を設けています。
成長を実感できる環境を作り、人材自身の判断でのびのびと成長していく仕組みは、自社の社員教育を考える上で参考になります。
全社で個を育成する三位一体の人材育成制度|サントリーホールディングス
画像出典:水と生きる SUNTORY「日本発のグローバル企業を実現する人材育成と成長機会」
サントリーホールディングスの社員教育は、従業員一人ひとりのキャリアに焦点を当てた「キャリア開発体系」が基本となっています。
社員としての成長を促す基本研修に加えて、独自の自己啓発プログラムやグローバルな社員教育制度などを用意しています。
従業員・上司・人事が三位一体となって、人材を育成する体制を整えているのが大きな特徴です。
まとめ
社員教育は企業のビジョンやミッションを実現するために欠かせない要素のひとつです。従業員が成長・スキルアップすることは、そのまま組織の成長に繋がるからです。
重要なのは、形骸化した研修ではなく目標・目的が明確になった研修を行うことです。企業にとっても従業員にとってもメリットがある、有意義な社員教育の実施を実現しましょう。
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