DXの推進やAIの進歩により、さまざまなデータ人材にスポットライトが当たる時代となりました。その中でも注目を浴びているのが「ビジネストランスレーター」と呼ばれるデータ人材および職種です。
そこで本記事では、データと経営をつなぐスペシャリストであるビジネストランスレーターの役割や必要性、その存在によって解決される課題などをご紹介します。
DX推進やAI活用のためデータ人材の育成・獲得を検討している方はもちろん、これからデジタル化を始めるという方もぜひ参考にしてみてください。
目次
データ活用でこのような問題はありませんか?
突然ですが、社内のデータ活用で下記のような問題を抱えている方が多いのではないでしょうか。
- 分析担当者からレポートは上がってくるが経営や業務にどう活かせば良いかわからない
- データ活用の認識に経営層と分析担当者でギャップがありデータ活用が一向に進まない
- 事業部門と分析担当者の意思疎通が取れず不満・ストレスを生む原因になっている
これらは「データ活用を推進しているがなかなか成果が見えない」と悩んでいる企業によくある問題です。往々にして、「データ活用への理解不足」や「関係者間の認識のギャップ」によって生まれています。
問題を解決するためには「正しいデータ活用」を社内で啓蒙し、関係者間の認識のギャップを埋められるようなデータ人材の存在が欠かせません。その存在こそが、本記事のテーマである「ビジネストランスレーター」です。
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ビジネストランスレーターとは?
改めて、ビジネストランスレーターとは「データと経営をつなぐスペシャリスト」を指しています。
先ほど挙げたような、データ活用における問題はビジネストランスレーターの存在によって解消されると説明しました。これは、ビジネストランスレーターが分析担当者と経営層・事業部門の「橋渡し役」として機能するためです。
たとえばデータサイエンティストは、データを技術的に分析しさまざまな情報を導き出すことを得意としています。一方で、経営や事業などビジネスに対する知識・スキルが不足しているケースが多く、「導き出した情報をビジネスでどう活かすか」まで考えられるデータサイエンティストはごく限られた存在です。
一方で経営層・事業部門の人々は、データ活用そのものに慣れていないためデータサイエンティストから上がってきた情報をどう解釈し、どう活かすべきかに悩んでしまいます。
こうしたデータ活用の現場において、ビジネストランスレーターは下記のような役割を担っています。
- 経営層・事業部門が抱えているビジネス課題を傾聴・理解する
- ビジネス課題の解決に向けてどのような情報が必要かを整理する
- 分析担当者に経営層・事業部門が必要としている情報を伝える
- 適切な分析データと分析手法を決めるサポートを行う
- 分析担当者のレポートを経営層・事業部門が理解できる形に翻訳する
- 経営層・事業部門がレポートを活用できるようサポートを行う
いかがでしょうか。データ活用の現場にビジネストランスレーターが存在すれば、分析担当者と経営層・事業部門の間に横たわっているギャップや問題が、大いに解消されることに期待を持てるでしょう。
ビジネストランスレーターが必要とされる背景
企業がデータ活用を推進するにあたって最大の障壁となるのは「組織」です。具体例でご説明します。
データを分析したところ、「そんなの当たり前」という結果が導き出されることが多々あります。そのレポートを目にして、「何のためのデータ分析なんだ」と憤りを感じる経営層・事業部門は少なくありません。
一方でデータ人材からすると、「そんなの当たり前」という結果を導き出すのは非常に重要だと考えています。なぜなら、「当たり前の分析結果」を積み重ねることでデータ分析の精度が上がり、繰り返しの中で新しい事実を発見できるケースも多いからです。
経営層・事業部門と分析担当者のこうした認識のギャップは、組織的問題としてデータ活用の障壁になるのです。
そして残念なことに、経営層・事業部門と分析担当者の認識のギャップは今後さらに広がっていく可能性があります。
将来的に起こる組織内のデータ格差問題
データ格差とは、データ分析のスキル・環境における企業間の格差を表す言葉です。現在は企業間における言葉にとどまっていますが、将来的には「組織内でデータ格差が広がっていく」という問題が懸念されています。
データサイエンティストなどのデータ人材に注目が集まったことで、日本のデータ人材は今後急速に増えていくと考えられます。データ人材を雇用する企業も増え、データ分析担当者やチームを常駐させる企業も増えるでしょう。
しかし、データ分析を専門に学んできた人材はビジネスに関するスキル・知識に乏しく、前述のようにビジネスまで思考を巡らせられるデータ人材は稀な存在です。それに対し、経営層・事業部門の人々は「データ分析は専門職」という固定観念を持っており、データ活用スキルを磨こうと行動する方が少ないのが現状です。
データ人材が増えても社内のデータ格差が広がり、データ活用が一向に進まないといった問題は大きな懸念点となっています。
ビジネストランスレーターがデータ格差を埋める
そこで、ビジネストランスレーターがデータ格差を埋める存在として機能します。
データ人材としての技術とビジネスサイドの知識、2つの要素を兼ね備えたビジネストランスレーターが、経営層・事業部門と分析担当者の間に横たわっている組織的問題を解消することで、データ活用が初めて動き出すのです。
誰もがデータ活用スキルを身につけている時代になれば、「データ人材」や「ビジネスサイド」という境界線は薄れていきます。「自らがデータを分析しながら事業を動かす経営者」も増えるでしょう。
しかしそれはまだ数十年先の話です。現状として、データ格差がいったん広がることは免れません。誰もがデータ活用スキルを身につけている時代になるまでは、ビジネストランスレーターは全ての企業にとって重要度の高いデータ人材だと言えます。
ビジネストランスレーターに求められる5つのスキル
ビジネストランスレーターと呼ばれるデータ人材には、下記5つのスキルが強く求められます。
IT・テクノロジーの知識 | システム、アプリ、プログラミングなどIT・テクノロジーに関する幅広く深い知識。 |
データサイエンスの知識 | 数学、統計、特殊プログラミングなどデータサイエンス(データ分析)にかかわる深い知識。 |
ビジネス・経営戦略の理解 | 企業が営んでいるビジネスや中長期的な経営戦略への理解。財務諸表を読み解くなどの会計知識も時には必要。 |
事業部門と顧客の理解 | 企業経営の根幹になる事業部門と、利益を生み出す顧客に対する理解も欠かせない。 |
プロジェクト推進力 | 分析担当者と経営層・事業部門の橋渡し役であると同時に、データ活用プロジェクトを推進する中心人物でもある。 |
このように、ビジネストランスレーターにはデータ人材とビジネスサイド、両方の幅広いスキル・知識が必要とされます。
ビジネストランスレーターを「経営層・事業部門と分析担当者の橋渡し役」と説明しましたが、「データ活用やDXにおける俯瞰役」としての役割も持っています。
企業が目標としているデータ活用・DXに向けて正しく推進できているか、データ人材とビジネスサイドの両方の視点から俯瞰し、状況を冷静に分析した上で的確なアドバイスを下す。このような役割まで担えるビジネストランスレーターは、CDO(最高データ責任者)としての素質も身につけていると言えます。
ビジネストランスレーターを育成・獲得するメリット
ビジネストランスレーターの存在により「分析担当者と経営層・事業部門のギャップが埋まる」とご紹介しました。では、ビジネストランスレーターを育成・獲得することで、企業はどのようなメリットを享受できるのでしょうか。
大きなメリットとしては、「DXの本質的な取り組みが進む」と「データドリブン文化が醸成される」の2つです。
DXの本質的な取り組みが進む
DXのかけ声が年々大きくなっているのに対し、本質的なDX推進を実現できている企業は限られています。
JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)が発表した「企業IT動向調査報告書 2023」によれば、「DXを推進できていると思うか」の設問に対して「非常にそう思う」「そう思う」と回答した企業は、わずか24.7%でした。
理由として、DXがバズワードになったことで理想・構想が先走りし、それに伴うデータ活用基盤が整っていないのだと考えられます。これは多くの企業で見られる問題であり、日本企業の本質的なDX推進を妨げている原因でもあります。
DX推進のためのデータ活用基盤とはデータ分析の環境面だけでなく人材面も含まれており、「組織全体がDX推進に向けてデータ活用を行える」というのも重要なデータ活用基盤です。
しかし前述のように、多くの企業では分析担当者と経営層・事業部門に大きな隔たりがあり、環境面は整備されていても人材面が整備されていません。
そこでビジネストランスレーターの育成・獲得を行えば、分析担当者と経営層・事業部門の相互理解が促進し、お飾りになっていたDXが本質的に動き出すでしょう。
データドリブン文化が醸成される
データドリブンとは、データ分析を通じて得られる情報やインサイト(洞察)を根拠に意思決定を下すことです。データ活用が浸透している企業では経営層・事業部門にデータドリブン文化が醸成され、「組織的なデータ人材化」が進んでいます。
つまり経営者や役員、一般従業員が意思決定に必要な情報やインサイトを自ら取捨選択し、経営・事業に活かしているという理想的なデータ活用を実現しています。
データドリブン文化を醸成できるのも、ビジネストランスレーターを育成・獲得する大きなメリットです。
ビジネストランスレーターの存在によって経営層・事業部門のデータ活用に対する理解が進めば、一般従業員がデータ活用スキルを身につけられる環境を整えようと考える経営者・役員が増えたり、スキルを自ら習得しようする人材が増えたります。
こうしたデータドリブン文化の醸成は本質的なDXを加速させるだけでなく、イノベーション創出の源泉にもなるでしょう。
ビジネストランスレーターの育成環境を整えるには
最後に、ビジネストランスレーターの育成環境を整えるために大切な3つのことをご紹介します。
理系・文系の境界線を無くしていく
日本では大学教育課程から、理系・文系という2つの括りで学生を大きく分ける習慣があります。海外でも自然科学と人文・社会科学を2つに分ける文化はあるものの、日本のように理系・文系の断絶が深いわけではありません。
大学内では理系・文系を越境する仕組みがあり、社会に出てからも多くの先進企業がそうした仕組みを持っています。ここに、ビジネストランスレーターを育成しやすい環境のヒントがあります。
ビジネストランスレーターはデータ人材とビジネスサイド、両方のスキル・知識を身につけた人材です。日本的な言い方をすれば「理系・文系の中間に存在する人材」であり、理系人材だけでなく文系人材を育成することも視野に入れるべきです。
むしろ企業によっては、ビジネスサイドのスキル・知識を身につけている文系人材をビジネストランスレーターとして育成する方が、理想とするデータ活用やDXにフィットする場合があります。
理系・文系の境界線を無くし、文系人材のキャリアパスを開くことは従業員のモチベーションアップにもなるでしょう。社内のデータ格差を埋めることにもつながるので、理系・文系という括りを捨てることがビジネストランスレーター育成の第一歩だと言えます。
データ分析資格の取得支援を行う
データ分析資格の取得支援を行うのも、ビジネストランスレーターを育成しやすい環境に欠かせません。それだけでなく、幅広い人材をデータ活用に巻き込んでいくきっかけにもなり、理想とするDX推進のベースになるでしょう。
データ分析資格にはさまざまなものがあるため、目的に応じて取得すべき資格を明確にすることが大切です。企業としては補助金で資格取得をサポートするだけでなく、データ分析資格のすみ分けと資格取得によって社内でどのように活躍できるかを明示し、「従業員の資格選び」からサポートしましょう。
いわゆる「リスキリング」の推進によって、企業にとっても従業員にとっても意義のあるデータ分析取得支援とすることが大切です。
データ分析資格の種類や、リスキリングについては以下の記事で詳しく解説しています。本記事とあわせて参考にしてみてください。
参考:『【現役実務家が厳選】データ分析者に本当に必要な資格11選』
参考:『リスキリングとは「学び直し」ではない!本質や導入ポイントをわかりやすく解説』
CDO(最高データ責任者)を置く
CDOは「Cheaf Data Officer」の略であり、「最高データ責任者」と訳されます。
従来のCDOといえば「Cheaf Digital Officer(最高デジタル責任者)」と訳され、デジタル化やDXを牽引する存在として注目されていました。しかしデータサイエンスやAIの注目度が高まるにつれて、データ活用によりフォーカスした責任者として、今ではCDO(最高データ責任者)を設置する企業が増えています。
CDOは企業のデータ活用やデータ人材育成・獲得といったデータ戦略を牽引する存在です。DXなどの大きな枠組みの中でデータ戦略を立案・推進するなど、さまざまな役割を担っています。
社内にCDOを設置すれば、ビジネストランスレーターの育成環境についてもDXなどの枠組みの中で戦略的に進められるでしょう。CDOについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
参考:『CDO(最高データ責任者)とは?役割とビジネスにもたらす変革を知ろう』
まとめ
本記事ではビジネストランスレーターの役割や必要性、その存在によって解決される課題などを解説しました。
近年人気が高まっているオフショア開発(東南アジア諸国にシステム開発を委託すること)には、「ブリッジSE」と呼ばれる職種があります。文化や言語が異なる2つの環境をつなぐ橋渡し役であり、オフショア開発の成功に欠かせない重要なポジションです。
ビジネストランスレーターの役割は、このブリッジSEと似ています。データ活用の現場において、分析担当者と経営層・事業部門はまさに文化も言語も異なるオフショア開発のようなものです。そこで両者の共通言語になり、ギャップを埋め、データ活用を正しく推進するビジネストランスレーターの存在が欠かせません。
データ活用の重要性は承知しているが、さまざまな問題によってデータ活用を推進できていないという方は、ビジネストランスレーターに着目してみてください。
データビズラボでは、必要なデータ人材を育成・確保するための研修やデータ人材戦略の支援を行っております。ビジネストランスレーターを含め、「わが社のデータ活用にはどのようなデータ人材が必要だろうか」と悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。
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