アンケート調査は、カスタマーの意見や行動の実態を把握する非常に強力なツールです。会社における様々な意思決定の場において、客観的で成功確率の高い選択を示唆することができます。しかしながら、アンケート調査の結果を適切にわかりやすく意思決定者へ伝達することができなければ、せっかく実施したアンケートも、価値を出すことができません。ここでは、アンケートの結果を用いて組織を適切な方向に導きたい、という方に向けたアンケート分析とレポートのまとめ方について解説します。
目次
1. アンケート分析とは?
アンケート分析とは、アンケート調査で得られたデータに解釈をくわえ、ストーリーとしてレポートにまとめることを言います。アンケートのローデータからグラフを作る部分のみを「アンケート分析」と呼ぶこともありますが、本記事では、グラフ作成後、レポートのストーリーを構築する一連の流れを広い意味で「アンケート分析」と捉えます。
1. 1 アンケート分析の目標は「組織の意思決定に影響を与える」こと。
アンケート調査は、意思決定を支援するために実施されます。したがって、アンケート調査によって得られた分析に基づき議論が巻き起こり、組織の意思決定に影響を与えることができたら、そのアンケート分析として成功と言えます。逆に、アンケート分析を受け取った担当者から「あぁ、ありがとう、参考にするね。」という薄いリアクションだった場合は、アンケートの企画・分析に改善の余地がある、と考えて良いでしょう。
1. 2 良いアンケート分析とは
アンケート分析を成功させるための良いレポートとは、以下のようなものです。
- アンケートを実施した背景と、明らかにしたかった調査課題が明確である。
- 調査の手法や実施時期が明確である。
- 調査の結果が順序立てて論理的に説明されている。
- 各グラフや表の着目すべき数字がわかりやすく表現されている。
- 調査によって得られた事実がなぜ起きたのか、考察が深堀りされている。
- その結果として、ビジネスとして何をすべきか、示唆が含まれている。
1. 3 悪いアンケート分析とは
逆に、以下のようなレポートは、せっかく実施したアンケートに価値が出ない悪いレポートとなります。
- 何のためにやった調査か、わからない。
- 調査手法やサンプル数が明確でない。
- レポートが単なるアンケート回答のグラフ集になっている。
- その結果として、ビジネスとして何をすべきか、わからない。
このようなことにならないよう、アンケート結果を分析する際には、しっかり準備を行い、レポートを作成する必要があります。
2. アンケート分析するための手順
分析を進めるにあたって、すべての回答に対して集計・分析・解釈を加えていては効率が悪く、また、それらの情報を整理してわかりやすく伝えることが困難です。「すべての回答を1から順番に分析する」という手順は、アンケートを分析する人が最初に陥る罠です。この結果、何十ページもの分厚い調査レポートを作ることができますが、本当に得たい事実・深い洞察にたどり着くことができません。
調査計画時に考えた「調査の目的」に立ち戻り、「この調査で、もっとも知りたかったことは何か?」を改めて考え、「ゴールから逆算してレポートを作成すること」が最も重要です。
1.ビジネス課題と調査課題を再確認する。
2.アンケート結果の全体像を把握する。
3.重要項目の詳細分析を行う。
4.分析結果の裏どりをする。
5.次に何をすべきかを「提言」として提案する。
2.1 ビジネス課題と調査課題を再確認する。
レポートをまとめるにあたって、「なぜこの調査をしたのか?」という目的に立ち戻って再確認することが重要です。調査の目的をまとめるにあたって、その上位概念であるビジネス課題と、そのビジネス課題を達成するための調査課題、の2つに分けてまとめることが理想です。
①ビジネス課題:ビジネスとして達成したいゴールは何か?
例えば、製品のコストを削減したい、デザインや使い勝手を向上させる、マーケットシェアの獲得、など様々なビジネス課題が考えられます。
②調査課題:ビジネスのゴールを達成するために、この調査で明らかにすべき課題は何か?
例えば、「マーケットシェアを獲得するためにも、現状の自社の強みと弱みを性年代別に明らかにしたい。」「20代女性に向けたキャンペーンを行ったので、認知や購買を獲得できているか?明らかにする。」など。
この「ビジネス課題」と「調査課題」は、レポートの冒頭で記述するを推奨します。分析者にとって「分析のゴール感をぶれないで定めることができる」というメリットがあるとともに、レポートの読者に対して「このレポートを読むことで明らかになることを示すことで、理解の促進にも役立てる」ことができるからです。
2.2 アンケート結果の全体像を把握する
次に、時系列や人の思考の流れに沿ってレポートの全体の流れを作ります。レポートの根幹である「木の幹」を理解しやすいフレームワーク(=時系列・思考の流れ)にあてはめて作ることで、可読性の良いレポートを作ることができます。
2.2.1 アンケートの質問の中から、キーとなる質問を選び、順番に集計する。
アンケートの質問は、回答者が答えやすい順序に従って並んでいます。この順序こそが「理解しやすいフレームワーク」です。基本的には、この順番に集計をしてレポートに掲載しましょう。ただし、質問には「木の幹となるようなキーとなる質問」と「その要因をさぐるための詳細の質問」が混同しています。全体感を把握する際には、まず「キーとなる質問」を軸として、分析をしましょう。
例えば、ある商品の一般的な消費行動において、
【商品の一般的な購買プロセス】
- 商品を知る
- 商品のイメージを持つ
- 商品を欲しいと思う
- 商品を購入する
という流れを作ることができます。この1~4の流れは、一般的には逆転することはありません。これが、「時系列や人の思考の流れに沿った理解しやすいフレームワーク」の意味となります。この一般的な消費行動に沿って、アンケートの集計結果をまとめて、ストーリーを作ります。
【アンケートによる指標】
- 認知度:この商品を知っていますか?
- ブランドイメージ:この商品のイメージに当てはまるものをすべて選んでください。”若々しい”、”先進的”、、、
- 購入意向:この商品を欲しいと思いますか?
- 購入:この商品を購入しましたか?
2.2.1 アンケート分析のタブー ~ チェリーピッキング(良いとこどり)レポート
「調査課題が明確なので、こんな遠回りせずに必要な結果だけ知りたい」という方がいるかも知れません。このような場合においても、全体の流れに沿ったレポートを作成することを推奨します。例えば、「ブランドイメージの違いを知ることでマーケティング戦略を構築したい」という課題をもつ担当者は、「ブランドイメージ」の調査結果だけあれば満足するかも知れません。しかし、ブランドイメージ形成の問題が、「認知獲得」のフェーズにあった場合、ブランドイメージだけのレポートでは、問題の本質を見失う場合があります。全体を俯瞰して見せることで、その担当者に新たな気づきを提供することができることは、アンケートの一つの可能性であり、若干回り道に感じる方がいるかも知れませんが、このやり方を強くお勧めします。
なお、全体を俯瞰せずに、調査の一部分だけを抜粋してレポートは、行動経済学の用語で「チェリーピッキング(サクランボ狩り)」と呼ばれる「都合の良い部分だけを抽出して、見せたくない部分を隠している悪いレポート」とみなされることがあります。アンケートの結果を信頼してもらい、意思決定に使ってもらうためにも、このような印象を持たれないよう心掛ける必要があります。(参考:Wikipedia チェリー・ピッキング)
2.3 重要項目の詳細分析を行う。
全体が俯瞰できたら、詳細の分析を行います。
2.3.1 全体像で観察された事象の『なぜ?』に迫る。
「なぜそれは、起きたのか?」が明確にならなくては、次のアクションに移すことができません。特に、調査課題として挙げられたポイントに対して、要因を明らかにするための深堀り分析をします。このアンケートを意思決定に使いたい人は、次の行動や戦略の示唆につながる情報を求めています。したがって、起きた事象を理解した上で、次のアクションにつながる「なぜ」を分析することが重要です。
2.3.2『なぜ?』に迫る視点と分析手法
この現象の「なぜ」を深堀り分析をするための視点として、以下のような要素が考えられます。
- When : いつ、それが起きたのか?
- Who : 誰が、その現象をリードしているのか?
- Where : どこで、その現象が起きているのか?
- What : 何が、その要因となったのか?
これらは、クロス集計、回帰分析、決定木、といった分析手法により明らかにすることができます。分析の詳細については、以下の記事を参照ください。
参考:初学者のための代表的なデータ分析手法25選【イラストでわかりやすく解説】
2.4 分析結果の裏どりをする。
調査で得られた結果にストーリー性とそのコンテキスト(背景・理由)を調査以外の事実で確認することを「分析結果の裏どり」と言います。
2.4.1 裏どりは、調査の信頼性を高めるために行う。
「知らないことを明らかにするために調査をした」はずなのに、なぜ、調査以外の情報を付け加える必要があるのか?と疑問に思う方もいるかも知れません。アンケート調査では、様々な要因で不具合が発生することがあります。
・調査対象となった人と、実際のマーケットと乖離があり、市場代表性が担保できていなかった。
・悪意のある回答者が含まれ、回答に偏りが出ていた。
・集計結果にミスがあり、正しい数字が算出されていなかった。
裏どりは、このリスクを最小化し、信頼性を高めるためのプロセスと言うことができます。
特に裏どりが必要なのは、「意図した結果と異なる、直観的に違和感がある結果」が得られたときです。これらは「調査によって得られた新たな発見」として報告することができます。一方で、「なぜこれが起きたのか?」を合理的に説明できないと、調査が適切に実施されなかったために起きた不具合であることを疑われ、報告内容に説得性がなくなってしまいます。過去の経験の中でも、違和感のある結果を「新しい発見」として報告した担当者が、その理由を説明できず、「調査自体が正しく行われたのか?」と激しく糾弾され火消作業に追われる、なんてこともありました。
2.4.2 具体的な裏どりの方法
裏どりの方法は、様々ですが例えば、以下のような方法があります。
- その領域に詳しい社内の部署の方にヒアリングをする。
- ネットの口コミ(Twitterや価格.com、Amazonのレビューサイト)を調べる。
- 調査を実施した調査会社に確認する。
- ホームページやWikipediaを参照する。
その数字の背景を理解することにより、より納得性のある説明を対象者にすることができます。
2.5 次に何をすべきかを「提言」として提案する。
時間と予算をかけて調査を実施したら、この分析結果をどう会社の意思決定に使うのか?という提言を作成することで、レポートを締めくくります。ビジネス課題・調査課題で定義されたテーマは、ここまでの分析で明らかになっているはずです。明らかになった課題に基づき、「誰が何をすべきか」という提言を書くことで、アンケートの価値を飛躍的に高めることができます。
まとめ
アンケートは、集計・分析・レポートにまとめて、初めて価値を生み出すことができます。アンケートの目的に対して、単刀直入に答えることができるようレポートはまとめることを意識しましょう。そのためにも、時系列や人の思考の流れに沿った理解しやすいフレームワークで全体の流れを作り、そこで得られた結果に対して、深堀りをしていく、という順序で分析をします。また、得られた結果については、アンケート以外の情報を確認することで、アンケート調査の信頼性を補強することができます。最後に、このアンケート調査の結果を踏まえ「何をすべきか?」の提言をまとめ、レポートとして締めくくりましょう。
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