労働力不足や技術革新、国際競争の激化といった課題がある建設業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められています。建設業界のDXはどのように推進していけばよいのでしょうか。
本記事では、建設DXの基礎知識や活用されている技術を紹介し、DX推進による生産性向上や安全性の強化などのメリットを解説します。また、DX推進に必要なステップと成功させるための6つのポイントについても詳しく説明します。最新技術を活用し、競争力を高めるための戦略を学ぶ一助となれば幸いです。
目次
建設DXとは
建設DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、建設業界においてデジタル技術を活用して業務プロセスを革新し、生産性や効率を向上させる取り組みのことです。
具体的には、BIM(Building Information Modeling)やIoT(Internet of Things)、AI、ロボティクスなどの最新技術の導入が含まれます。これらの最新技術は導入したからといって、すぐに効果が表れるものではありません。これらの技術を通して、あるいはこれらの技術を活用するためにデータを集め、蓄積させていくことで、はじめてDXの推進やデータの利活用が可能になります。
そのため、DXには早めに取り組み始めることが重要です。特に建設業においては、機械学習のために膨大な画像データが必要となります。
画像データの具体例として「道路のわだちやヒビなど、傷み具合を学習させるための画像」のようなものが挙げられます。たとえば道路の傷み具合を5段階で評価し、地図上に「どこにどの程度の傷みがあるのか」を登録していくことで、補修の優先順位を付けるためのシステムを開発・運用するとしましょう。この場合、どの程度の傷みをどの段階として認識すればいいのか、機械学習のために膨大なサンプル画像が必要です。しかし、特に補修の緊急度が高い4段階、5段階の画像はなかなか手に入りません。このような傷みはなかなか発生しないうえ、すぐに直されてしまうからです。
機械学習のためには、早期に取り組みを始め、データを収集していくことがポイントとなります。
建設DXが注目されるようになった背景
建設業界には人材・若手不足や慢性的なデジタル化の遅れなどがあること、また人々の生活に密接した業界であることから、DX推進がとりわけ重視されています。建設DXが注目されるようになった背景を具体的にみていきましょう。
労働力不足・人材不足
建設業界では、少子高齢化に伴う労働力不足が深刻な問題となっています。若年層の建設業離れが進む中で、効率的な働き方が求められています。これは少ない人手でも業務を進めるうえでも、働きやすい環境をつくり若手を集めるためにも重要なことです。
また、建設業界全体の高齢化による熟練者の退職も深刻です。いわゆる「匠の勘」のようなものが言語化されないまま、それを持つ熟練者が定年により退職してしまうと、社内から貴重なノウハウが失われてしまいます。
この「勘」や「匠の腕」のようなものを言語化しノウハウとして共有するうえでも、AIや機械学習などのテクノロジーが役立ちます。
国際競争の激化
グローバル化が進む中で、日本の建設業界も国際競争力を維持・向上させることが求められています。効率的に生産性や品質の向上を実現するためには、最新のデジタル技術を取り入れることが不可欠です。
技術革新
AIやIoT、ビッグデータ解析などの技術が急速に進化し、これらを活用することで建設現場の自動化や効率化が現実のものとなってきました。
また、技術革新が注目されている理由は、建設現場の自動化や効率化だけに留まりません。
建設DXに役立つテクノロジーは、建設業に精通していなければ開発できません。技術革新の恩恵を受ける側ではなく、それをけん引していく側に回ることで、建機の稼働管理システムや画像認識による修繕チェックシステムなどのベンダーになるような、新しい選択肢や事業展開も実現できることから、他社との競合優位性を高めるためにも、DXの推進が重視されています。
建設業におけるDXの推進状況
建設業界のDX推進状況は、他の業界と比較するとどのような状況なのでしょうか。まずは以下のグラフをご覧ください。
出典:DX白書2023
上記のグラフはDXの言葉の意味を理解し、取り組んでいる企業の割合を示すものです。建設業は11.4%と最も低いです。建設業界にはもともとデジタル化の遅れや若手の不足などの課題もあり、これらがDXに対する理解や推進の姿勢にも影響しているといえます。
出典:DX白書2023
独立行政法人情報処理推進機構による「DX白書2023」によると、DXに取り組んでいる建設業の企業は、業界全体のわずか20.7%。「実施していないが今後実施を検討している」のは20.0%で、残りの60.5%は今後も実施する予定がないとのことです。
他の業界と比較すると、これまで実施してきた企業は少なく、今後の推進が求められているといえるでしょう。
建設業界におけるDX推進に対する国の取り組み
国土交通省をはじめ、日本政府も建設業界のDX推進を支援しています。BIMの普及促進やデジタル技術の導入を支援する補助金制度の制定などに取り組んでいます。
次に、国土交通省が実施している「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と「BIM/CIM原則適用」について紹介します。
i-Construction
i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、建設現場の生産性向上を目的とした、ICT(情報通信技術)を活用する取り組みのことです。
具体的には、ドローンやレーザースキャナーを活用した「3次元データの活用」、GPSやセンサーを搭載した「ICT建機の活用」、クラウドを活用し現場と事務所間での情報共有をスムーズにする「ネットワークの活用」の技術を柱としています。
i-Constructionの導入により、建設業界が抱える課題である労働力不足や生産性低下の解決に貢献すると期待されています。
内容の詳細は、以下のオフィシャルサイトから確認できます。
BIM/CIM原則適用
画像出典:国土交通省「第3回BIM/CIM推進委員会」
BIM/CIM原則適用とは、2023年度から国土交通省が所管する公共事業において、原則としてBIM/CIMを導入する取り組みのことです。
BIM/CIMはBuilding Information Modeling/Construction Information Modelingの略で、建物の3次元モデルにさまざまな情報(コスト、工程、素材など)を紐づけて、設計・施工・維持管理の各段階で活用する手法です。
これにより建設現場や建設プロセス全体の効率化・生産性向上、関係者間の情報共有の円滑化などの効果が期待されています。
BIM/CIMの基準・要領などに関する内容は、国土交通省のサイトに記載されています。
建設業界においてDXを推進するメリット
建設業界においてDXを推進することは、生産性の向上だけにとどまらず、安全性や品質の向上、業界全体の高齢化と定年による退職への対策など、さまざまなメリットをもたらします。
本記事では、5つのメリットとその詳細を解説します。
メリット1.生産性の向上
建設DXの最も大きなメリットの一つは、生産性の向上です。BIM(Building Information Modeling)やIoT(Internet of Things)を活用することで、設計から施工までのプロセスを一元管理し、無駄を省けます。
たとえば、リアルタイムで現場の進捗を把握し、計画の修正が迅速に行えるようになります。これにより、作業効率が飛躍的に向上し、プロジェクト全体の生産性が大幅に改善されます。
メリット2.省人化の進展
建設業界は慢性的な労働力不足に直面しています。DXを推進することで、省人化が進み、人手不足の問題を緩和できます。
AIやロボティクスを導入することで、自動化された作業が増え、現場での労働力依存度減少に貢献。また、ICT建機を用いることで、遠隔操作や自動運転が可能となり、少ない人員でも高効率な作業が実現します。
メリット3.安全性の向上
建設現場の安全性向上も、DXの大きなメリットです。IoTセンサーやドローンを活用して現場の監視を行うことで、危険箇所をリアルタイムで把握し、事故のリスクを未然に防げるようになります。また、AIを用いたリスク予測分析により、事前に危険を察知し、対策を講じることも可能です。
メリット4.品質向上
DXを推進することで、建設プロジェクトの品質も向上します。BIMを利用することで、設計段階から詳細なシミュレーションが可能となり、施工ミスを減少させられます。さらに、デジタルツイン技術を活用して、実際の建物の状態をリアルタイムで把握し、メンテナンスの質を向上させることもできます。
メリット5.ナレッジの共有による技術継承
建設業界では、熟練工の引退に伴う技術継承が課題となっています。DXを活用することで、ナレッジの共有が容易になり、技術の継承がスムーズに行えます。
たとえば、作業プロセスや施工ノウハウをデジタルデータとして蓄積し、後継者に引き継ぐことができます。熟練工がウェアラブル端末を身に着けその動きをデータ化したり、熟練工の判断基準をデータ分析によりデジタル化したり、AIやIoTなどのテクノロジーは「事象の相関性や因果関係を見つけること」が得意です。これによりいわゆる匠の技術を言語化・ノウハウ化し、技術力の維持・向上が図れます。
建設DXで活用されている技術例
これまで、建設DXに活用されている技術をいくつか紹介しました。次に、建設DXではどのような技術が活用されているのか、具体例を7つ紹介します。
BIM/ CIM
BIM(Building Information Modeling)およびCIM(Construction Information Modeling)は、建設プロジェクト全体の情報をデジタルで一元管理する技術です。これにより、設計から施工、維持管理までの全てのフェーズでデータが共有され、効率的なプロジェクト運営が可能となります。
IoT
さまざまな物理的なデバイスがインターネットに接続され、データの収集や交換が行える技術や概念を指すIoT(Internet of Things)。
IoT技術を活用することで、建設現場の機器やセンサーからリアルタイムでデータを収集し、作業の進捗状況や設備の状態をモニタリングできます。これにより、現場の効率化や安全性の向上が図られます。
ICT建機 / ICT(情報通信技術)
ICT建機とは、情報通信技術を搭載した建設機械のことです。これにより、遠隔操作や自動運転が可能となり、作業の精度や効率が向上します。GPSやセンサーを用いた高度な制御が特徴です。
ドローン
ドローンは、建設現場の空撮や測量に活用されています。高精度な地形データの取得や、進捗状況の確認、点検作業など、多岐にわたる用途で活用されています。
AI(人工知能)
AI技術は、施工計画の最適化やリスク予測、画像認識による異常検知などに利用されています。これにより、作業の効率化や安全性の向上が実現します。
SaaS(クラウドサービス)
SaaS(Software as a Service)は、クラウド上で提供されるソフトウェアサービスです。建設プロジェクトの管理や、データの共有・保存に活用され、柔軟で効率的な運用が可能となります。
ディープラーニング(機械学習)
ディープラーニングを活用することで、画像解析やパターン認識などが高度化し、施工現場での異常検知や予測分析が精度向上します。これにより、より安全で効率的な施工が可能となります。
建設業界がDX推進をするうえでの注意点や課題
他業界と比較して、建設業界でDX推進が進んでいない理由や、DX推進における課題にはどのようなものがあるのでしょうか。次に、課題と対策方法について解説します。
初期導入費用の投資が必要
DXの推進には、初期導入費用が必要です。新しい技術や設備の導入にはコストがかかるため、十分な予算を確保することが重要です。
また、投資回収までの期間を考慮し、長期的な視点で計画を立てる必要があります。
DX人材の採用と育成
DXを成功させるためには、適切なスキルを持つ人材が必要です。技術の導入と同時に、DX人材の採用と育成を行い、従業員が新しい技術を効果的に活用できるようにすることが重要です。
ここで課題となるのが、DX人材にはデータの利活用やテクノロジーに関する知識だけでなく、建設業界に精通していることも求められることです。建設業界ならではの課題や業務の進め方を理解していてはじめて、実務を踏まえたデータの利活用が可能になります。だからこそ、DX人材の育成には時間と手間をかけなければなりません。新しく採用するだけでなく、社内の優秀・勉強熱心な人材を、DX人材として育成していくのもいいでしょう。
DXやデータ領域の専門家をアサインし、自社にない知識を取り入れることで、効率的に実施できます。
セキュリティ対策
デジタル化が進むと、データの管理やセキュリティ対策が重要となります。機密情報の漏えいやサイバー攻撃のリスクに対応するため、強固なセキュリティ対策を講じる必要があります。
建設業DXを進める手順
では、実際に建設DXを進めるときにはどのような手順で進めたらいいのでしょうか。推進の流れに沿って解説します。
STEP1.現状分析と課題の特定
まずは、自社の現状を分析し、DX推進における課題を特定します。
STEP2.目標設定
次に、自社のDX推進における具体的な目標を設定します。たとえば、生産性向上やコスト削減、安全性向上などが含まれます。
DX推進の施策を実施後に、どの程度変化があったのか計測するためにも、定量的な目標を立てることが大切です。ただし、初期の場合は定量的な目標値を立てにくい場合があります。その際は、「チームでデータドリブンな判断ができるようになる」といった定性的な目標や、「実際に◯回ドローンを使用する」といった行動目標も立てておくことで、進捗を把握しやすくなります。
STEP3.導入技術の選定
課題ごとにアプローチ方法を検討し、どの技術を導入すべきかを明確にしていきます。BIMやIoT、AIなど、自社の課題解決に最適な技術を選びます。
STEP4.試験運用(PoCの実施)
選定した技術を小規模なプロジェクトで試験運用し、効果を検証します。これにより、導入後の運用方法を確立します。
STEP5.全社展開と継続的改善
試験運用の結果をもとに、全社的に技術を展開し、継続的な改善を行います。効果を最大化するために、常に改善を続けることが重要です。
STEP6.人材育成と組織文化の変革
新しい技術を効果的に活用するためには、人材の育成と組織文化の変革が必要です。従業員が技術を習得し、柔軟な働き方を受け入れる文化を醸成します。
部署横断のDX推進プロジェクトを実施したり、評価制度にデータに関する項目を入れたりするなど、組織的に実施できる環境をつくりましょう。
STEP7.継続的な改善と運用
DXは一度技術を導入したら終わりではありません。常に技術の進化に対応し、継続的な改善と運用を行うことで、効果を持続させましょう。
建設DXを成功させる6つのポイント
建設DXを推進する際、初期コストがかかる、DX人材の確保が難しいなどさまざまな課題があると解説しました。最後に、これらの課題を乗り越え建設DXを成功させるためのポイントを6つ紹介します。
<建設DXを成功させる6つのポイント>
- 現場の声を把握し、課題を設定する
- 経営陣のリーダーシップとコミットメント
- 企業文化の変革
- 適切な技術の選定と導入
- 継続的な教育と支援
- データの管理とセキュリティ
ポイント1.現場の声を把握し、課題を設定する
建設DXの成功には、現場の声をしっかりと把握し、具体的な課題を明確にすることが重要です。現場の従業員が日々直面する問題や改善点を収集することで、DXの取り組みが実際の業務に役立つ形となります。これには、定期的なアンケートやヒアリング、現場訪問などの方法が有効です。現場のニーズを反映した課題設定は、従業員のモチベーション向上にも繋がります。
ポイント2.経営陣のリーダーシップとコミットメント
DX推進には、経営陣のリーダーシップとコミットメントが不可欠です。トップダウンでの強力な支援がなければ、DXは単なる技術導入に留まり、全社的な変革には繋がりません。
経営陣はDXの重要性を理解し、明確なビジョンと目標を設定するとともに、必要なリソースを確保し、継続的なサポートを提供することが求められます。
ポイント3.企業文化の変革
DXの成功には、企業文化の変革が必要です。新しい技術やプロセスを導入する際には、従来の働き方や考え方を見直し、柔軟に対応できる企業文化を醸成することが重要です。
オープンなコミュニケーションを促進し、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を奨励することで、DX推進がスムーズに進みます。また、変革の過程で生じる抵抗を克服するための教育や啓発活動も欠かせません。
具体的な行動目標を掲げたり、評価制度として取り入れたりすることで、企業としての方針を明確にできます。
ポイント4.適切な技術の選定と導入
DXを成功させるためには、自社の課題や目標に適した技術を選定し、効果的に導入することが必要です。最新技術が全ての課題を解決するわけではないため、自社の業務プロセスや現場のニーズに合致した技術を慎重に選ぶことが重要です。
また、技術導入後の運用を見据えた計画を立て、トライアルやパイロットプロジェクトを通じて、導入効果を検証することも大切です。
ポイント5.継続的な教育と支援
新しい技術を効果的に活用するためには、従業員への継続的な教育と支援が不可欠です。技術導入時だけでなく、運用開始後も定期的なトレーニングやフォローアップを行い、従業員が最新の技術を理解し、活用できる環境を整えます。
また、技術サポートやヘルプデスクの設置など、現場からの質問やトラブルに迅速に対応できる体制を構築することも重要です。
ポイント6.データの管理とセキュリティ
DXが進むと、膨大なデータが生成されるため、これらのデータを適切に管理し、セキュリティを確保することが求められます。データの正確性や一貫性を保つためのデータガバナンス体制を整えるとともに、サイバーセキュリティ対策を強化し、情報漏えいや不正アクセスからデータを守ることが必要です。
また、データの活用方法を定め、適切な権限管理を行うことで、安全かつ効果的にデータを活用することが可能となります。
まとめ
建設DXは、業界全体の生産性向上や人材不足の解消、安全性の向上など多岐にわたるメリットを提供します。その推進には、現場の声を反映した課題設定や、適切な技術選定、継続的な改善が重要です。
国の取り組みや先進技術を活用しつつ、組織文化の変革やデジタル人材の育成を進めることで、建設業界のDX推進を成功に導くことができるでしょう。本記事で紹介したポイントを踏まえ、持続可能な取り組みを実施していきましょう。
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