さまざまな業務がDX推進によりデジタル化する中、取り組みがなかなか進んでいないのが経理領域です。紙やハンコをベースとした業務が多く作業に時間がかかるため、本来取り組むべき他部門の支援にまで手が回らず、それが自社の競争力向上を阻む要因のひとつとなっているケースもみられます。
つい後回しにしてしまいしがちですが、経理部門のDX推進は企業経営にさまざまなメリットをもたらします。本記事を参考にDXの要点を掴み、自社のDX推進を検討してみてください。
目次
経理部門をはじめとするバックオフィス業務にDXを推進する意義とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業全体の競争力を高めるために不可欠な取り組みです。営業やカスタマーサポートなどのフロントオフィスから経理や法務などバックオフィスまで、全社的なDX推進が求められています。
中でも、経理部門をはじめとするバックオフィス業務においてDXを推進することは、企業全体の効率化と競争力向上に直結します。ただ業務をデジタル化するのではなく、各部署が保有するデータを相互的に共有・連携し、ビジネスのプロセスそのものをデジタル化することが経理部門におけるDX推進の最終的な目的です。
バックオフィス業務はいまだに紙・ハンコ文化が根付いており、アナログな作業が数多く発生しています。こうした作業の一つひとつをDX推進によりデジタル化していくことで経理部門の負担を減らし、より生産的な業務に集中できるようになります。稟議申請や経費申請など紙ベースの作業も減るので、各部門で浮いたリソースを本来するべき業務に充てられます。
これらのことから経理部門のDX推進は、ビジネスの成果を最大化させるためにも意義のある取り組みだと言えます。
経理部門がDXを推進する7つのメリット
経理部門がDXを実施することで、以下のような多くのメリットが得られます。企業の競争力を高め、持続可能な成長を実現するためには、経理部門のデジタル化は避けて通れない道です。DXを積極的に推進し、経理業務の効率化と高度化を図ることが求められます。
次に、経理部門がDXを推進する7つのメリットについて解説します。
1. 作業効率の向上とコスト削減
経理業務におけるDXの導入は、手作業の削減や自動化による作業効率の大幅な向上をもたらします。
例えば、手作業で行っていたデータ入力や伝票処理が自動化されることで、人的ミスのリスクが減少し、精度の向上と業務のスピードアップが図れます。自動化により人件費や運用コストも削減できるため、経費の効率化が実現します。
2. 業務の属人化を防ぐ
DXの推進により、業務プロセスが標準化され、特定の個人に依存しない体制が整います。属人化を防ぐことにより、社員の異動や退職による業務の停滞を防ぎ、組織全体の安定性が向上します。
経理は他の部署・部門と比べて少人数であることが多く、かつ一人ひとりの業務量が多い傾向にあります。そのため属人化が起きやすいのですが、DXを推進すればこうした個人に依存した業務を減らせます。
3. データの正確性と信頼性の向上
デジタルツールを活用することで、データの入力や処理が正確に行われ、信頼性の高いデータが得られます。
また、DXによるシステム導入でデータの一元管理が可能になります。リアルタイムでのデータ更新や自動チェック機能により、データの正確性と信頼性が格段に向上します。財務報告の精度が高まり、経営判断の基盤となる情報の品質が向上します。
4. 経営戦略への貢献
経理部門のDXは、企業全体の経営戦略にも大きく貢献します。リアルタイムでのデータ分析やレポート作成が可能になり、経営陣が迅速かつ的確な判断を下すための基盤が整います。データに基づいた戦略的な意思決定が強化され、企業の競争力が向上します。
5. コンプライアンスとリスク管理の強化
デジタル化により、デジタルツールを活用した監査機能が強化され、法令遵守やリスク管理が容易になります。自動化されたシステムは、規制に対応した処理を確実に行い、内部統制の強化にも寄与します。
不正やエラーの早期発見が可能となり、リスク管理がより効果的に行えるようになります。コンプライアンス違反のリスクの低減にもつながるでしょう。
6. ノンコア業務を削減することで、従業員の満足度とモチベーション向上
単純で反復的な作業から解放されることで、経理スタッフの業務満足度が向上します。創造的で付加価値の高い業務に集中できる環境が整い、従業員のモチベーションアップにもつながります。人材の定着率も向上し、優秀な人材の確保にも寄与するでしょう。
7. リモートワークや働き方改革の推進
DXの推進により、クラウドベースのシステムを活用することで、リモートワークが容易になります。柔軟な働き方ができるようになり、ワークライフバランスの向上が実現します。ペーパーレス化も推進され、環境にも優しい働き方が可能です。
経理DXを推進する5つのステップ
自社で経理DXを推進する際は、基本となる5つのステップをベースに進めていきましょう。
経理は全部門と関わりがある重要な部門であり、経理業務のデジタル化は従業員の業務にも影響を与えます。経理業務だけでなく従業員の経理作業の効率化にもつながるかを慎重に検討しながら実施してください。
STEP1.現状分析と課題の特定
まずは現状の業務プロセスを徹底的に分析し、課題を特定します。これにより、どの部分にDXを導入すべきか、優先順位を明確化できます。
現場の従業員に意見を聞くことで、実際に業務を行う際の課題を明らかにすることが可能です。経理部門だけでなく、関わりが深い関連部門からも現状のヒアリングを行いましょう。
STEP2.ビジョンと目標の設定
次に、DXの導入によって達成したいビジョンと具体的な目標を設定します。このステップでは、導入の方向性を明確にし、全員が同じ目標に向かって取り組むためのベースを整えます。
STEP3.適切なツールと技術の選定
経理業務に適したツールや技術を選定します。選定時には、業務の効率化やコスト削減、データの正確性など、求める効果に応じたツールを選ぶことが重要です。課題の解決および目標の達成につながるかどうかも確認しながら慎重に検討しましょう。
STEP4.PoC(概念検証)の実施
選定したツールや技術を小規模で試験的に導入し、その効果を検証します。本格導入前に問題点や改善点を見つけられます。
STEP5.全社展開、トレーニングの実施
PoCの結果を踏まえ、全社的にツールを展開し、従業員へのトレーニングを実施します。これにより、新しいシステムへの移行がスムーズに進みます。
経理DXで活用されるツール
経理DXを推進するにあたって、どのようなツールや技術があるのかを知っておくことは大切です。会計ソフトウェアや経費精算システムなど、すでに多くの企業で導入されているツールからロボットに業務を代替するRPAツールまで、経理DXに活用できるツールをご紹介します。
会計ソフトウェア
経理業務の基盤となる会計ソフトウェアは、日常の取引の記録から財務諸表の作成まで、多岐にわたる機能を提供します。クラウドベースのソフトウェアは、リアルタイムでのデータアクセスが可能で、リモートワークにも対応しています。
電子帳票システム / 受発注システム / 経費精算システム / 給与前払いサービス
経費精算システムや受発注システムなど、これらのシステムは手作業を減らし、業務プロセスを自動化することで、作業効率を大幅に向上させます。
例えば、電子帳票システムはペーパーレス化を促進し、受発注システムや経費精算システムは、データの一元管理を可能にします。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
RPAは、定型業務を自動化し、人的ミスを減少させる強力なツールです。経理部門は会計の仕分けやデータ入力など、毎月決まった業務が発生しやすい部門です。こうした単純な定型業務をロボットに任せることができれば、経理担当者がより高度な業務に集中できるようになります。
ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)
ERPシステムとは、企業全体のリソースを統合的に管理し、情報の一元化を実現するシステムのことです。経理部門においても、在庫管理や予算管理、財務計画など、経営状況を可視化したい場合に活用できます。
ワークフローシステム
ワークフローシステムによって、申請・承認をシステム上で完結できます。業務プロセスの自動化と標準化を促進し、業務の流れをスムーズにします。
例えば、稟議承認プロセスの効率化や進捗管理が可能です。対面による非効率的な申請業務を減らせます。
AI-OCR(エーアイ オプティカル・キャラクター・レコグニション)
AI-OCRは、紙の書類をデジタルデータに変換し、データの入力作業を自動化する際に用いられるツールです。OCRと呼ばれる光学文字認識技術と人工知能を組み合わせたテキストをデジタルデータ化する技術で、請求書や領収書などを読み取って電子化します。
手作業による入力ミスが減り、データの正確性が向上します。
BIツール・データ分析ツール
BIツールやデータ分析ツールは、膨大なデータを分析し、経営陣にとって重要なインサイトを提供します。これにより、データに基づいた戦略的な意思決定が可能になります。
クラウドストレージ
クラウドストレージは、データの保存と共有を容易にし、リモートワークを支援します。柔軟に働ける環境を整備したい場合に導入したいシステムです。セキュリティが強化されたツールが多く、データ保護の観点で安全に利用できます。
経理DXを成功させる6つのポイント
経理部門のDXの成功事例とあわせて、自社のDX推進を成功させるポイントも押さえておきましょう。ツールの選定や従業員の教育はもちろんのこと、セキュリティの強化や継続的な改善とフィードバックなども欠かせません。
ポイント1.理想とする業務プロセスを明確にする
DXを進める際には、まず理想とする業務プロセスを明確にすることが重要です。これにより、DXの方向性がはっきりし、導入の効果を最大限に引き出すことができます。
ポイント2.経営層のリーダーシップとコミット
経営層の強力なリーダーシップとコミットメントは、DXの成功に不可欠です。トップダウンでの推進が、組織全体の協力を得るための鍵となります。
ポイント3.関連部署・従業員の教育とトレーニング
DXの導入には、関連部署や従業員の教育とトレーニングが欠かせません。新しいツールやシステムに慣れるための十分なサポートを提供することが重要です。外部の専門家のサポートも得ながら、定期的な研修やセミナーを開催しましょう。
ポイント4.継続的な改善とフィードバック
DXは一度導入して終わりではなく、継続的な改善とフィードバックが必要です。定期的に評価を行い、必要に応じてプロセスを見直すことで、効果を維持・向上させることができます。
ポイント5.適切なツールの選定とカスタマイズ
導入するツールは、業務のニーズに合った適切なものを選定し、必要に応じてカスタマイズすることが重要です。例えば、対面での申請業務が多くそれが従業員の負担になっているのであれば、申請・承認がシステム上で完結するワークフローシステムの導入が適しています。
負担だと感じている従業員が多い業務を解決するためのツールを導入することで、経理DXの最大限の効果を得られます。
ポイント6.セキュリティ対応やガバナンスへの対応を重視する
DXの推進には、セキュリティ対応やガバナンスへの配慮も重要です。デジタル化によるリスクを最小限に抑え、企業の信頼性を維持するための対策を講じることが求められます。
まとめ
経理DXの推進は、企業の競争力を高めるために不可欠な取り組みです。効率化やコスト削減だけでなく、データの正確性や経営戦略への貢献など、多くのメリットがあります。
成功するためには、適切なツールの選定や継続的な改善、経営層のリーダーシップなど、いくつかの重要なポイントを押さえることが必要です。本記事を参考に、経理DXを推進し、未来の経理業務を実現しましょう。
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