リスキリングとは?「学び直し」ではない!本質や導入ポイントをわかりやすく解説

世界的な潮流となっているリスキリングを「学び直し」と理解している人は多いかもしれません。直訳としては間違っていませんが、それではリスキリングの本質を捉えられず、リスキリングの恩恵を受けられない可能性があります。

そこで本記事では、データ支援企業としてさまざまなクライアントのリスキリング(とりわけデータ人材戦略において)を支援してきた経験・知見から、リスキリングとは何かをわかりやすく解説します。

基礎的な意味からよくある誤解、導入するポイントなどを解説するので、「リスキリングの意味が知りたい」という素朴な疑問を抱えている方から「リスキリングを社内で推進したい」と考えている方まで、ぜひ参考にしてみてください。

 

リスキリングとは

リスキリング(re-skilling)とは、企業の中長期的な事業戦略に対応するため、既存の従業員に新しいスキルセット(能力・資質・経験)を習得させる組織的な取り組みのことです。

個人が社内でのキャリアアップや転職を目指すための「学び直し(スキル習得)」とは本質的に異なります。しかし多くのメディアでは、リスキリングを「学び直し」と訳して紹介しているためさまざまな誤解を生んでしまっているのが現状です。

本記事ではその点を細かくかつわかりやすく解説しているので、「リスキリング=学び直し」ではないことを念頭に置きながら読み進めていただければ幸いです。

リカレント教育との違い

リスキリングのトレンド入りに伴い、「リカレント教育」という言葉も再注目されています。

リカレント教育とは、従来は「社会人に新しい学びの機会を与えて経済全体の活性化を促す国家的な取り組み」という意味がありました。1970年代にはリカレント教育の概念が生まれ、当時のOECD加盟国を中心として開発が進んだ政策です。

一方現代では、「生涯学習を通じてスキル・知識をアップデートし続ける」という個人の目的にフォーカスした言葉として浸透しています。つまり「(個人的目的の)学び直し」に対しては、リスキリングではなくリカレント教育が当てはまると言えます。

「リスキリング=組織的な取り組み」「リカレント教育=個人的な学び直し」とシンプルに区別しても良いでしょう。

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リスキリングによくある3つの誤解

続いて、リスキリングによくある3つの誤解をご紹介します。とりわけ企業においては、これらの誤解を解消することが正しいリスキリングの導入・推進に欠かせません。

リスキリング=新しい知識・スキルを学ぶこと

リスキリングにより従業員は、新しい学習・体験を通じて知識・スキルを学びます。しかしそれは「課程」の話であり、リスキリングの本質ではありません。

まず、リスキリングは企業の事業戦略と密接に連携させ、事業構想を実現するために必要な人材・スキルセットを整理します。その上で従業員に知識・スキルをアップデートしてもらい、事業戦略の一部となってもらうのがリスキリングです。

最終的には従業員に対して新しいキャリアを創出し、仕事・企業満足度の向上、離職率の低下、生産性の向上といったメリットを生み出すのがリスキリングの本質です。単に「知識・スキルを学ぶこと」と誤解してしまうと、リスキリングの恩恵を受けられないので注意してください。

スキルを学ばせると従業員が転職してしまう

リスキリングの導入は検討していても、「スキルを学ばせると従業員が転職してしまうのではないか」と不安にかられる企業も多いでしょう。しかし、本質的なリスキリングを推進できれば、そうした不安は大幅に軽減されます。

ここで、北鎌倉女子学園学園長・東京大学名誉教授の柳沢幸雄氏の言葉をお借りします。

「新しいスキルを身に付けさせるのみならず、スキルを実践できる場を与えれば、社員はいきいきと働き始める。つまり社員の能力開発は、会社の事業戦略、経営方針と結び付けて考えなければならない。」

出典:リスキリングの誤解 優秀な人ほど学び直しで転職する?|日本経済新聞

柳沢幸雄氏によれば、リスキリングで新しいスキル・知識を学ばせるだけでなく、それらを実践できる場があれば従業員のモチベーションアップや離職率低下につながると考えられます。

リスキリングによって従業員が転職をしてしまう事例は実際にありますが、身につけたスキルを活かせる場所やスキルベースのポストを用意すれば、転職リスクを大幅に軽減できます。従業員からしても体力を消耗する転職活動をするよりも、社内でのキャリアアップを実現する方が効率的かつ魅力的です。

リスキリングは当人のモチベーションが重要

組織的なリスキリングに取り組んでも、新しい知識・スキルを学ぶのはあくまで従業員であり、当人のモチベーションを心配している企業も少なくありません。「組織がどんなに頑張っても個人のモチベーションが上がらなければ…」と、取り組む前から匙を投げる企業も多いでしょう。

しかしリスキリングにおける従業員のモチベーションは、当人よりも環境によるところが大きいです。前述のように、新しいスキル・知識を実践する場と、スキルベースのポストが用意されていれば、高いモチベーションでリスキリングに取り組む従業員は確実に増えます。つまり「リスキリングの先(将来的なビジョン)」を明確にし、それを組織全体で共有することが大切です。

また、学習プロセスを従業員の自主性に任せるよりも、企業側で管理する方がリスキリングの取り組み精度は大きく上がります。たとえば一流のスポーツ選手でもメンタル管理は難しいものであり、メンタル面までサポートしてくれるコーチの存在が欠かせません。リスキリングも同じように、学習プロセスを自主性に任せるか企業が管理するかでは、後者の方が圧倒的にモチベーションを維持しやすいのです。

リスキリングに注目が集まっている背景

リスキリングに対して大々的な注目が集まったのは、2018-2020年に開催されたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)と2022年10月の岸田首相の発言です。

ダボス会議では「リスキル革命」と銘打ったセッションにて、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言しました。リスキリングの重要性認識が広がる中、2022年10月3日の第210臨時国会にて、岸田首相はリスキリング支援に対し「5年で1兆円を投じる」と表明しました。

IT人材不足、DX推進課題も後押し

リスキリングに注目が集まっている背景には、IT人材不足やDX推進課題といったテクノロジー面での社会問題の後押しもあるでしょう。経済産業省が2018年に発表した資料では、IT人材は2030年に最大で79万人不足するとされています。

さらに中小機構が2023年に発表した資料によると中小企業でDXに取り込んでいるのは全体の3割程度であり、DXの必要性について「わからない」「必要ない」と回答した企業の割合は2022年から4.3ポイント増加しました。この調査からDX推進がかけ声だけで終わり、DXの必要性を疑問視する企業が増えたのだと考えられます。

こうしたIT人材不足やDX推進の課題に対して、「リスキリングで解決しよう」と検討する企業が増えています。

リスキリングに対する世界の見解

リスキリングに注目が集まっているのは日本だけではありません。

  • McKinsey & Companyは2030年までに3億7,000万人の労働者が職業を変えるか、新しいスキルを習得する必要があると推定
  • 同社のグローバル調査では経営幹部の87%が現在または5年以内にスキルギャップ※を経験している(する)と回答・予想
  • WEF(世界経済フォーラム)は2025年までに世界中の労働者の40%がリスキリングを必要とすると報告
    ※事業戦略に必要なスキルセットと従業員が所有するスキルセットに大きな隔たりがあること

このように世界中の調査でリスキリングの重要性が説かれており、今後も日本のみならず世界的にリスキリングの潮流が大きくなっていくと考えられます。

リスキリングを実施するそれぞれのメリット

リスキリングを実施することでどのようなメリットがあるのか、日本、企業、そして個人としてのメリットをそれぞれご紹介します。

日本としてのメリット

雇用機会の創出

リスキリング政策によって新たなスキル・知識を吸収できる環境を整えられれば、新しい雇用機会の創出につながります。完全失業率と犯罪件数は相関係数が高いため、リスキリング制作によって間接的な治安向上・維持に期待が持てます。

日本経済の活性化

雇用機会の創出により日本経済の活性化が見込まれます。少子高齢化による労働人口減少が懸念されている日本では、リスキリング政策により非労働者の労働参加を促進できればGDP(国内総生産)低迷を防ぎ、日系企業の株価上昇などさまざまな波及効果があると考えられます。

企業としてのメリット

業務効率化・生産性向上

リスキリングによる新たな知識・スキルを習得したり、他社事例を積極的に吸収したりした従業員の存在により業務効率化・生産性向上が促される可能性があります。

人材採用コストの削減

事業戦略に対して十分なスキルセットを備え人材を確保するのではなく、「社内で育成する」という人事戦略にシフトすれば人材採用にかかるコストを削減できます。

優秀な人材ほど採用コストは増えますが、入社後でないと当該人材の貢献度は把握できません。一方で、既存人材を育成すれば事業戦略に必要なスキルセットをピンポイントで習得でき、社内での貢献度も把握しやすいため高いROI(投資対効果)が期待できます。

従業員満足度の向上

リスキリングを導入し、知識・スキル習得後のキャリアビジョンを明確にできている企業は、従業員満足度が高い傾向にあります。これにより離職率低下、仕事へのモチベーションアップなどさまざまな効果が期待できます。

イノベーションの創出

リスキリングで新たな知識・スキルを習得した従業員が増えれば、それぞれの知識・スキルを持ち寄ってイノベーションが創出される機会が増えます。リスキリングを経験した従業員が社内でスタートアップ的にプロジェクトを開始し、一大事業に発展するケースもあるでしょう。

新規事業のスムーズな立ち上げ

新規事業の立ち上げでは、事業に必要な人材を採用するよりも自社ビジネスを十分に理解した既存従業員にリスキリングを実施する方が、効率よく立ち上げられる可能性があります。

個人としてのメリット

新しいキャリアが開ける

企業がリスキリングを実施し習得した知識・スキルを活用できる場やスキルベースのポストを用意してくれる環境では、新しいキャリアが開けるのが大きなメリットです。たとえば「営業職からデータサイエンティストになる」など、今まで想像が難しかったキャリアが開けることで、自分の可能性を最大限追及できるようになります。

自分の市場価値が高まる

習得した知識・スキルとそれを活用できる場やポストで経験を積めば、自分の市場価値は大いに高まります。「市場価値の向上」は転職だけでなく、社内のキャリアアップでも有利に働き、仕事に対する自信やモチベーションのアップにもつながります。

リスキリングの導入ステップ

実際にリスキリングを導入するにあたって何をすれば良いのか。ここではリスキリングの導入ステップをご紹介します。

1. 経営ビジョンに基づいた人材戦略を立てる

まずやるべきは経営ビジョン(中長期的な事業戦略)を明確し、それに基づいた人材戦略を立てることです。

「将来的に必要な人材」を整理するだけでなく、人材戦略に対してどういった人材が組織を構成しているのかなどスキルギャップを視覚化することが大切です。

2. 人材戦略に必要な教育プログラムを考える

経営ビジョンの実現に抱えない人材やスキルセットを整理できたら、人材戦略に必要な教育プログラムを考えましょう。

具体的にどういった教育プログラムが必要かは、各分野の専門家に意見を求めるのが効果的です。

たとえばデータビズラボでは、クライアントのデータ人材戦略の立案から教育プログラムの設計・実行支援などをサポートしています。専門家のコンサルにはコストがかかりますが、社内体制だけでリスキリングを推進するよりも高精度・迅速なプロジェクト推進が行えます。

時間資源を効率よく活用でき、結果として低コストでのプロジェクト推進が実現します。

3. すべての従業員が学べる環境を整える

リスキリングは特定の従業員に絞るのではなく、希望すればすべての従業員が学べる環境を整えましょう。

社内で教育格差が起きると、企業に対するストレスと組織内の不和を生み出す原因になりかねません。

4. 教育プログラムの実施・進捗管理を行う

教育プログラムの実施・進捗の管理は従業員の自主性に任せるのではなく、組織的に管理することが大切です。

LMS(学習管理システム)などの導入により、教育プログラムの実施・進捗管理の仕組み化を目指しましょう。

5. 実務にアウトプットしてもらう

リスキリングを通じて得た知識・スキルは、実務でアウトプットしてもらうことで初めて意味を持ちます。そのためにも知識・スキルを活用できる場や、スキルベースのポストを用意しましょう。

これが従業員の学習モチベーションの維持にもつながり、本質的なリスキリングを実現できます。

6. フィードバックと改善を繰り返す

最終的にはリスキリング・システム全体のフィードバックと改善を繰り返すことで、継続的な試作効果の向上を目指しましょう。企業が必要とするリスキリング・システムは、経営ビジョンや組織構成、既存の人材などによって異なります。

「リスキリングは一日にして成らず」を念頭に、継続的なフィードバック・改善のサイクルを回していきましょう。

以上が、簡単にではありますがリスキリングの導入ステップです。人材戦略におけるスキルギャップの整理と、教育プログラムの設計はとりわけ重要なステップです。

リスキリングの導入で注意すべきこと

最後に、リスキリングの導入で注意すべきことを2つご紹介します。

導入の負担・コストは決して小さくない

リスキリングは導入の負担・コストが決して小さくない取り組みです。さらに施策効果を実感できるまで数年の期間を要することも多いため、中長期的なROIに着目できるかどうかが成功の鍵になります。

こうした理由から、経営層がリスキリングに興味を示さないケースもあるでしょう。社内でリスキリングを推進したい方はクイックウィン(小さい成功体験を素早く作る)を実行して、経営層への説得材料を生むところから始めてみましょう。

企業・従業員の認識にギャップが生まれやすい

リスキリングに対する企業と従業員の認識に、ギャップが生まれやすいのも注意すべき点です。特にリスキリング後に用意する知識・スキルの活用の場とポストにおいて、従業員のイメージと相違が生まれやすいでしょう。

企業に対する不満・ストレスを生む原因になるため、リスキリングを導入・実施する際は経営ビジョン・人材戦略とのつながりと具体的な取り組みについて、従業員にしっかりと共有することが大切です。

まとめ

本記事ではリスキリングの基礎知識やよくある誤解、導入ステップなどを解説しました。90年代後半に「ウォー・フォー・タレント(人材獲得・育成競争)」を掲げたMcKinsey & Companは、今日においてリスキリングの重要性を強く説いています。

「獲得」よりも「育成」を重視するリスキリングは、終身雇用文化を長らく保ってきた日本企業にこそフィットする取り組みだと考えています。いわば「成果主義・実力主義を重視した終身雇用」ですね。成果主義・実力主義へのシフトさえうまくいけば、日本企業こそリスキリングの恩恵を最大限受けられるのではないでしょうか。

多額の投資や人材戦略の見直しが必要といった課題はありますが、非常に高い投資対効果も見込めるので、この機会にリスキリングの導入をぜひご検討ください。

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