
顧客データの重複や不整合によって、営業の連携ミスや分析結果のゆがみが生まれてしまう――こうした課題を抱える企業は少なくありません。
DX推進が進む今、正確で一貫したデータ基盤を整えることは、事業運営の質を左右する重要なテーマとなっています。その中核を担う取り組みが、散在する情報を統合し整合性を確保する「名寄せ」です。
本記事では、データの重複や表記ゆれを整理し、信頼できる顧客情報を維持するうえで欠かせないプロセスである名寄せの基本から具体的な実施手順、効率化のポイントまでを体系的にわかりやすく解説します。
目次
名寄せとは
名寄せとは、複数のデータを突き合わせ、重複や不整合を取り除き、同一対象の情報を整理・統合して整合性の取れたデータを構築する作業のことです。
企業では、顧客情報や取引先情報などをさまざまなシステムで管理しているケースが多く、同じ顧客が別のIDや表記で登録されていることがあります。こうしたデータを正しく統合することで、正確な情報に基づいた営業活動や分析が可能になります。
名寄せは、単なるデータ整理にとどまりません。組織全体での情報共有を円滑にし、経営判断の精度を高めるための重要な基盤づくりでもあります。特にDX推進やデータドリブン経営を目指す企業にとって、名寄せは避けて通れないプロセスといえるでしょう。
個人名寄せと企業名寄せの違い
名寄せには大きく分けて「個人名寄せ」と「企業名寄せ」があります。
個人名寄せは、顧客や会員など個人単位のデータを統合するものです。住所や電話番号、メールアドレス、氏名の表記ゆれなどをもとに同一人物かどうかを判定します。たとえば、「山田太郎」と「ヤマダタロウ」、「(株)山田商店の担当:山田太郎」など、異なる形で登録された同一人物を1つの情報としてまとめます。
一方、企業名寄せは、取引先や法人データを対象に行う名寄せです。「株式会社」「(有)」「Co., Ltd.」などの表記ゆれに加え、支店・子会社などの関連企業情報をどの粒度で統合するかも重要な判断要素になります。BtoB企業では、同一グループ内の複数拠点が個別に管理されているケースが多く、企業単位での正確な名寄せが営業や分析の効率を左右します。
データクレンジングやデータマッチングとの違い
名寄せと混同されやすい概念に「データクレンジング」と「データマッチング」があります。
データクレンジングは、誤記や欠損、表記ゆれを修正してデータの品質を整える工程です。たとえば、「東京都渋谷区」と「渋谷区」「SHIBUYA-KU」を統一するなど、形式の揺れを正す処理が該当します。データマッチングは、異なるデータベース間で共通項目を照合し、同一人物・同一企業を特定する工程です。
名寄せは、これらのクレンジングとマッチングを組み合わせ、同一対象の関係性を特定・整理する一連のプロセスを指します。つまり、データクレンジングやマッチングが名寄せの一部を構成しているといえるのです。
名寄せを正しく行うには、単に重複を削除するだけでなく、「どのデータを正」とするかを明確にし、運用ルールとして定着させることが欠かせません。これにより、長期的に信頼できるデータ基盤を維持できます。
名寄せが必要とされる理由
名寄せを怠ると、重複や不整合によって顧客対応や分析に支障が出るなど、さまざまなリスクが生じます。ここでは、名寄せが必要とされる主な理由を具体的に見ていきましょう。
重複・不一致データによる顧客対応や営業の混乱
名寄せを行わないままデータを運用すると、同一顧客が複数のレコードで登録されることがあります。結果として、営業担当が同じ顧客に重複してアプローチしたり、別の部署が異なる情報を基に対応したりといった混乱が起こります。
たとえば、顧客Aが「株式会社ABC」と「(株)ABC」の2つの名称で登録されていた場合、メール配信や請求処理が二重に行われかねません。こうしたミスは顧客の信頼を損なうだけでなく、社内の工数やコストの無駄にもつながります。名寄せによって情報を正確に統合すれば、顧客ごとの履歴や取引状況を一元管理でき、組織全体での対応がスムーズになります。
最新情報が反映されず分析結果が不正確になるリスク
名寄せが不十分な状態では、古い情報が残ったまま更新されず、分析に用いるデータが実態と乖離するリスクがあります。たとえば、退会済みの顧客や移転後の住所が反映されていないデータを使えば、売上予測やマーケティング分析の精度が大きく落ちるでしょう。
最新データが反映されないと、顧客の購買傾向や地域ごとの販売状況を正しく把握できず、施策の方向性を誤る原因にもなります。名寄せを定期的に実施し、整合性の取れた状態を維持することで、分析やレポートに用いるデータの信頼性を高められるでしょう。
複数システム間で整合性が取れず業務効率が低下
企業では、営業支援(SFA)や顧客管理(CRM)、会計システムなど、複数のツールでデータを扱うことが一般的です。それぞれのシステムで同じ顧客情報が別の形式で登録されていると、更新内容が反映されず整合性が崩れます。
たとえば、SFA上では最新の担当者情報に更新されているのに、請求システムでは古い担当者のままになっているようなケースです。結果として、請求書の誤送付や確認作業の手戻りが発生し、業務効率が大きく損なわれます。
名寄せを実施して整合性を確認・修正することで、システム間での情報連携がスムーズになり、作業の手間を減らせます。
信頼性を欠いたデータが意思決定を誤らせる可能性
経営判断や戦略立案は、正確なデータに基づいて行われるべきものです。しかし、名寄せがされていない状態では、誤ったデータをもとに分析が行われ、意思決定の方向性を誤るリスクがあります。
たとえば、同じ顧客を複数カウントして売上実績を過大に評価したり、取引先情報の統合が不十分で仕入先リスクを見落としたりすることがあります。こうした誤りは、経営の信頼性にも関わる重大な問題です。名寄せによって信頼性の高いデータ基盤を整えることが、的確な意思決定を支える第一歩になります。
名寄せの進め方
名寄せを正確に行うには、段階を踏んで慎重に進めることが大切です。いきなりデータを統合しようとすると、誤ったマッチングや情報の欠落が発生するおそれがあります。次に、名寄せを実施する際の基本的な流れを5つのステップに分けて解説します。
1. データの調査と対象範囲の明確化
最初のステップは、名寄せの対象となるデータの範囲を明確にすることです。どのシステムや部門のデータを統合するのか、どの項目を基準に照合するのかを定義しましょう。
この段階では、データの件数や登録形式、入力ルールのばらつきなどを確認し、現状の問題点を洗い出します。情報の重複や欠損がどの程度あるかを把握することで、後続の工程で必要な作業量を見積もれます。
2. 必要なデータの抽出と確認
次に、名寄せに必要なデータを抽出し、内容を確認します。対象データをすべて統合するのではなく、分析や業務目的に応じて必要な情報だけを取り出すことが重要です。
たとえば、顧客データの名寄せであれば、氏名・住所・電話番号・メールアドレスといった照合に必要な項目を選定します。抽出後は、文字コードやフォーマットの統一など、システム間で扱える状態に整えておきます。
3. データクレンジング(表記ゆれ修正・不要データ削除・欠損補完)
データクレンジングは、名寄せの精度を左右する重要な工程です。入力ミスや表記ゆれ、古い情報などを修正・削除し、データの品質を整えます。
たとえば、「株式会社」と「(株)」を統一したり、「東京」と「TOKYO」のような表記の違いを修正したりするケースがあります。また、不要なデータを削除し、欠損している情報を確認して正しい内容に更新することで、マッチングの精度を高められるでしょう。この段階でデータの整合性を保てるかどうかが、名寄せ全体の成果に大きく影響するといえます。
4. データマッチングによる統合
整備されたデータをもとに、同一人物・同一企業を特定し、重複関係を整理・統合します。これが名寄せの中心となる工程です。氏名や住所、電話番号などの一致率を基準に照合し、同一と判断されたレコードを1件にまとめます。
完全一致だけでなく、類似度の高いデータを突き合わせることで、表記の揺れや入力ミスにも対応できます。統合後は、どのデータを採用したのか履歴を残し、検証可能な状態を維持することが重要です。
5. 継続的なメンテナンスと品質管理
名寄せは一度行って終わりではなく、継続的な管理が欠かせません。新しいデータが追加された際にも同様の基準で名寄せを行い、品質を一定に保つ必要があります。
定期的にデータの重複や不整合をチェックし、必要に応じてルールを見直すことが理想的です。運用ルールを文書化して共有することで、担当者が変わっても一定の品質を維持できます。継続的なメンテナンス体制を整えることで、長期的に信頼できるデータ基盤を築けます。
名寄せの具体的な方法
名寄せを実施する方法には、手作業で行うものから自動化されたシステムまで、いくつかのアプローチがあります。目的やデータ量、組織の規模によって最適な方法は異なります。ここでは、代表的な3つの方法を見ていきましょう。
Excel・スプレッドシートで行う基本的な手法
ExcelやGoogleスプレッドシートを使った名寄せは、比較的少量のデータを扱う場合に適しています。関数やフィルタ機能を活用して、重複データや不一致を手動で確認・修正します。
たとえば、VLOOKUP関数やCOUNTIF関数を使えば、同一データの抽出や照合が可能です。また、TRIM関数やCLEAN関数などを使って不要なスペースや特殊文字を削除し、表記を整えることで、マッチング精度を高められます。
ただし、データ量が多い場合や複雑な条件を含む場合は、Excelだけでは限界があります。属人的な作業になりやすいため、定期的な更新や再現性を保つのが難しい点も課題です。小規模な名寄せや初期の整理段階に向いている方法といえるでしょう。
専用ツールやシステムで行う効率的な方法
一定以上のデータ量や複数システムをまたぐ名寄せを行う場合は、専用ツールやシステムの導入が有効です。これらのツールは、データクレンジングやマッチング機能を自動で実行し、精度の高い統合を短時間で実現できます。
たとえば、住所や企業名の正規化、重複検出、マッチングルールの自動設定など、人手では時間のかかる作業の自動化が可能です。また、CRMやSFAと連携し、定期的なデータ更新や同期を自動化できる製品も多く、継続的なデータ品質管理に役立ちます。
導入時には、自社データの形式や運用体制に合ったツールを選ぶことが重要です。精度だけでなく、運用のしやすさやサポート体制なども比較して検討しましょう。
AIや機械学習を活用した高度な名寄せ
近年では、AIや機械学習を活用した名寄せが注目されています。これらの技術を用いることで、単純な文字列の一致にとどまらず、意味的な類似性や文脈を踏まえた照合が可能になります。
たとえば、「ABC株式会社」と「エービーシー(株)」のような表記ゆれや、「山田太郎」「Taro Yamada」といった異なる言語表記の同一人物も、自動で高精度に判定。AIモデルが学習を重ねることで、名寄せの精度はさらに向上していくと考えられます。
大量のデータを扱う企業や、グローバル展開している組織では、こうしたAIベースの名寄せが非常に効果的です。導入コストは高めですが、人的工数の削減と品質の両立を図れる点で、今後の主流となる方法といえるでしょう。
名寄せを実務で活かし、成功させるポイント
名寄せを一度実施しただけでは、長期的な成果にはつながりません。継続的に運用し、組織全体でデータ品質を維持する仕組みを整えることが重要です。ここでは、名寄せを実務に定着させ、効果を最大化するためのポイントを紹介します。
導入前に整備すべきルールとアルゴリズムを選定
名寄せの効果を高めるには、実施前の準備が欠かせません。特に重要なのが、データ入力や管理に関するルールの整備です。部署ごとに入力基準が異なると、どれだけ名寄せを行っても再び不整合が発生します。
たとえば、「株式会社」や「(株)」の表記統一、郵便番号や電話番号のフォーマット統一といった基本ルールを定めておくことが有効です。また、名寄せに使用する照合ルールやマッチング方式も事前に検討しておく必要があります。完全一致・部分一致・あいまい一致など、どの基準を採用するかを明確にし、データ特性に合った手法を選ぶことが精度向上につながります。
個人情報保護やセキュリティを踏まえたデータガバナンス体制
名寄せでは、顧客の住所や氏名などの個人情報を扱うケースが多く、適切なセキュリティ対策が求められます。アクセス権限の設定や暗号化、ログ管理を徹底し、データが不正に利用されない仕組みを構築することが基本です。
また、個人情報保護法などの関連法令を遵守し、目的外利用を防ぐための社内ルールも整備する必要があります。データを扱う担当者に対する教育や監査体制を整えることで、安心して名寄せを運用できる環境がつくれるでしょう。ガバナンス体制が確立されていれば、名寄せの品質だけでなく、組織としての信頼性も高まるといえます。
継続的なデータメンテナンスと改善サイクル
名寄せは一度行えば終わりではなく、定期的な見直しと更新が不可欠です。新規データが追加されるたびに重複や不一致が発生する可能性があり、それを放置すると再びデータの信頼性が損なわれます。
定期的に名寄せを実施し、基準やルールを最新の業務状況に合わせて更新することが理想です。さらに、名寄せの結果を検証し、どの部分で誤判定や漏れが起きたかを分析して改善を重ねることで、品質は徐々に向上します。この継続的な改善サイクルが、長期的なデータ資産の価値を支える鍵となります。
自動化ツールと人手確認の最適なバランス
名寄せを効率化するためには、自動化ツールの導入が有効ですが、すべてを自動処理に任せるのは危険です。機械的な判断では対応しきれない曖昧なデータや、特例的なケースが存在するため、人の目による最終確認が欠かせません。
たとえば、AIが高確率で同一と判断しても、実際には異なる顧客だったというケースがあります。こうした誤統合を防ぐには、ツールによる自動処理と人の判断を組み合わせる運用が最も効果的です。ツールで作業時間を短縮しつつ、人の知見で精度を担保するバランスを取ることが、名寄せ成功の重要なポイントです。
名寄せの実施を検討すべきケース
名寄せはすべての組織で必要というわけではありません。しかし、業務の仕組みやデータ管理の状況によっては、早急に取り組むべきケースがあります。ここでは、名寄せの実施を特に検討すべき代表的な3つの状況を紹介します。
複数のシステムを使って顧客情報を管理している場合
企業がCRM、SFA、会計ソフトなど複数のシステムで顧客情報を扱っている場合、同一顧客が異なるIDで登録されることがあります。部署ごとに管理体制が異なると、同じ顧客に複数の記録が存在し、更新内容が共有されにくいです。
たとえば、営業部では最新情報が登録されているのに、サポート部門では古い住所のままという状況が起きやすく、対応のずれや重複連絡の原因になります。
こうした非効率を防ぐには、システムを横断して顧客情報の重複や不整合を整理する名寄せを行うことで、統合されたデータ基盤を構築できます。全社的に一貫したデータ基盤を整えることで、部門間の連携もスムーズになるでしょう。
古いデータと最新データの整合性が取れていない場合
長期間にわたってデータを蓄積している企業では、古い情報と最新の情報が混在しているケースが少なくありません。住所や担当者、企業名などが変更されたにもかかわらず、古いデータが残ったまま更新されていないことがあります。
この状態で名寄せを行わずに分析やマーケティングを実施すると、実際の状況と乖離した結果が出てしまいます。過去データと現在データの整合性を保つためにも、定期的な名寄せと情報更新が欠かせません。特に、古いシステムから新システムへ移行する際は、データ統合の一環として名寄せを行うことが推奨されます。
営業・マーケティングでデータ活用を進めたい場合
顧客データをもとに営業戦略やマーケティング施策を立てる場合、データの正確性は成果を左右します。名寄せがされていない状態では、同一顧客が重複してカウントされたり、連絡先が古いままだったりと、施策の効果が正しく測定できません。
名寄せによって正しい顧客単位でデータを整理すれば、購入履歴や問い合わせ履歴などを統合的に把握できます。その結果、より的確なターゲティングやパーソナライズ施策が可能になります。営業・マーケティングでデータを資産として活用したい企業にとって、名寄せは基盤整備の第一歩といえるでしょう。
まとめ:名寄せで正確なデータ基盤を整え、業務効率と成果につなげる
名寄せは、正確で一貫性のあるデータを維持し、組織全体の業務効率や意思決定の質を高めるために欠かせないプロセスです。重複や不整合を放置すれば、営業・マーケティングの成果だけでなく、顧客の信頼にも影響を及ぼします。
まずは、自社のデータ管理状況を見直し、どのシステムや部門で情報のばらつきが生じているかを確認してみましょう。そのうえで、初期段階ではExcelなどで小規模な名寄せを試しつつ、必要に応じて専用ツールやAIの導入による自動化を検討するとよいでしょう。
正確なデータ基盤を整えることは、単なる効率化にとどまらず、企業全体の成長を支える重要な投資です。名寄せを継続的に実施し、信頼性の高いデータ活用を進めることで、業務の精度とスピード、そして成果の最大化につながります。
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