
データ活用を進めているはずなのに、会議のたびに数字が食い違ったり、部門ごとに同じ指標が別の意味で使われていたりする──。データの普及が進む一方で、こうした違和感を抱えている企業は少なくありません。
背景にあるのは、データそのものではなく、「誰が何の目的で、どのルールに基づいてデータを扱うのか」という前提が整理されないまま、活用だけが先行している状態です。権限管理が曖昧になり、定義が統一されず、結果として意思決定の精度やスピードに影響が出てしまいます。
こうした課題に向き合うための考え方が、データガバナンスです。データガバナンスは一部の先進企業や大規模組織だけの取り組みではなく、データを使って判断するすべての組織にとって不可欠な基盤といえます。
本記事では、データガバナンスの目的や役割を整理したうえで、「目的・責任・ルール」を軸にした体制の考え方、実務で進めるための5つのステップ、つまずきやすいポイントとその回避策までを、現場目線でわかりやすく解説します。
目次
データガバナンスとは
データガバナンスとは、企業内に散在するデータを「安全に、かつ価値ある形で使い続ける」ために、方針・ルール・体制を明確にし、それを継続的に運用していく取り組みを指します。
単なる規程整備やルール作成にとどまらず、データの定義や品質基準、アクセス権限、意思決定の責任範囲を整理し、誰がどの立場でデータに関与するのかを明確にする点が特徴です。目的は統制を強めることそのものではなく、利用と管理のバランスを保ちながら、組織として一貫性のあるデータ活用を可能にすることにあります。
一般的に、データ活用が進むほど、部門やプロジェクト単位で独自の指標や判断基準が生まれやすくなり、「同じ数字なのに解釈が違う」「どのデータが正なのか判断できない」といった混乱が起きがちです。さらに、権限や責任の所在が曖昧なままでは、修正や承認に時間がかかり、意思決定のスピードや現場の実行力にも影響が出てきます。
データガバナンスが機能している状態では、定義や判断軸が揃い、誰が何を決めるのかが可視化されるため、データに対する信頼性が高まり、無駄な手戻りを減らすことが可能になります。
また、データガバナンスは「守り」のための管理手法に限定されるものではありません。再利用しやすい形でデータを整備し、品質を保ったまま蓄積できる環境をつくることは、分析やAI活用を継続的に進めるうえで欠かせない前提条件です。短期的なリスク回避だけでなく、中長期的にデータ価値を高めていくための基盤として、データガバナンスは攻めのデータ活用を支える役割も担っています。
データガバナンスが求められる背景
データ活用が広がるにつれて、企業が扱う情報量は増加し、関与する部門や担当者も急速に広がっています。売上、顧客、業務ログ、外部データなどが日常的に意思決定へ使われるようになる一方で、それらを「どの状態で、誰が、どの前提で使うのか」が整理されないままでは、判断の精度やスピードを維持することが難しくなります。
そのため、データを単に集める段階から、経営や現場の判断に耐える状態を保つ段階へ進むためには、全社で共有できる統一した土台が不可欠になっています。
次に、データガバナンスが求められる背景について、詳細を解説します。
1.データ量増大とシステム分断による管理の複雑化
SaaSの導入や部門ごとの業務最適化が進むにつれ、データは複数のシステムに分散して蓄積されるようになりました。その結果、データが「どこに存在し、どこで更新され、どの経路で使われているのか」を把握しにくくなっています。
更新元が複数存在すると、同じ項目でも値が食い違い、「どのデータを正とすべきか」で迷う場面が日常的に発生します。さらに、システム連携のたびに項目定義や形式がずれ、加工や名寄せの手戻りが増えることで、分析やレポート作成に余計な工数がかかりやすくなります。
こうした状況では、「誰が管理責任を持つのか」「どこまでを共通ルールとするのか」を明確にしない限り、属人的な対応に依存した不安定な運用から抜け出すことができません。
2. 誤ったデータ利用による経営判断の誤りや信頼低下のリスク
データそのものが存在していても、定義や前提が揃っていなければ、意思決定の質は大きく損なわれます。たとえば同じ指標名であっても、集計条件や対象期間が異なれば、会議で示される数字は噛み合いません。その結果、議論が数字の正否確認に費やされ、本来検討すべき打ち手の議論が進まなくなります。
さらに、誤った前提に基づくデータを使えば、経営判断そのものを誤るリスクも高まります。こうした状態が続くと、「データは信用できない」という認識が組織内に広がり、せっかく整備した分析基盤が使われなくなる恐れがあります。
信頼を失ったデータは活用されず、最終的には勘や経験に依存した意思決定へと後戻りしてしまう点が、大きな問題です。
3. 個人情報保護法やGDPRなど法規制への対応必要性
個人情報や機密情報を扱う企業にとって、法規制への対応は避けて通れない前提条件です。目的外利用や過剰な権限付与が放置されると、情報漏えいや不適切利用につながり、企業としての信用や事業継続に重大な影響を及ぼします。
特に、個人情報保護法やGDPRのような規制では、「誰が、どの目的で、どの範囲までデータを扱えるのか」を明確にし、その運用を継続的に管理することが求められます。法規制対応は一度ルールを整えれば終わりではなく、権限付与や利用状況の見直し、監査記録の保持といった運用を継続する必要があります。
こうした観点からも、責任の所在や判断プロセスを含めて整理するデータガバナンスの重要性は、年々高まっています。
データガバナンスを実施する目的
データガバナンスの目的は、データ活用を一時的な取り組みで終わらせず、継続的に成果を生み出せる状態をつくることにあります。信頼性・安全性・再利用性を整えることで、意思決定や業務運用の前提となる「共通の土台」を組織全体に行き渡らせます。
次に、詳細について解説します。
信頼できるデータによる意思決定の質向上
経営判断に用いる数字は、定義や算出ルールが揃って初めて同じ意味を持ちます。指標の前提が部門ごとに異なる状態では、数字そのものよりも「どれが正しいか」を確認する作業に時間が奪われ、判断が遅れがちになります。
データガバナンスでは、指標定義、算出元データ、更新頻度、責任者といった前提情報を明確にし、誰が見ても同じ解釈にたどり着ける状態を整えます。その結果、会議での数字確認に費やす時間が減り、施策や打ち手の検討に集中できるようになります。
リスクとコンプライアンスの両立
データ活用が広がるほど、情報漏えい、目的外利用、権限の過剰付与といったリスクも高まりやすくなります。リスクを恐れて利用を制限しすぎると活用が進まず、緩めすぎると事故につながるため、両立を前提とした設計が欠かせません。
データガバナンスでは、個人情報や機密情報を適切に分類し、利用目的、アクセス条件、保管期間、ログ取得の方針までを整理します。誰がどの判断を行い、どの記録が残るのかが明確になることで、監査にも耐えうる運用が可能になり、安心してデータ活用を拡張できるようになります。
部門横断でのデータ再利用と生産性向上
部門ごとに似た集計や加工を繰り返す状態は、時間とコストの両面で無駄が生じやすく、属人化の温床にもなります。共通の定義や利用ルールが整えば、同じデータを何度も作り直す必要はなくなります。
再利用を進めるためには、データの所在、意味、品質、利用条件が把握できる状態が不可欠です。データガバナンスによってこれらが整理されると、問い合わせ対応や個別確認が減り、必要なデータに迅速にたどり着ける環境が整います。その結果、分析や業務改善に使える時間を増やすことができます。
AIや高度分析を継続的に進めるための基盤整備
AIや高度な分析は、データの品質や統制が不十分な状態では成果が安定しません。学習データの由来や更新ルールが曖昧なままでは、モデルの再現性が保てず、改善のサイクルも回りにくくなります。
データガバナンスでは、学習や分析に使うデータについて、定義、品質基準、変更管理、権限管理を明確にします。これにより、分析結果の前提が揃い、モデル改善や検証を継続的に行える基盤が整います。AI活用を一過性で終わらせず、業務に定着させるための前提条件といえるでしょう。
データガバナンスで定めるべき6つの要素
データガバナンスを機能させるには、あらかじめ押さえるべき要素があります。要素を揃えると、運用が属人化しにくくなり、改善も回しやすくなります。
次に、定めておくべき6つの要素について解説します。
データ活用方針と基本原則
データ活用の方針が曖昧なままでは、部門ごとに判断基準がばらつきやすくなります。活用の目的、優先順位、守るべき前提を文章で示し、「何を目指し、何を避けるのか」を共通認識として持つことが重要です。
基本原則はできるだけ簡潔にまとめ、例外の扱いまで含めて定めておくと運用が安定します。「目的外利用をしない」「最小権限で扱う」といった判断軸を明確にしておくことで、現場が迷わず行動できるようになります。
役割と責任の明確化
データに関する責任の所在が曖昧だと、品質低下や権限の放置が起きやすくなります。誰が意思決定を行い、誰が運用を担い、誰が支援するのかを整理しておくことが欠かせません。
役割を定義する際は、「決める」「承認する」「実行する」という観点で切り分けると整理しやすくなります。あわせて、問い合わせ窓口やエスカレーション先を決めておくことで、判断が止まらずに進む体制を作れます。
データ定義と品質基準
同じ用語や指標でも意味が異なる状態は、分析結果の不一致や誤解を招きやすくなります。指標や項目の定義、算出ルール、対象範囲を揃え、誰が見ても同じ解釈にたどり着ける状態を整えましょう。
品質基準は「正確性」「完全性」「最新性」などの観点で定めます。あわせて、基準違反をどう検知し、誰が修正を担うのかまで決めておくと、実務で判断に迷う場面が減ります。
統制プロセスと承認ルール
ルールが存在しても、変更や例外時の手順が定まっていなければ、運用は形骸化しやすくなります。統制プロセスは、現場で実際に回せる粒度まで落とし込むことが重要です。
たとえば、定義変更、権限付与、データ公開、品質是正といった場面ごとに承認経路を決めます。申請条件、必要な根拠、対応期限を明確にしておくと、処理が滞りにくくなります。
メタデータ管理と可視化
必要なデータにたどり着けない状態では、再利用は進みません。メタデータ管理の目的は、データの所在、意味、更新頻度、利用条件が一目で分かる状態を作ることです。
メタデータには、項目の説明だけでなく、所有者、作成元、利用例といった情報も含みます。検索や閲覧がしやすい形に整えることで、問い合わせ対応や属人化を減らせます。
アクセス制御と監査
データ活用の範囲が広がるほど、権限管理と証跡の重要性は高まります。過剰な権限付与や目的外利用を防ぐには、個人の注意に頼らず、仕組みで担保する発想が必要です。
アクセス制御は、データ分類に応じて付与条件を定めます。監査では、誰がいつ何にアクセスしたかを追えるログと、定期的な点検ルールを整備しておくと、安心して活用を広げられます。
データガバナンスを担う4つの役割
データガバナンスは、特定の部門だけで完結する取り組みではありません。役割を分けて責任の所在を明確にすることで、判断が属人化せず、意思決定や運用が止まりにくくなります。
次に、実務で押さえておきたい4つの役割を整理します。
役割1.エグゼクティブスポンサーが決めること
エグゼクティブスポンサーは、データガバナンスを全社の優先事項として位置づける立場です。データ活用を単なる「守りの統制」ではなく、経営課題として扱う姿勢を示すことが重要です。
具体的には、取り組みの目的やスコープ、投資判断、部門横断での調整方針を決定します。現場同士で意見が割れやすい論点が生じた際には、最終判断を下す役割も担い、推進力を保つ役割を果たします。
役割2.データオーナーが決めること
データオーナーは、特定の業務領域におけるデータに責任を持つ立場です。「売上」「顧客」「商品」など、業務ドメイン単位で設定されることが一般的です。
担う範囲は、データ定義、品質基準、利用条件、公開範囲の決定です。定義変更や例外対応の承認者として機能することで、「誰が決めるのか分からない」状態を防ぎ、運用上の迷いを減らせます。
役割3.データスチュワードが回すこと
データスチュワードは、定められたルールを日常業務の中で回す実務の中心です。定義や品質を維持するための具体的な運用を設計し、現場からの問い合わせにも対応します。
主な役割は、メタデータの整備、品質チェック、是正対応の調整、利用者向けの教育や周知です。「データについてまず相談する先」としての窓口機能を持たせることで、属人化や混乱を防ぎやすくなります。
役割4.データ基盤・情シス・管理部門が支えること
データ基盤や情報システム部門は、ガバナンスを実現するための仕組みを技術面で支える役割です。権限管理、アクセスログ、データ連携、品質監視などを整備し、ルールを仕組みとして定着させます。
管理部門は、法務・コンプライアンス・監査の観点からルールの妥当性を確認します。運用が形骸化しないよう、定期的な点検や改善サイクルに関与することも重要な役割です。
データガバナンス体制の3つの型
データガバナンスは、組織の事情に合わせて体制の組み方を選ぶ必要があります。あらかじめ代表的な型を理解しておくと、自社の制約や優先事項に照らして、無理のない体制を選びやすくなります。
型1.中央集権型が向くケース
中央集権型は、全社で統一ルールを強く効かせたい企業に適した体制です。データ基盤部門やデータ統括組織が中心となり、データ定義や品質基準、承認フローを一元管理します。
共通指標を横断的に利用する場面が多い企業や、監査・統制要件が厳しい業種では効果を発揮しやすいでしょう。一方で、現場の実態と乖離すると判断待ちが増えやすいため、例外対応や現場の声を吸い上げる仕組みを併せて設けることが重要です。
型2.フェデレーション型が向くケース
フェデレーション型は、全社統制と部門裁量のバランスを重視する企業に向きます。全社では最低限の共通ルールやガードレールを定め、実務レベルの定義や品質管理は各ドメインが主体となって担います。
事業内容やデータの性質が多様で、単一のルールでは回りにくい企業に適した設計です。全社側は標準の策定や監督に集中し、部門側は現場に即した運用を行うことで、統制とスピードの両立が図れます。
型3.分散型が向くケース
分散型は、各部門が自律的にデータ活用を進めている企業に向いた体制です。意思決定や運用の多くを部門側に委ね、全社では最低限の共通ルールのみを定めます。
スピードや柔軟性を確保しやすい反面、定義のばらつきや権限管理の抜け漏れが起きやすい点には注意が必要です。共通ルールの範囲を意図的に絞り、監査や可視化で後追い統制を行う設計が現実的です。
データガバナンスの型を選ぶ3つの判断軸
体制の型は理想像から逆算するよりも、組織の現実に合わせて選ぶほうが失敗しにくくなります。次の判断軸を持つと、納得感のある設計に近づきます。
事業の多様性
事業が単一で業務プロセスが揃っている企業は、全社標準を適用しやすく、中央集権型との相性が良い傾向があります。共通ルールを強く効かせても、現場の摩擦は比較的抑えやすいでしょう。
一方で、事業が多角化している場合は、データの意味や利用シーンが部門ごとに異なります。全社統一を過度に進めると運用が窮屈になり、形骸化しやすいため、フェデレーション型や分散型を検討する余地があります。
データ成熟度
データ成熟度は、基盤の整備状況だけでなく、定義や品質を継続的に守れる運用力も含みます。ルールを決めても守り切れない状態では、体制が形だけになりがちです。
成熟度が低い段階では、統一範囲を最小限に抑え、確実に回せる領域から始めるほうが現実的でしょう。成熟度が高まるにつれて、役割分担や標準を段階的に広げると運用が安定します。
統制要求
個人情報や機密情報を多く扱うほど、統制要求は高まります。監査や証跡が求められる環境では、承認フローやアクセス管理の強度を先に定める必要があります。
統制要求が高い企業は、全社で揃える領域を明確にし、中央集権寄りの設計を選ぶケースが多いでしょう。統制要求が比較的低い場合は、スピードを重視し、裁量を広く持たせる体制も選択肢になります。
【5ステップ】データガバナンスの進め方
データガバナンスは、最初から完成形を目指すと定着しにくくなります。重要なのは、決める範囲と回す仕組みを段階的に広げていくことです。
次に、現場で無理なく立ち上げ、継続できる5つのステップを整理します。
STEP1.現状の課題と目的を言語化する
最初に行うべきは、「なぜデータガバナンスが必要なのか」を明確にすることです。指標の定義が揃わない、権限が曖昧、品質チェックの手戻りが多いなど、現場で起きている具体的な困りごとを洗い出します。
そのうえで、到達したい状態を短い言葉で定義します。たとえば「経営会議で使う数字を一つに揃える」「個人情報の利用状況を追跡できるようにする」といった形です。
目的は欲張らず、最小限に絞ることが重要です。目的が多すぎるとスコープが膨らみ、合意形成や立ち上げが止まりやすくなります。
STEP2.対象スコープを決める
次に、「どこから始めるか」を決めます。スコープは「どのデータを、誰が、何のために使うか」で整理すると明確になります。対象となる業務領域、指標、データソースを特定しましょう。
初期フェーズでは、小さく始めるほうが運用が回りやすくなります。売上や顧客など、影響範囲が大きく、効果が見えやすい領域から着手すると納得感を得やすいでしょう。
また、スコープ設定時には関係部門の合意が欠かせません。利用側と提供側が同じ前提を共有しておくことで、後工程の摩擦を減らせます。
STEP3.体制を作る
スコープが決まったら、次は「誰が決め、誰が回すのか」を明確にします。エグゼクティブスポンサー、データオーナー、データスチュワード、支援部門といった役割ごとに責任範囲を整理しましょう。
あわせて、意思決定の流れを設計します。定義変更、権限付与、例外対応など、判断が発生する場面で誰が決めるのかを固定すると、運用が滞りにくくなります。
ここで重要なのは、体制を重くしすぎないことです。会議体や承認フローは頻度と論点を絞り、必要な人だけが関与する形にすると回りやすくなります。
STEP4.ルールと成果物を作る
体制が整ったら、運用に必要なルールと成果物を作ります。最初から網羅的に作るのではなく、最低限必要なものに絞るのがポイントです。
代表的な項目は、指標定義、データ分類、アクセス基準、品質基準、変更管理のルールです。成果物は、誰が見ても同じ判断ができる形にまとめます。用語集であれば、「定義」「算出方法」「対象範囲」「更新頻度」「責任者」を揃えると誤解が減ります。
また、証跡を残す仕組みも欠かせません。権限付与や定義変更の履歴が残ることで、監査対応だけでなく、トラブル時の原因特定にも役立ちます。
STEP5.教育と定着を進める
最後は、ルールを現場で使われる状態にすることです。利用部門向けの説明や、日常業務の中で参照しやすい導線を整えることで、形骸化を防ぎます。
例外対応の設計も重要です。例外の申請条件、期限、代替策を事前に決めておくと、現場判断で運用が止まるリスクを減らせます。
運用が始まったら、改善サイクルを回します。品質指標、問い合わせ件数、例外の発生状況などを確認しながら、ルールと体制を少しずつ更新していく流れが現実的です。
データガバナンスの失敗しやすいポイントと回避策
データガバナンスは、設計が正しくても運用でつまずきやすい取り組みです。典型的な失敗パターンを先に知っておくと、立ち上げの成功確率が上がります。
次に、実務で特に起きやすい失敗と、その回避策を整理します。
ポイント1.スポンサー不在で止まるのを防ぐ
スポンサーが明確でないと、部門間で利害が衝突した際に判断が下せません。定義の統一や権限調整といった論点が宙に浮き、結果として活動そのものが停滞しがちです。
回避策は、スポンサーの役割を明文化し、意思決定の場をあらかじめ用意することです。目的、優先順位、スコープ、例外の最終判断をスポンサーが担う前提を共有します。
スポンサーの稼働が限られる場合は、短時間の定例枠を設け、「決めるべき論点だけを持ち込む」運用にすると現実的です。
ポイント2.スコープを広げすぎて崩れるのを防ぐ
全社の全データを一気に統制しようとすると、設計が複雑化し、合意形成だけで時間が消えていきます。成果が見えないまま関係者が疲弊し、活動が立ち消えになるケースも少なくありません。
回避策は、対象領域と指標を明確に絞り、成果が可視化できる単位で始めることです。経営会議で使う指標や、個人情報を含むデータなど、影響が大きい領域から着手すると効果を実感しやすくなります。
あわせて、スコープごとに成果指標を設定します。「定義が統一された指標数」「問い合わせ件数の減少」など、変化が追える指標を持つことが重要です。
ポイント3.ルール先行で形骸化するのを防ぐ
詳細な規程やガイドラインを作っても、現場で参照されなければ意味がありません。運用手順や例外対応が曖昧なままだと、ルールは守られず、形だけ残る状態になりがちです。
回避策は、ルールを最小限に絞り、業務で使う前提で設計することです。申請方法、承認条件、期限、判断例まで具体化すると、現場で迷いにくくなります。
特に効果的なのは、よくあるケースを例示することです。「顧客データを外部に提供する場合」「分析用にデータを抽出する場合」など、判断に迷いやすい場面をあらかじめ扱っておくと定着しやすくなります。
ポイント4.ツール先行で運用が回らないのを防ぐ
ツール導入を先に進めると、目的が曖昧なまま機能だけが増え、「導入したが使われない」状態に陥りやすくなります。登録や更新の責任が曖昧なまま、形だけ残るケースも典型例です。
回避策は、現場の困りごとから必要な機能を逆算し、運用設計を先に固めることです。データカタログであれば登録責任者と更新頻度、品質監視であれば是正担当と期限まで決めます。
PoCでは、機能面だけでなく運用負荷も確認します。登録にかかる時間、承認の滞留有無、問い合わせ件数の変化などを評価軸にすると判断しやすくなります。
ポイント5.現場の負担や反発を抑え、使える運用に落とす
統制を強めすぎると、現場は「仕事が増える」と感じやすくなります。その結果、申請の形骸化や抜け道が生まれ、ガバナンス自体が形だけの存在になりかねません。
回避策は、現場にとってのメリットを明確にし、負担を最小限に抑えることです。「探す時間が減る」「問い合わせが減る」「判断が早くなる」といった実務上の利点を具体的に示します。
また、運用は例外を前提に設計すると回りやすくなります。例外の条件と期限を定め、標準に戻す道筋を用意しておくことで、現場の反発を抑えながら統制を維持できます。
【部門別】データガバナンス体制を整えるために最初にやること
データガバナンスは、全社一律の進め方では定着しにくい取り組みです。部門ごとに担う役割や視点が異なるため、最初に着手すべき論点も変わります。自部門の役割に合った一手目を置くことで、議論が空転せず、立ち上げを現実的に進めやすくなります。
最後に、部門別にデータガバナンス体制を整えるために、最初に実施すべきことを解説します。
経営企画・DX推進が最初にやること
経営企画・DX推進の役割は、データガバナンスを「現場任せの管理」ではなく、経営課題として位置づけることにあります。ここが曖昧なままだと、部門ごとに解釈が分かれ、合意形成が進みません。
最初にやるべきことは、達成したい成果を短い言葉で定義することです。「経営会議で使う数字を揃える」「データ活用を止めずに統制できる状態を作る」など、判断軸になる目的を明確にします。あわせて対象領域を絞り、意思決定の場と最終判断者を先に決めておくことで、後工程の停滞を防げます。
情報システム・データ基盤が最初にやること
情報システム・データ基盤部門は、ガバナンスを実現するための“土台”を支える役割です。データの所在や連携関係が見えない状態では、権限や品質の議論自体が前に進みません。
最初の一手は、対象スコープ内のデータソースを棚卸しし、データの流れと責任者を紐づけることです。どこで生成され、どこに集まり、誰が管理しているのかを可視化します。そのうえで、権限付与とログ取得について最低限守るべき要件を整理し、運用に落とせる形に整えることが重要です。
分析部門が最初にやること
分析部門は、データガバナンスの成果が最も表に出やすい立場です。意思決定に使う数字の定義が揃っていなければ、分析の妥当性や価値は正しく伝わりません。
最初に着手すべきは、重要指標を限定し、指標定義と算出ルールを明確にすることです。どのデータを使い、どの条件で集計しているのかを言語化します。あわせて、品質チェックの観点と修正時の連絡先を決めておくと、トラブル時に分析が止まらず、信頼を積み上げやすくなります。
セキュリティ・法務・コンプラが最初にやること
セキュリティ・法務・コンプライアンス部門は、リスクと規制対応の観点からガバナンスの下支えを担います。個人情報や機密情報の扱いが曖昧な状態では、活用の範囲を安心して広げられません。
最初に行うべきは、データ分類と取り扱い基準を整理することです。データごとに利用目的、アクセス条件、保存期間を定義し、監査に必要な証跡要件を明確にします。その内容を、権限申請や例外対応のルールへ具体的に落とし込むことで、現場と統制の両立がしやすくなります。
まとめ:データガバナンスの成功は「目的・責任・ルール」を言語化することから
データガバナンスは、立派な仕組みを作ること自体が目的ではありません。信頼できるデータを前提に、意思決定と現場運用を安定させるための取り組みです。
成功の分かれ目は、「目的」「責任」「ルール」を言葉にして揃えられるかどうかにあります。目的が曖昧だとスコープが膨らみ、責任が曖昧だと判断が止まり、ルールが曖昧だと運用が形骸化します。
そのため、最初は小さく始めるのが現実的です。優先度が高いデータ領域を1つ選び、重要指標を決め、データオーナーとスチュワードを置くところから着手しましょう。小さな成功を積み重ねることが、全社のデータ活用を前に進める近道です。
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